なぜ定年がなくならないのか?なぜ賃上げをしないのか?

今回は、働き方シリーズの第3回目です。人生100年時代における企業の定年制度や国の雇用制度、そして私たちの働き方について考えてみます。

 

■定年はなくならない?

人生100年時代を迎えると言われる中、高齢者国家として十分な年金制度が維持できそうもない日本。順次遅らせてきた年金支給開始の基準年齢は65歳であるため、現在多くの企業が採用している「60歳定年」を見直す動きを政府主導で進めてきています。
2013年施行の改正高年齢者雇用安定法以降、企業は希望者全員を65歳まで雇用することが義務付けられています。
日本の企業は、(1)定年制の廃止、(2)定年の引き上げ、(3)嘱託や契約社員として再雇用する継続雇用制度のうちいずれかを採用しなければならないことになっています。
さて、企業の定年制度は今どうなっているのでしょう?
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<65歳定年3社に1社 収入維持、シニア士気向上>
(2018年3月30日付 日本経済新聞)
『60歳定年が日本企業の8割を占めるなか、給与水準を維持してシニアの士気を高める定年延長を選ぶ動きが広がってきた。日本経済新聞社が29日まとめた「社長100人アンケート」では2割の企業が定年を60歳から65歳に延長する意向を示した。導入済みを含めて、65歳定年が3社に1社に達する。ただ世代交代の停滞などを懸念する意見も多い。シニア活用と若手の育成を両立した人事戦略が一層求められる。』

さて、すこしずつ「実質的に65歳まで定年延長」が拡がってきているようです。
これまでの企業の対応で最も多かったのは、(3)再雇用による雇用維持制度です。60歳前後でいったん退職をして、多くの場合は給料が下がったかたちで65歳まで再雇用されるという制度です。2017年の厚生労働省調査によると全体の80.3%が(3)再雇用制度を採用しています。
そして、(2)定年の引き上げは17.1%。(1)定年制の廃止はわずか2.6%です。

労働人口が減少するなかで景気が回復している今は働き手の確保が経営課題になっています。記事では、多くの企業が条件を下げずに65歳まで雇用延長する実質的な定年延長を導入しはじめているとしています。働き手にとっては良いことかもしれませんね。

しかし、企業側はこのデメリットとして、世代交代の停滞や総人件費の増加をあげています。働き手は確保したいけど総人件費は抑えたい、という企業の苦しい懐具合が見え隠れしていますね。
さて、これからの雇用制度はどうなるのでしょうか?

 

■厳しい労働規制は雇用を不安定にする?

いくら景気が良くなっていて人手不足だからと言っても、なかなか定年延長や定年廃止にまで踏み込める企業はこの先も多くはないと思います。

どこまで行っても日本の企業は雇用に関しては慎重なのです。
雇用と景気を安定化させたい政府は、企業に対して、「65歳まで働けるようにしなさい」、「もっと賃上げをしなさい」、「非正規ではなく正規雇用しなさい」と一生懸命に旗を振っていますが、企業側の腰はとても重たい。今年のベースアップもだいたい3%程度とこじんまりとしたものになりそうです。

なぜ、定年制は廃止できないのでしょうか。なぜもっと賃上げしないのでしょうか。
ひとつの要因は、日本の解雇規制が厳しいことです。
日本の企業が従業員を解雇できるのは「もう解雇しないと倒産する」くらいのケースに限られていて、いったん採用したら解雇はもちろん、労働条件を下げることすらなかなか難しいのです。そんな中、定年制度というのは、誤解を恐れずに言ってみれば企業に認められたほぼ唯一の合法的な解雇制度です。

終身雇用制度は終わったなどと言われていますが、原則自由に解雇は出来ないのですから企業にはいまだに長期雇用が義務付けられています。正社員として採用したなら定年までは雇用します。ベースアップしたら給与はもちろん、企業側が負担する社会保険料や退職金もすべて増加します。
雇用に強い責任をもっている経営者ほど採用や賃上げには慎重になる構造があるのです。

解雇規制を残したままだと、政府が労働保護のために規制を強化すればするほど企業側は慎重になります。無理のあるルールや国の方針はむしろ雇用を不安定にするのです。

 

■ドイツの経済を強くした構造改革とは?

