フライブルク(ドイツ)・ウィーン(オーストリア)視察

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世界を先導し続けるドイツのエネルギー政策

ドイツでは、全消費電力中の、再生可能エネルギーの割合(最終消費電力比)を2012年現在の22%から、2050年までに80%とする事を目標としています(図3)。

並行して、現在ドイツ国内は電力が余っており周辺国に輸出している状況で、余剰電力を国内で再利用するための新技術『Power to Gas(P2G)』が普及し始めています。余剰電力を使って水を電気分解し、水素を発生させた後、水素を二酸化炭素と結合させてメタンガス(つまり天然ガスと同じ成分)を合成し、利用するというものです(図5)。これで周辺国からの天然ガス輸入を減らすことも可能になります。『P2G』の推進のためには電力系統とガス系統のマスタープラン・ロードマップの策定と、更なる地域暖房とコージェネレーションシステムの推進が必要となるそうですが、この技術には大きな期待が持てます。

全消費電力の中の再生可能エネルギー割合

余剰電力からメタンガスを生成する仕組み

新築燃費基準の推移

政策の法的な話に移りますと、ドイツでは定期的に省エネ政令の改正が行われ、新築の燃費基準(ミニマムスタンダード)が年々厳しくなっていることがグラフから読み取れます(図5)。また、2021年1月1日からはニアリーゼロエネルギー建築(パッシブ基準の2倍レベル)しか建てられなくなるという事も決定しているそうです。

ストック改修のスピードアップ策と高断熱システム部材の普及

それではこれから、具体的にどのような取り組みが行われているか紹介したいと思います。住宅ストック4,050万戸のうち、新築住宅18万戸/年というドイツの市場では、新築住宅にて全ての住宅をパッシブレベルに持っていくには200年かかる計算になります。一方、ストックのうち少なくとも3,600万戸は省エネ改修の余地がある為、改修工事費10%の助成金を付けるなどのアメの政策により、改修を促しています。住宅ストックの1.5%に当たる約55万戸/年という現在の改修スピードを、約2倍の100万戸/年にまで引き上げ、2050年までに古いストックの改修を一巡させる為の政策が打ち出されています。中でも屋根断熱に関しては、既存住宅に何かしらの手を加える際には、必ず同時に規定レベル以上の屋根付加断熱をすることが義務付けられているため、一層普及が進んでいます。

続いて、省エネ改修は国の熱負荷を削減する効果だけでなく大きな経済効果があることにも触れておきたいと思います。改修工事費に10%の助成金という話をしましたが、消費税19%のドイツでは単純に考えても、国は10%の投資をして19%が返ってくる(9%のプラス)という算段になります。この他、民間投資効果も莫大で、雇用の創出など省エネ改修はドイツ社会に様々なプラス効果をもたらしています。

さて、厳しい省エネ法に断熱改修が盛んなドイツですが、実際に工事をする工務店はどのように対応しているのでしょうか。日本では、今年施行の改正省エネ法や2020年の省エネ義務化などに適応することが難しい工務店も少なくないと言われています。一方ドイツでは、省エネ建築のノウハウは一般化され、そもそも普及している建材が時の法律に合致しているものなので、適応できないという事態が起きません。窓が一番分かりやすい例ですが、U値1.0以下が義務化されているので、そのレベル以上の窓しか販売されていません(日本の最高基準:U値2.33)。外壁ですと、断熱材や構造躯体を兼ね備えた層の状態で、1つのシステムとして売り出されています。それぞれの工務店がもつノウハウとしてではなく、誰でも手に入れられる商品として一般に存在するのです。工務店はそのシステム商品をラインナップとして取り扱うのですが、施主にとっても住宅に備わる当然のスペックとなるので、そこにこだわることはあまりなく、工務店にとってもそれが特別なウリになることもないといいます。

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