コラム:実質と名目、実感に近いのはどっち?

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~デフレ対策がなぜ必要なのか?~

ハイアス・アンド・カンパニー(株) 取締役常務執行役員 川瀬 太志

<GDP実質4.9%成長 1~3月年率 4期連続プラス>
(日本経済新聞2010年5月20日付夕刊)
 『内閣府が20日発表した2010年1~3月期の国内総生産(GDP)の速報値は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.2%増、年率換算では4.9%増となった。プラス成長は4四半期連続。日本経済の着実な回復を裏付けた。 (中略) 個人消費が堅調で住宅投資も5期ぶりに伸びた。』

報道によると、日本経済が回復しつつあるそうです。いや、これホントですかね。果たして日本経済はホントに回復しているんでしょうか?

■「実質GDP」と「名目GDP」の違いとは?

今回の4.9%成長は「実質GDP」です。「名目」か「実質」の違いは、物価の動きを反映させているかどうかの違いです。「名目」とはGDP指標を集計した数字の合計です。「実質」とは「名目」から物価の上昇率(または下落率)を反映させた数字です。物価が上がっていれば「名目」からマイナス、下がっていればプラスします。

小売業で例えると、売上高が同じでも、その間の販売価格が10%下がっていたとしたら、それは販売数量が10%増加したということですね。この場合「実質」的には10%も成長していますよ、ということです。

お給料についても同じようによく「名目」と「実質」で語られます。今のような時代は名目上の賃金上昇率は「0」(もしくはマイナス)です。でもその間に物価が10%下がっていると、「実質賃金は10%増加している」と言われます。もし皆さんが社長から「わが社の今年の給料は5%減だ。でも世間では物価が10%も落ちているから、実質的には5%の増加だぞ。ありがたいと思え!」と言われたらどうですか?喜んでサイフの紐を緩めますか?

■問題の本質はやはり「デフレ」

日本はこの間ずっと「デフレ」です。
つまり物価がずっと「マイナス」です。

ずっと物価が下がり続けている「デフレ状態」の日本では、経済規模や給料が「名目」では増えていなくても、それ以上に「物価下落=デフレ」が進行しているから「実質」という統計上のデータではどんどん成長しているという場合がありました。これをもって、「実質的には成長しているから景気は回復しています!」と言われても、実感からいってどうでしょうか?給料で言えば、給与明細で支給額が実際に増えていないと「景気良くなったね!」とは普通は実感できないんじゃないでしょうか?

冒頭の新聞記事のように統計では実態を表すからと言って「実質」で語られることがままあります。でも私たち、一般消費者の心理からいうと、「名目」の方がわかりやすいんじゃないでしょうか。

今回発表のGDP統計では「名目GDP」も「実質GDP」も同じ1.2%の増加でした。つまり物価上昇率がほぼ「0」だったということです。でも決してデフレが止まったわけではなくて、今回は、野菜などの生鮮食品と石油などの資源価格が値上がりした影響や、エコポイント見直しなどで薄型テレビとエコカーの駆け込み需要が寄与したそうです。これらは一時的要因であり、次の第2四半期はまた物価は下落することが予想されています。まだまだデフレは解消していないのです。

結局、所得が伸びない限り、消費の大幅改善、そして本当の意味での実質的なGDPのプラス成長は見込めません。「名目」が「実質」を下回っている状態を解消する、つまり、デフレをストップさせない限り、本当の意味での景気回復はないと思います。政府には「景気回復」のために「バラマキ」ではなく、「デフレ対策」こそが重要だという認識を持ってもらいたいですね。

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