「雇用が増えても非正規でしょ」という批判を考える

今回は雇用形態についてです。「非正規が増えている」といいますが、実際のところどうなのでしょう。

 

■完全失業率は低下、消費者の不安は和いでいる

「GDPが伸び悩んでいる」とか、「消費が増えない」、「物価がなかなか上昇しない」といったことなどから、「政府の景気対策は失敗している」と批判されている報道などをよく目にします。
しかし、この「失業の不安が和らいだ」というのは大きな成果ではないかなと思います。
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<失業不安 21年ぶり低さ 6月54%、消費者心理を下支え>
(2018年7月29日付 日本経済新聞)
『失業への不安が和らいでいる。日本リサーチ総合研究所によると、今後1年間に自分や家族が失業する不安があると答えた人は6月時点で54.2%と、4月の前回調査から4.7ポイント低下した。1997年8月調査以来、約21年ぶりの低さだ。賃金の伸びは緩やかでも、失業不安の後退が消費者心理を下支えしている。』

失業の不安が和らいでいるのは今の日本経済が人手不足だからですが、その背景には景気回復だけではなくて、生産年齢人口の減少なども確かにあります。
ただ、景気対策の目的のひとつは「失業をなくすこと」であることを考えると、失業不安が低くなっていることはひとつの成果と言えると思います。

完全失業率はこの5年で4.0%(2012年)から2.8%(2017年)まで低下しました。3%が完全雇用状態の目安と言われていますから、現在は「求めればなんらかの仕事には就くことができる」状況だといえます。

これは国民にとっては安心な状況ですよね。

 

■「でも、どうせ非正規でしょ」という批判

総務省の「労働力調査」(平成29年度)を元にこの5年の雇用状況変化を見てみましょう。

人口が減ってはいますが、実際に働いている人は増えています。

・総人口
2013年 1億2,741万人 → 2017年 1億2,673万人(68万人減)
・総就業者数
2013年 6,326万人 → 2017年 6,530万人(204万人増)

ただ、「雇用が増えた」というと必ずこういう反論があります。
「雇用が増えたといっても増えているのは非正規雇用ではないか。」
「今や労働者の約4割は非正規雇用。正規雇用と待遇差のある非正規雇用が増えて国民の格差は増すばかりではないか。」

こういった批判ですが、本当のところはどうなのでしょうか?

 

■非正規雇用が増えたのは?統計をよく見ると…

労働力調査をじっくり見ると、どうもそんな感じでもない様子です。
確かに非正規雇用は増えています。ただ、正規雇用も増えています。雇用者全体が増えていますからね。

・雇用者総数(役員を除く)
2013年 5,222万人→ 2017年 5,469万人(247万人増)
(内訳)
・正規雇用
2013年 3,311万人→ 2017年 3,432万人(121万人増)
・非正規雇用
2013年 1,911万人→ 2017年 2,036万人(125万人増)

雇用者総数のうち、非正規雇用の割合は、
2013年 36.6%→ 2017年 37.2%
と確かに増えてはいます。ただ4割には達していません。

もう少し詳しく、雇用状況を年代別に見てみます。
では非正規雇用が増えたのはどの年代なのでしょう。

<2013年→2017年の非正規雇用の割合>
15~24歳  48.7%→47.3%(-1.4ポイント)
25~34歳  27.3%→25.8%(-1.5ポイント)
35~44歳  28.9%→28.6%(-0.3ポイント)
45~54歳  32.2%→32.3%(-0.1ポイント)
55~64歳  47.8%→47.1%(-0.7ポイント)
65歳以上  71.5%→74.4%(+2.9ポイント)

非正規雇用が増えているのは「65歳以上の年代」だけですね。
それ以外の年代はほぼ横ばいか少し減っています。

また男女・年代別にみると、非正規雇用割合が増えているのは、多い順に以下の通りです。
1)女性 65歳以上 割合 73.7%→78.1%(+4.4ポイント) 
  総数 87万人→146万人(59万人増)
2)男性 65歳以上 割合 69.9%→71.4%(+1.5ポイント) 
  総数 117万人→170万人(53万人増)
3)女性 55~64歳 割合 67.5%→67.6%(+0.1ポイント) 
  総数 257万人→273万人(16万人増)

上記以外のカテゴリーでは非正規雇用割合は減っています。

つまり、まとめますと非正規雇用が増えているのは、「65歳以上の高齢者」、なかでも特に「女性」ということになりますね。

 

■不本意非正規雇用は減っている

労働力調査を見ていて目を引くのは、女性の就労者がすごく増えていることです。
(2013年→2017年)
・女性の雇用者総数 2,329万人→2,504万人(175万人増)
(内訳)
・正規雇用数 1,030万人→1,114万人(84万人増)
・非正規雇用数 1,299万人→1,389万人(90万人増)

このような結果だけを見ると、次のような批判が出そうですね(想像ですが)。
「社会的に弱い立場にある女性を非正規雇用にしている。男女格差が増している。」

しかし、非正規雇用で働く女性のみなさんの意識はそんな感じでもないようです。
「労働調査」の中の、「非正規雇用についた主な理由」の統計をみると、「正規の職員の仕事がないから」といういわゆる「不本意非正規雇用」の割合は、この5年でかなり下がっています。
2013年 14.1%→2017年 10.5%と、「不本意非正規雇用」の割合は1割程度です。

格差の話で、「若いうちからずっと非正規雇用で働くと正規雇用に比べて生涯賃金が数千万円も変わってしまう」というような話もよくありますが、若い世代(15歳~24歳)でも「不本意非正規」は9.3%と1割未満です。

非正規雇用につく理由で一番多いのは、「自分の都合のよい時間に働きたいから」でした。
これは男女ともにトップで、しかも増えています。

「自分の都合のよい時間に働きたい」(2013年→2017年)
男性 21.3%→ 26.6%(+5.3ポイント)
女性 25.4%→ 29.1%(+3.7ポイント)

「正規雇用の勤務体系では働けない」、とか「時間に縛られたくない」といったことなのでしょう。
実際、私の会社でも女性スタッフで会社としては正社員になってほしいけど、自ら非正規を望まれる方は少なくありません。「時間に自由でいたいから」という方もいますが、「子育てや家事との両立が大変だから」という方もいます。
働き方はずいぶん多様になってはきていますが、テレワークの推進や同一労働同一賃金の実現など、まだまだやるべきことはありますね。

 

■そうすると平均賃金は?

就労者で増えているのは、高齢者と女性、しかもその多くは非正規雇用でした。そうなると、よく耳にする「平均賃金が上がっていない」という話も、労働者の平均で見たら上がってこないのは当たり前でしょうね。

消費税の2%増税を控えている今、景気を冷やさないためには2%以上家計の可処分所得を増やすことですが、これまで働いていなかった奥様とか高齢者の人たちが働いているというのは家計にとってはプラスです。

確かに非正規は増えてはいますが、これまでよく耳にした「非正規雇用が増えると格差が拡大して、貧困層が増える」というのとはちょっと違った景色が見えてきていますね。

今回は以上です。
次回もお楽しみに。

2018年7月31日 火曜日 13:43 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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