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ベルリンでの視察先として報告するのは、3 年前の2011 年12 月、ベルリン工科大学の近くにオープンしたベルリン・プラスエナジーモデルハウスです。この実験ハウスは発電住宅と電気自動車との相乗効果(持続可能性、実用性と市場性)についての調査、計測を目的とした住宅です。(当時として)最新のエネルギー効率を高める技術、例えばヒートポンプや屋根とファサード表面を覆う最新の太陽光発電システムによって、まさに住宅が「発電所」となる実験計画。住民が必要とするエネルギーより多くのエネルギーを生成(ゆえにプラスエナジーハウス)し、さらに生成されたエネルギーを高性能な電池に蓄え、自宅の充電ステーションにおいた電気自動車の燃料として電気の供給も可能にしていました。
このプロジェクトをどのように評価するか。多様な見方があると考えられますが、地域工務店にとって参考になるか?という視点では、基本的には高効率な機器を用いることで省エネルギー(この場合はプラスエネルギー)を実現するものであり、簡単に取り入れにくい要素が多そうな実験住宅でした。
ハンブルクはドイツ北部に位置する、ベルリンに次いで2 番目の人口規模の都市。最近のトピックスとしては、環境政策分野において2011 年に「EU 環境首都」に選ばれる等、欧州地域の中でも水と緑と歴史遺産に恵まれた「環境都市」創造の様々な取り組みには、学ぶべきものがあるといえます。
ハーフェンシティはエルベ川の中州にあり、元々港湾エリアとして機能していた地域で、市中心部から1km弱の近距離に位置するエリアです。2001 年以降、順次エリア別に開発が行われていき、2025 年完成予定の計画で、延232 万㎡の床を整備する欧州最大の都市再生開発が行われています。この事例で注目したのは、2007 年から認証制度「ハーフェンシティ・エコラベル」という認証制度を通じ、エリア内の持続可能な環境不動産の供給促進を支援する仕組みです。
● エネルギー消費抑制の持続可能な管理。
● 水使用量の抑制等の持続可能な管理。
● 環境に配慮した建材の使用促進。
● 健康や福祉環境への配慮促進。
以上のような観点について、建築申請時に計画内容をもとに金、銀2段階で事前認証を行い、販売時点から建物への入居者が、建物のサスティナブル(持続可能性)性能を確認できるように運用されているそうです。ちなみに、このエリアでは住宅建築の70%以上の金のエコラベル認証取得が目標となっているそうです。
日本でも建物の環境性能認証については、国交省も支援する建物総合評価「CASBEE」や、ドイツのエネルギー評価制度を取り入れ、地方自治体でも採用され始めた「エネパス」等、多様な制度や基準が広がりつつあります。この状況を言い換えれば、評価の付与が住宅不動産の資産価値の維持向上に繋がる市場の形成が、日本でも着実に進み始めている段階にあるとも言えます。ハンブルクで運用されているような評価の仕組みが、持続可能なまちづくりを支える利用者と供給者との価値を共有しつなぐための基盤であることを理解し、地域工務店や不動産会社においても認証制度に関する情報のキャッチアップをきちんと行うことが必要だと考えます。
ハンブルク市内エルベ川中州のヴィルヘルムスブルク地区に位置し、市中心部から3km 程の距離に位置し、面積:3,500ha にわたるエリア。立地条件や移民としての経緯を持つ外国人が多い場所であることなど、開発対象にならず放置されていたため居住環境は年々悪化していた地区。
ヴィルヘルムスブルク地区で注目した点は実験住宅が集中的に建設されたエリアの存在です。そこでは、新しい住宅デザインの実験とその価値に共感する比較的裕福な外部からの居住者層が中心となり地域の価値を向上させる仕掛けが行われています。ここで注目した新しいデザインの実験とは、木質の外観を持つ実験住宅の供給です。
木を多く使うことで、建物ライフサイクルにおける総CO2 排出量を抑制する考慮と、周辺の自然環境や多様な生物との融和、調和の観点から、例えば鳥などが近づきやすい豊かな住環境がもたらす地域価値の創造を実現する取り組みということです。
