ハイアス総研レポートNo.10
「土地政策の新たな方向性2016~土地・不動産の活用と管理の再構築を目指して~」を読んで

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2. 方向性を目指す上で具体的に示された「キーワード」

以上のように新たな土地政策の方向性が示されましたが、報告書ではあわせてその実現に向けた施策展開として4つの基本的な考え方と当面の主な施策も示されています。4つの考え方とは、[1]最適活用の実現、[2]創造的活用の実現、[3]最適活用・創造的活用を支える情報基盤の充実、[4]放棄宅地化の抑制に示されています。

考え方の中には様々な視点から具体的な実現に向けたキーワードが示されています。今回のハイアス総研レポートでは4つの考えにまたがる、注目すべきキーワードを抽出しました。

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以下、抽出したキーワードについてまとめたいと思います。

(1)公民連携と新たな連携

● 社会資本のストック効果を高める土地活用等を進めるための関係者の調整が
 円滑に開始できる場づくり

● 行政、住民、宅建業者等の協議会等を通じ、空き家・空き地を寄付等により
 地域全体や市場で活用する取組を支援

報告書には以上のような記述で、これまでの行政から示される都市計画によるコントロールだけではなく、行政・民間の区別なく、むしろ協働して土地利用の最適化、経済効果やまちづくりに資するような利用を考える動きを進めるという内容が示されています。またそうした動きをより活性化する前提として協働の「場つくり」も必要であることが示されています。

とりわけ不動産の有効活用を検討する「場」において、民間の中でも専門知識を持つ建築や不動産事業者の存在は大きなものとなるはずです。

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(2)クラウドファウンディングと不動産特定共同事業

● 耐震化、環境改修、成長分野関連施設の再生等を促進するための
 不動産特定共同事業の充実

● クラウドファンディング等の小口資金による空き家・空き店舗の再生に対応した
 不動産特定共同事業の枠組み検討

以上のような記述もあります。不動産特定共同事業とは、投資家が出資等を行い、不動産会社等の専門家が事業主体となって実物不動産取引により運用し、収益の分配を行う事業です。この法律はその業務を行う事業者の要件を定めるために制定されたものですが、この仕組みを専門家の立場として活用することで地域の資源である土地不動産の活用や流動性を高めることをビジネスチャンスとすることが可能になります。

さらに、事業資金の調達方法としてクラウドファウンディングという手法にも言及されています。これは新たな製品やサービスの開発などの実現のために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金の出資や協力を募る手法ですが、特に小規模単位の事業の資金調達において事業者にはスピードや手軽さ、支援者には気軽に小額の寄付や投資を通じて社会的貢献ができるなど、双方にとってメリットのある新しい資金調達方法として理解をしておくべきキーワードです。

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(3)情報基盤整備(IT化)とオープンデータ

● ITを活用した「空き家・空き地バンク」の標準化、一元化などを通じた効果的な
 マッチングの実現

● 行政の保有する土地・不動産情報のオープン化
 (データの種類・提供方法の拡充)を促進

情報基盤の整備とオープンデータというキーワードも重要です。経営資源が「ヒト・モノ・カネ」から「ヒト・モノ・カネ+情報」と言われて久しいですが、住宅不動産関連ビジネスでは残念ながらストックデータが公的な資産であるという理解が形成されず、その結果取引における情報の非対称性の問題は未だに国内の不動産取引の流動性を低める要因の一つとなっています。また、不動産取引の過程では周辺情報を調べあらかじめ示すことは専門家である不動産会社の善管義務、あるいは信義則上の義務と言われています。そうした義務が課せられる業界にとって周辺情報が行政機関などに点在する現状も取引活性化の阻害要因の一つです。こうした状況の改善として、昨今はオープンデータという考え方の大切さが注目されています。

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まとめ

今回紹介した報告書は、一見すると難しいそうで方向性とか考え方といった少し遠い話に見えます。しかし、若干のタイムラグや程度の差こそあれ、今後の建設不動産産業のあり方に少なからず影響を与えるメッセージであることは間違いありません。

ハイアス総研として特に注目しているのは、従来のように、新たに後世に残る資産価値の高いストック形成に貢献するだけではなく、今後は、すでに十分に蓄積した不動産ストックをどのように活かして行くかを考える仕事の仕方と、その実現のための金融などの仕組みの理解、さらには今以上に「情報の大切さ」を理解すべきであるということです。

例えばIT化投資とその効果を高める施策として、AMSのCMA機能の活用やBMS・家価値の活用による「地域不動産データベースを自ら作り活かす」ことで地域の情報戦をリードする、あるいは放棄宅地の抑制といった大きな社会課題の解決に貢献すべく、新しく提供を開始した「不動産相続の窓口」で提供するノウハウを活かしビジネスチャンスを拡大する、など私たちハイアスが提供するツールやノウハウ、仕組みを「自らうまく活用すること」で、地域産業をリードする優良カンパニーに成長するチャンスを広げるものになると信じています。

ハイアスでは、このような常に時代の最新情報を捉えて、会員の成長と持続可能性を支援してゆきます。

(ハイアス総研 矢部)

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