コラム:税制が持つ意義を考える /3号 2009/10

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~「子ども手当」の理念とは?~

ハイアス・アンド・カンパニー(株)取締役常務執行役員 川瀬 太志

来春にも実施 「子ども手当」

民主党の目玉政策のひとつ、「子ども手当」。中学校卒業までのお子さんに毎月26,000円を支給します。来春にも実施予定のようですが、それに伴い「扶養控除」と「配偶者控除」の廃止も検討されているようです。
「子どもがいない世帯にとっては実質の増税ではないか!?」などの声もあります。今後、様々な立場からいろんな議論がありそうです。こんな時、私たちはどう考えれば良いのでしょうね。

税制改正、「トクする?損する?」<それより大事なこととは?>

ファイナンシャル・プランナー(FP)の試験科目の中に「税金」(タックスプランニング)がありますが、私は大変苦手でした。勉強していた頃にいつも苦々しく思っていたのは、「税制度ってなんでこんなに複雑なのか!」ということ。それは税制度が、不公平さや抜け道がないかをよく考えて、修正に修正を重ねた結果として現在の制度があるからなんですね。
だから今回のように新しい税制度が出来る時、「どっちが得するか」とか「どっちが損するか」、「こういう家族構成の場合はどうか」、「こういう収入の人の場合はどうか」、などいろいろシミュレーションをするわけです。
税制改正にあたり、自分の家計を考えてそういうシミュレーションをするのはとても大事なことです。ただ、税金とは元々そういうものなのですが、「こちらを立てればあちらが立たず」といった性格があります。「公平さ」を大前提として制度設計はするものの、完全に皆が納得するような制度はそもそも不可能なのです。
だからシミュレーションも大事ですが、同時にそれぞれの税制に込められた意義は何なのかをよく理解することも大事だと思います。ある税制度を廃止したり、新しく作ったりすることは毎年税制改正で行われます。廃止するときには、「そもそもの目的は何だったのか?」、「その目的は達成されたから廃止するのか?」「上手くいかないから廃止するのか?」を考える必要があります。また新設するときには「その税制度によってどういう社会をつくりたいのか?」を考える必要があります。
それらをきちんと議論して国民が理解をしやすくするよう努めるべきですね。

「子ども手当」の意義とは?

それでは今回の「子ども手当」の意義はなんでしょうか?

民主党のマニフェストにはこうあります。
・子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会を作る。
・次代の社会を担う子ども一人ひとりの育ちを社会全体で応援する。
・相対的に高所得者層に有利な控除から中低所得者に有利な手当に切り替える。

日本は今将来のビジョンが描けない、「将来不安な社会」になっていますが根本的には日本の構造的な欠陥が解消されない限り、これは簡単には解決しない問題だと思っています。
その、日本が抱える根本的な構造的欠陥とは「生産年齢人口の減少」です。一般的に「少子高齢化」と言われるものですが、問題は高齢化よりも少子化、特に生産年齢人口(15歳~64歳)が激減していることです。この10年間で約400万人も減ったそうです。そして、これが今後も減り続けていくわけです。
この生産年齢人口の年代が、最もよく消費し、最もよく働き、最もよく税金や社会保険料を納めるわけです。この年代の人口がずっと減ってきて、さらにこの先20年以上は減り続けるわけですから、内需は増えるわけがありませんし、税収は落ちますし、年金財源は減る一方なのも当然ですよね。
大切なのは、生産年齢人口の減少を国家全体の問題と捉えて「子どもを増やすこと」です。10年後~20年後には今の子供たちが将来の私たちの日本を支えるための税金や保険料を払ってくれるのです。その頃には年老いている私たちの医療や介護や年金などの制度を支えてくれるのです。
もちろんそのためには、「子ども手当」だけではなくて、教育や保険制度や女性の働く環境づくりなどを一体的に考えていく必要があります。大事なのは、子どもがいる、いないに関わらず、「子どもは国の財産と考えて社会全体で育てる環境をつくること」。これが「子ども手当」の意義であり、理念だと私は理解しています。

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