住宅産業のニューパラダイムを探す

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ハイアス・アンド・カンパニー(株) 代表取締役社長 濵村 聖一

この度の東日本大地震で被災された全ての方々に、心よりお見舞い申し上げます。被災地の早期復興を願って止みません。このような時だからこそ、被災していない地域の企業として、社会貢献を率先していける体制を構築して参りたいと存じます。

この度の震災は、日本の様々な分野での政策転換に大きな影響を与えるものと思います。その指針の一つ、特に住宅政策に関して、高い見識と豊富な経験をお持ちになっておられる戸谷先生の論文から一部引用させていただき、地域経済を担われる皆様の今後の活動の一助になればと考えます。

戸谷先生紹介画像

FTA時代の住宅需要と長期優良住宅
(「長期優良住宅の環境基盤等に関する調査・手法開発・情報発信」より引用)

アグリカルチュラル・アーバニズム

FTA「自由貿易協定」時代に入り、工業先進国と発展途上国との関係は、一つの経済市場の中での国際分業が進行する関係になり、その中で賃金の平準化に向かって、工業先進国の賃金は下降線をたどるのに対して、発展途上国の賃金は上昇し、そこでの食糧消費は飛躍的に拡大することが予測されている。

その結果、発展途上国の工業先進国向けの食糧輸出は縮小されざるを得なくなり、工業先進国での食糧生産が、マルサスの「人口論」的観点で取り組まざるを得ない状態が生まれている。そして、日本人の食糧自給問題が現実的な意味を持つようになってきている。

一方、右肩上がりの経済成長を背景にスプロールしてきた成長を進めてきた都市が、経済活動の低迷、人口減少、高齢化などの現象を反映して、これまでとは違った文化的な豊かさを目指した都市熟成(スマート・グロウス)に転換することが求められている。
お金を使わなくても、自らが自由な時間を使って、人間の絆を活かした生活環境を作るニュー・アーバニズムの計画理論が実践され始めている。

これが住宅都市問題(ニュー・アーバニズム)と農業(アグリカルチャー)とを、かつての対立的考えから、一体不可分のものとして考えるようになった理由である。

土地と一体になることで実現される長期優良住宅

一方、長期優良住宅の言う課題の登場は、住宅を都市環境の担い手であるとする欧米同様の「土地建物を一体の住宅不動産」という社会科学的に合理的な考え方に転換せざるを得なくさせている。土地の加工の仕方として、造成という段階もあれば、住宅建て付け地という形もある。宅地造成工事や住宅建築工事は、いずれも土地の加工工事であって、建設工事の成果は、住宅の建設された土地利用が提供する効用に吸収される。

また、住宅は、都市という生活の場を構成するものであって、都市全体の有機的な関係においてしか、居住者の期待する住宅の役割は果せない。住宅は都市又は農村の中に組み込まれて、「土地自体の一部と吸収され」、その土地に定められた土地利用の効用を果す。人の生活することのできない離島や、月に建っている住宅は、住宅性能表示制度で高い評価を受けた住宅を建築したとしても、住宅としての効用を全く果していない。

このように、住宅は、都市・農村で生活をする人びとの生活環境の一部の担い手であり、土地に取り込まれないで、住宅としての効用を発揮できるものではない。そして、住宅は、都市農村計画という人びとの社会的生活空間という都市・農村計画(マスタープラン)で造ろうとしている都市・農村空間環境形成の構成要素である。よって、都市・農村計画区域で住宅を取得する人々は、都市・農村基本計画(マスター・プラン)実現の担い手として、敷地ごとに定められた建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイドライン)を遵守することが求められる。

住宅地環境の担い手となる長期優良住宅

個人の住宅であっても、都市・農村計画で決められた建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイドライン)を遵守することによって、恒久的な都市空間の担い手になる。つまり、建築主の嗜好に合わせた自由なデザインの住宅を、個々バラバラに建築しても、そこで建築される住宅が、都市・農村計画として定められた住民のコンセンサスとしての基本計画(マスター・プラン)に適合した建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイドライン)に従って建築される限り、その住宅は都市計画法の空間環境の担い手となることができる。

個人住宅であっても、都市空間の構成要素として社会的に承認されたものは、建設された段階から、都市の「社会的な空間」の担い手としての社会的責任を負い、住宅所有者には、その健全な管理を義務付けられる。同時に、社会的な同意を受けること無しには、住宅の外観の改変は許されない。長期優良住宅とは、そのような社会的性格を持つことから、社会的に守られ、優良な社会資産として評価されることになる。

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