日本と異なる環境下での民泊事業と高性能住宅生産システムを学ぶ
〜経営研究会特別補講2017フランス・ドイツ〜

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はじめに

弊社が開催する経営研究会では、日頃なかなか得ることのできない新たな知見や、これからの市場において自社を成長に導くヒントを得ることを目的として、海外の現地を視察する「特別補講」を年2回開催しています。

今回、2017年6月の視察では、経営研究会修了生を中心に全国から集まった22名で、フランスとドイツを訪問。歴史的資源を活用した観光大国での民泊事業と、高性能住宅の生産システム、持続可能な住宅産業のあり方を視察してまいりました。

訪問レポート1 観光大国フランスにおける民泊事業

フランスは、言わずと知れた観光大国であり、2015年の国際観光客到着数は8,445万人と世界第一位に位置します。特にパリ市内等ではホテルの稼働率が高く、民泊の需要も非常に大きいことから、以前から重要拠点として民泊のビジネスが進んでいます。視察では、世界的に民泊ビジネスを展開するAirbnb, Inc.(本社:米国・サンフランシスコ)とHomeAway, Inc.(本社:米国・オースティン)のパリ支店をそれぞれ訪問しました。

パリの民泊ビジネスは、当初イメージしていたものと少し違い、観光客を呼び込んでビジネスを行うための受け皿を拡充するという側面よりも、不動産を有効活用して「市民の収入をサポートする」という側面が強いということでした。その背景には、物価上昇や年金額低下、家賃相場の高騰など、市民がパリ市内で暮らしてゆく上で経済的な困難が生じており、自宅を貸し出さないと生活が苦しくなってきているということがあります。

民泊業界としては、このような社会情勢に乗じ、どんどん規模を拡大していきたい意向があるようでした。

しかし、民泊ビジネスの無秩序な拡大に対するホテル業界からの強い圧力があり、ロングバケーションの空き時間に家を貸す「お小遣い稼ぎ」程度以外では、事業として乱立しないような法規制の強化が続いているという現状も伺いました。例えば本宅を貸しに出す場合は、年間の貸出日数が4か月を超えると多額の罰金が科されるとか、商業目的でセカンドハウスを貸し出す場合も、パリ市内では貸し出したい物件と別に倍以上の面積の長期賃貸物件を持っていることが条件となるなど、年々規制が厳しくなる方向に向かっているそうです。フランスでの民泊は、パリ市民の生活を支えることとのバランスをどのように舵取りしていくのかが今後の課題だと思われます。


街の規模や貸し出す物件によって異なる複雑な規制

日本でも国際観光客数の増加を図っています。2013年の国際観光客到着数は1,036万人でしたが、2015年には1,974万人に、2016年には2,403万人へと急増しています。さらに国策によって2020年までに4,000万人超へと増加させようとしています。わずか数年で2倍近くに増え、さらにその倍を目指す際、それだけの旅行客を受け入れるキャパシティは現在の日本にはなく、ホテル不足が訪れることは必至です。

先ごろ日本でも民泊法が可決されました。早ければ2018年1月に施行される予定ですが、日本人にはバケーションの概念が乏しく、また自分の家を他人に貸すことへの抵抗感も強いことから、個人が自身のストックを活用することに任せているだけでは、観光客4,000万人時代の対応策にはなりにくいと考えられます。ストック活用と民泊ソフトウェアをうまく組み合わせて事業化するようなパッケージの開発が日本では必要とされてくるでしょう。民泊を「新しいビジネス」として考える上で今回のパリ訪問は大変示唆に富む話を伺うことができました。

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