ドイツの環境先進住宅モデルから見る日本の将来 /4号 2009/12

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ドイツの集合住宅3番目は安全・安心です。バリアフリーであるとかユニバーサルデザインという言い方がよくされていますが、これらは必ずしも最初から完全である必要はないと思います。ドイツでは若い世帯が入居するような3~4階建ての集合住宅はバリアフリーにはなっていません。昇り降りは階段です。ここにエレベータを付けてしまうと1世帯あたりの維持管理の負担が非常に大きくなってしまうからです。そこで、後で必要になった時に外付けでリフォームできるような建物を建てておこうというのが最近のドイツの考え方です。また、子供部屋を作らないというのもストック価値を落とさないためのドイツの家づくりです。子供部屋を作ってしまうと後で改造コストがかかってしまい、物件を売買する際に価値が下がってしまいます。ですので、例えば寝室・子供部屋が必要になったら、全く同じできるだけ正方形に近い形の間取りにしたり、部屋割りに関しても後々価値のあるものは何なのかということを考えて作ります。将来、2戸の住宅をまとめて1戸に出来たり1戸を2戸にできたりという間取りと間仕切りを当初から考え建築しています。

4番目は健康です。最近、ドイツ・スイスでもシックハウスに関する議論が高まっています。新築の場合、必要換気量が定められていますので、換気扇を常に動かしていればそれで特に問題はないのですが、中にはそれだけでは心配する人もいて、エコ建材の使用を希望されます。しかしこれは大きな間違いで、エコ建材というのは「エコ」ではあるけれど、必ずしも体に良いというものではないのです。ですので、その場合はエコ建材を使うのではなく、知らない材料は使わないようにしたり、昔から使われてきた材料を使うことをお勧めしております。さらに、自主的にホルムアルデヒドやPVOCを測定する傾向になっておりますし、スイスではさらに一歩進んでいて、学校・企業・公共の施設が入居する建物では、PVOCの値が一定値以下でないと建物の引渡しはしないようになってきています。また、PVOCが基準値以下であるということを証明するためにエッフェルトという連盟が結成されて、エッフェルトが良い室内空気というものを「パス」として表示するようなシステムを確立しております。
一方、日本のホルムアルデヒド基準値は、4☆でWHO基準の約4倍、ドイツの基準からは実に約32倍ですので、今後益々基準が厳しくなり、室内環境の表示も必要になってくるのではないかと思います。

5番目は、省エネです。ドイツでは1984年に断熱政令というものが施行されました。これ以降、新築の建物に関しては設計図面、構造計算書、そしてエネルギー計算書を添付しないと建築許可が下りなくなりました。施工する会社の規模にかかわらず、全ての建物において、年間の燃料消費量が基準以下になるような建物でなければ建築できません。この断熱制度は年々改正されております。先日、ドイツ政府から2012年施行の改正値が公表されましたが、その基準を満たすには「暖房が要らない家」、すなわち熱交換機や空気を入れ換えする機械だけで、直接的な暖房が不要な家しか造れない事になります。断熱材は30-40cm位、窓はトリプル、屋根の庇であれ窓ガラスであれ太陽光を1年間うまく使えるような配慮がなされ、さらに空気交換時の熱効率が90%以上の非常に高い熱交換機を投入しなければならなくなります。一方、日本では次世代省エネ基準というものがあるのはご存じだと思いますが、10年間何も触れられていません。10年前と今では格段に技術進歩遂げていると思いますが、日本は毎年その値を厳しくしていくような努力をしてきませんでした。しかし、今後何も対策を行わないという事は考えにくいので、おそらく2012年には次世代省エネ基準が基準ではなく義務化されるのではないかと思います。

もう1つ、ヨーロッパの新しい動きとして、エネルギーパスの導入についてご紹介します。EU加盟国では、不動産売買・賃貸をする場合など不動産に関わる何らかの契約をする場合、売主や貸主は、買主や借主に対して、当該建物の燃費がどれくらいであるのかを正確に決められた形(エネルギーパス)で示さなければなりません。これまで賃貸物件に関してはエネルギーに対する関心が低かったのですが、エネルギーパスの導入により意識が高まってきます。これもおそらく日本でも導入される日が来るのではないかと思います。

ドイツのエネルギーパス

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