建物単体の省エネルギー性能向上の次にくる、ライフサイクルを考慮した持続可能な住宅の建て方、すなわち「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)」の視点をもった実験が、既に始まっているということです。日本の環境政策は欧州の施策を追随する傾向があります。とすればこのようなLCCM 住宅供給に関しても、あまり遠くない将来に実験段階へと進むことは十分考えられます。その際にベルリンでみたような機器による性能向上というアプローチではなく、「木」が本来持つ効果を再認識し活用した住宅のファサードつくりは、ある意味日本的なアプローチであり、地域工務店にとっては取り組みやすい手法といえるのではないでしょうか。
フライブルクはドイツ南西部のスイスとフランスの国境に程近い地域に位置し、交通機能が集約され、住環境も計画的に整備された環境先進都市として、まちづくり政策に対する高い評価を受けている都市です。
フライブルクにつきましては本誌vol.20 やvol.25 でも、実践されている既存住宅の断熱改修による家賃の上昇など経済活動を拡大する取り組みについて詳細な報告をさせていただきましたが、今回フライブルクで注目した点は、地域の自立のためのエネルギー創造の様々な取り組みです。
紹介するのは、農家が牛糞を燃料にして立ち上げたバイオマス発電の施設です。地域の資源を使い、地域の自立(FIT 制度でこの施設も採算ベースに乗っている)のためのエネルギーを自ら賄うことはこれからの日本にとっても大変参考になる観点です。今回の視察レポートのタイトルにある「持続可能な社会」に地域工務店や不動産会社がいかに関わることができるか、という切り口は何も建物を建てたり取引したりでなく、このような地
域資源の活用に関わるということも事例として参考になるのではないでしょうか。
最後に、ロンドン・レッチワースでの事例をご紹介いたします。レッチワースは、20 世紀初頭ロンドン郊外に1900 年代にハワードがマスタープランを作成し、設計ガイドライン、規約を基に財団が経営管理して成功した「田園都市」の事例と言われています。
※ 本誌vol.20にもロンドンについての記事がございます。そちらもご参照ください
規約をもとにした組織としての住宅地の景観や機能の維持向上という行為は、残念ながら日本の大半の住宅地では行われていません。しかし、レッチワースのように(既存の街並みの維持管理に加え、新たな街並みつくりも含めた)美しい街並みの形成が資産価値形成に繋がっている事例を見聞するにつけ、日本でも住宅地の景観や機能を維持管理、向上することが住宅不動産の資産価値に繋がるという共通理解について、まずは啓蒙、広めることから始めるべきだと痛感します。このあたりの役割も、建築や取引に精通する地域工務店、不動産会社がとるべき今後の方向性を示していると言えます。
4都市での視察・見聞を終え、改めて今後の日本で顕在化する社会課題に対して地域工務店、不動産会社が果たすことができる様々な機会と役割を認識することができました。
例えば
● 既存住宅を含む住宅の高性能化
● 生物多様性に配慮した住宅地開発
● 自然素材の活用による環境性能と資産価値の向上
● 街並み景観維持のための評価認証、住宅地経営
● コミュニティ規模での再生エネルギー提供サービス
● 地域林業再生ビジネス
● ソーシャルキャピタルを支えるコミュニティサービス
● 適切なメンテナンス、アフターサービスによる資産価値維
従来の高性能住宅というハードの提供にとどまらず、住宅単体の単位を超えた街区単位で考える価値向上に資する事業や、地域コミュニティとの協働によって住環境を保全する役目を率先する取り組みなどは、まさに地域工務店、不動産会社しか提供できない、強みを発揮した事業となるはずです。
さらに視野を広く持てば、環境性能を高めるために地域材の積極活用への取り組みは、建材の地産地消を背景にした地域雇用拡大と経済の活性化にも資する大きな貢献です。
このように建物を建てるだけではない、継続的なサービス事業にこれからのビジネスチャンスが見出せるはずであり、地域工務店、不動産会社が住宅不動産の資産価値向上に取り組みやすいよう、私たちも多様な支援を行っていきたいと考えています。(馬渕)
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