住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 人材戦略

女性活用で加速する変革。地域ゼネコンから地域共生企業へ 岡山県・佐藤建設

地域密着の建設業の置かれた現実と自ら起こした変化

佐藤建設株式会社
代表取締役 佐藤 公泰 様

実は「公共から民間へ」という方針を明確に決めて取り組んだというよりは、余儀なくされた、というのが正直なところです。公共事業、特に地方自治体からの工事発注を中心に経営計画を考えると、今や土木工事業者は経営計画の立てようもない状況です。また公共工事は大手ゼネコンの下請け事業と化してむしろそれがメインになってきました。仮に元請けの事業があったとしても極端な例では一つの工事に20社が群がるような状況で、これを落札するまでの過程はまるでくじ引きです。これが計画の立てようもないというのが実情です。

大きな転機。~公共から民間へのシフト~

それとは別に、民間に出ると決めた大きな理由がもう一つあります。それは企業努力があまりない領域から離れるということです。端的に言えば公共は工事の出来映えが70点80点でも合格ですが、しかし民間工事、例えば住宅工事なら100点は当たり前で120点を目指さないと顧客の満足を得られない。それどころかクレームすら発生する。自分たちの努力が評価に反映される仕事の方がうちには合っていたということです。

ちなみに、H14年に我が社はISO9001を取得しました。取得の動機は公共入札の必要性から取得した訳ですが、ISO9001はご存知のように「顧客の要求を満たす製品を供給し、顧客の満足度を強化することを目的とする組織に必要な要求事項を定めたもの」です。しかし、正直なところ当時は誰も本当の価値を理解していなかった。それは70−80%での出来でもOKが出る顧客を相手にした事業では顧客満足を生む顧客への接し方、もっと言えば顧客満足ということそのものを考える必要がなかったからです。
そんな中で、民間事業、住宅事業への進出です。今だから正直に言えば当時の役員は従来の事業での経験が豊富な方々で、もちろん当時の社長(現・会長)からの期待も高いものではありませんでした。そんなスタートでした。しかし、今は住宅事業に乗り出したことで顧客満足を常に考え、顧客への接し方も相当変えることができました。それまでは一つの工事で何億、何十億という規模の受注をしていた人間が、モデルなどの設備投資も今ほど無い中でも直接エンド顧客と接して、それこそドアノブ一個から受注につなげるようなことを積み重ねて信頼を築いてきました。

もう一つの大きな変化。それは女性の積極活用

典型的な地方都市を拠点とした地域型総合建設会社である我が社の組織風土は、元々はいわゆる男性社会であり、極端な話、女性の事務スタッフが談笑する際の笑い声さえうるさいと言われていたような会社でした。住宅事業に取り組み始めて変わったことは顧客満足だけではなく「女性の積極活用」が始まったことです。現在では全社の男女構成は構成50名中20名、40%以上が女性となっていますし、住宅事業(ベルホーム)だけで見れば15名、70%は女性となっています。
おかげで今は社内に華やかな笑い声が増えました(笑)。もちろんそれだけではなく、現場の美化とか細かいところをしっかりとやってゆく習慣や「誠実さ」もレベルアップしたことで、「指名される」住宅会社となっている理由になっていると思っています。

ところで。何故女性の積極活用を推進しているのかを考えると、実はこの先に我が社がやらねばならない、取り組まねばならないと決めていることにつながります。それは我々が求める、一緒に働きたいと思ういい男性人材が地元から出て行ってしまうという現実です。断っておきますが、この指摘は男性人材を優先したいのに希望通りに人材確保できないことを悲観しているという意味ではないです。むしろ男性でも女性でも地元の有望な人材と出会いたいのに、結果論としていい女性人材と接点を持つことができる割合だけが高くなっているということです。その結果女性の活躍を引き出し、我が社の大変な強みとなっていることは事実です。これはこれで今後とも我が社の強みとして活かしていきたいと考えています。
しかし、地域密着で事業を展開する我が社にとって、男性でも女性でも地元の有望な人材の確保は会社の将来性を考える上でも重要なことだと思っています。ですから、将来有望な男性人材が地元から出て仕事を探さなくても地元に働く場所がたくさんある、そんな地域にしなくてはならないと強く思っていますし、そうなることで自分たちが対峙する市場がさらに活性化するはずです。

ブランドがもたらしてくれた成果。人材投資の源

人は自分ではなかなか気づかないし成長しない。「そういえば、あの時ああ言ってくれていたなぁ」という段階で初めて気づきを得る成長プロセスが普通で、場合によっては気づきを得るまでの期間は長いかもしれない。そういう意味では、何年も経って人から言われたことで成長の気づきを得る前に、目の前で自ら経験を積んでもらうことで人材の成長を促すことができる方がいいと思っています。

ブランドが確立して高付加価値の商品サービスの提供が完成した結果、会社として得た成果は、「現場に委ねる」ことができるようになったことかもしれません。現場に任せた結果、多少のお金を失ってもチャレンジした社員が一生ものの気づきを得られるのであれば、それで人材が成長してくれるならば、十分に見あう人材投資だと思っています。

この先。佐藤建設がやりたいこと

この先、私たちがやりたいこと、やるべきことは「まちづくり」だと思っています。少し細かく言えば先ほどの話のように地元で雇用機会を増やすこと、そして自然と助け合いが生まれるようなそんな地域社会に向かってゆくためのお手伝いをしたいです。そのためには、これからの事業領域は単純に建設業だけではない可能性もあります。すでに動いている例としては、グループ会社の社会福祉法人を通じて新しいクリニックをオープンしています。これは地域に医療という「機能」を入れ込むというだけではなく、むしろ「場所作り」という考え方です。さらにこれをもっと広げて、例えば社会福祉法人を使って企業内保育サービスの提供なんかも考えたいです。例えばお取引もある某ジェネリック医薬品メーカーでも弊社と同じく雇用を確保したくても若者が確保できないそうです。そんな企業に企業内保育をサービスとして提供することなども考えています。
また、岡山市内に出した新しい事務所の場所は良い学区と言われている地域からなのか待機児童問題が目に見える状況です。もし可能であればオフィスの上も学童保育のスペースなどを作ることで「場所作り」に貢献したいと思います。
こうした考え方を徹底して、自分の会社を含めて地域企業の雇用に繋がってゆくような取り組みは継続したいのですが、そのために必須のこととして自社の企業規模を大きくしなくてはいけないということは心得ています。地域に貢献する企業であるためにも、本業を頑張りたいです。

ページトップに戻る