ハイアス総研レポートNo.8
「住生活基本法の見直し」と「宅建業法を一部改正する法律」の意味
見えてきた住宅建設業、不動産取引業から

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はじめに

今まで当たり前と思っていたこと、あるいは慣れ親しんできたことが変わるタイミングでは、ルールの変更への対応に際して、誰にでも不安や負担感が生じるでしょう。ただ社会の構造が変わり、それまでのルールでは不都合が起こることが分かっているのであれば積極的に変え、それを受け入れてゆくことは必要であり、大切なことです。

2015年度、住宅不動産業界に関連する法律でも見直しや改正が行われました。中でも特に大きな改正や見直しは、「住生活基本計画(全国計画)」の見直し」(※3月閣議決定予定)と「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」(※閣議決定済み)でしょう。この二つの改正は、未来の豊かな住生活の実現とそれに寄り添う住宅不動産業のあり方を指し示す内容となっています。

住宅不動産業が強い経済に貢献する

住宅政策の憲法ともいうべき住生活基本法は、計画期間10年、概ね5年ごとに見直しをして豊かな住生活の実現の基本的な方向性を示すものです。今回の見直しでは、背景にある社会構造の変化に、高齢化、少子化、空き家、その背景にあるコミュニティの希薄化、そして住宅ストック活用型市場への転換の遅れといったことが挙げられ、それらに対応して【3つの視点と8つの目標】が掲げられています(図表1参照)。私たちはその中でも、住宅ストックからの視点にある目標「住宅循環システムの構築」と産業・地域からの視点にある目標「強い経済の実現に貢献」に注目しています。

<住生活基本法(全国計画)案 目標と基本的な施策 (図表1)>
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出典:住生活基本法より作成

なぜ住宅を循環させる必要があるのか。これには日本経済のあり方を真にストック経済化させるための基礎、要であるからに他なりません。直近の日本のGDPの約6割は家計消費によって構成されています。つまり家計消費を拡大させることは日本の成長に直結しているのです。ところで家計が財布の紐を緩めるには、現在時点で手元のお金を使っても、将来の不安がない場合、先々の収入が増え資産が貯まっている状態にある場合と考えられます。

本稿では詳細は省きますが、景気全般や収入の将来見通しへの期待は高くない状況(※HyASViewデータ集ページを参照)では、投資した保有資産が真に「資産となる」ことで将来不安が小さくなり、消費を増やす決断につながる循環を生み出せるのです。「強い経済に貢献する」住宅の資産化は、住宅不動産業にしかできない取り組みなのです。

住宅の資産化には様々な捉え方があると思いますが、経済の活性化という点では市場価値を高めることと言えるでしょう。即ち、期待する値段と時間で売ったり貸したりできる状態にあるということです。そして、そのためには売ったり貸したりする公平な市場が成立していること、取引対象である住宅が高い性能と良い品質が備わり維持されていることが重要となります。

住生活総合サービスへの発展

図表2は新たな視点で住宅ストックを区分した図です。高い品質を備えていないストックの存在は、約2,200万戸+約600万戸の性能向上リフォーム市場の可能性と約900万戸の建て替え市場の可能性とも読み取れます。さらに、建物の性能向上と品質良化を「建設業」の機会とする取組に加えて、性能向上によって住まい手の寿命より長寿命化する住宅寿命をきちんと世代間で引き継ぐために、取引時に性能や品質を評価、表示することも重要となるでしょう。こうした考えを具体化したのが宅建業法の一部改正にある、インスペクションのあっせん義務化と、重要事項説明や契約書での説明の義務化です。

<社会資本整備審議会住宅宅地分科会(第46回)>                 (図表2)
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(参考資料:「新たな住生活基本計画」より)

以上のように、ただ建てる、ただ取引するだけから、ストックの資産化につながるためのサービスである、高性能な建築、性能品質の維持向上、取引時の評価と表示といった一連の住宅循環システムに「総合的に」関与できるサービス提供体制を自社内で、あるいは連携して準備し、建設業、不動産取引業から「住生活総合サービス」へと進化することが求められる時代に突入したと言えるでしょう。

(ハイアス総研 矢部)

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