今の日本が参考にすべきはドイツだと思います。
ドイツはここ数年好景気を謳歌してEU経済を引っ張っています。その要因のひとつが有名なドイツの労働市場の構造改革、通称「シュレーダー改革」だと言われています。

2003年、不景気にあえいでいたドイツの時の首相、シュレーダー氏は「アジェンダ2010」と名付けた構造改革プログラムを発表しました。改革の柱は労働市場改革と社会保障制度改革です。
それまでのドイツは労働組合が強く、解雇は事実上不可能。一方で失業手当や生活保護が手厚いため労働者は強く守られていました。そこで、シュレーダー改革では、法律を改めて、解雇をしやすくするとともに、失業手当や生活保護の支給期間を短縮しました。過保護な労働制度が労働者の就業意欲を低下させ、それが企業の活力を停滞させている元凶だと考えたわけです。

結果どうなったか。
余剰人員を抱えていた企業が人員削減に走り、失業者が急増。2005年には失業者数は500万人を突破し、失業率は12.7%まで悪化しました。シュレーダー政権は国民から猛烈なブーイングをあびて2005年に退陣に追い込まれます。
しかし、シュレーダー改革の成果の果実は次のメルケル政権が得ることになります。シュレーダー改革がターゲットとしていた2010年には失業者は300万人以下となり失業率も7%まで低下しました。強いドイツ企業が復活し、国民の給与も増えました。GDP成長率も3%台を回復し、以降今に至るまでドイツは国際競争力のある輸出大国となっています。

ドイツの構造改革は、「雇用を守る」という見え方からはほど遠いですね。硬直化した労働市場を壊して、経済の新陳代謝を行いました。短期的には失業者を増やしましたが、雇用の流動性が高まったことでドイツ企業は強い競争力を取り戻し、労働市場はその後に拡大しました。他のEU諸国の企業に比べて、強い競争力を取り戻したことで失業率は大幅に低下し、給与も増えたのです。
一時は大ブーイングだったシュレーダー氏は今では真の指導者であったと再評価されています。

 

■今こそドイツに学び「日本版シュレーダー改革」を

改革前のドイツの姿はまさに今の日本のようです。
日本でも解雇規制の見直しは常にテーマアップはされていますが、実現には程遠い状態です。今政府が取り組んでいる働き方改革の中にはまったく出てきません。
例えば、不当解雇の金銭的解決には確かに反対も多いでしょう。こんなことをテーマにあげたらきっとマスコミも「クビ切り自由化法案」などと揶揄するのでしょう。

現実にはブラック企業ほど不当な解雇をしているし、泣き寝入りしている従業員は少なくありません。だから企業には解雇するなというよりも解雇するなら確実に金銭を支払うことを義務付けた方がいいのではないかと思います。
従業員の方も負担が大きい労働裁判をするくらいなら、さっさとお金をもらって次の仕事に向けて前向きにスキルアップをする方がいいのではないでしょうか。国も雇用を規制するより、これからの時代を生き抜くためのスキルアップを支援する方に予算を充てた方がいいと思います。シュレーダー改革以降のドイツでは失業者や未就業者のスキルアップのための職業訓練や資格取得などを積極的に支援しています。

企業としても、もし雇用規制が緩和されるならもっと柔軟な雇用制度を取るようになると思います。熟練した技能を評価したい企業は定年制度を廃止するかもしれないし、若くて成長意欲の高い若者を確保したい企業は賃上げもするでしょう。
なにせ日本は人手不足です。労働力の確保が企業の成長を左右する時代なのです。
多様な雇用制度を用意できない企業は働き手側から選ばれなくなります。

日本は長期間にわたっての高度経済成長などはもう見込めません。ですから長期雇用を前提として定年制度を運用するようなスタイルはもう合わないのです。「日本版シュレーダー改革」は、労働人口が減って、働き口が多くある今こそやるべきだと思います。

今のまま、頑張っても賃上げしてもらえないような制度のままでは、若者はスキルを上げる意欲も上がらないのではないでしょうか。定年までは何もしなくても雇用が確保されるなら、50歳を過ぎたら頃から新しいことにチャレンジもしない人が多いのではないでしょうか。

政府も企業も働き手も、今のままでいいのだろうかとよく考えたいものです。

今回は以上です。
次回もお楽しみに。

2018年4月3日 火曜日 18:59 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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