経営者保証をなくせば中小企業の事業承継は増えるのか?

今回は中小企業の経営者保証と事業承継、そして銀行の役割についてです。

 

■国が「経営者保証の見直し」に本腰を入れる

中小企業の事業承継が課題になっています。
最近では、年間およそ5万社くらいの中小企業が後継者不在のために廃業しているそうです。
日本の中小企業の中には優れた技術を持つところもありますし、特に地方では雇用の受け皿でもあります。そんな中、事業承継を円滑にするために国も本腰を入れるようです。
さて、事業承継を阻んでいる要因とは何なのでしょうか?
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<中小「経営者保証」見直し 国が指針整備へ 事業承継に伴う不安軽減>
(2019年5月14日付 日本経済新聞)
『中小企業が持つ借金の返済を経営者が個人で背負う「個人保証」を見直す動きが出ている。後継者が借金への不安を持ち、事業を引き継ぐのをためらう要因になるためだ。マイナス金利の余波で利ざやが縮小する銀行も、保証を最低限にして適正な金利をとる融資モデルに転換する必要がある。国は指針の整備などで、長年の慣行を崩そうと動き始めた。』

中小企業庁などは「融資に際して、経営者の個人保証をつけなくてもいい環境作り」に乗り出すということです。
記事によると、「事業承継の延期や断念の理由」としては、1位が「後継者が見つからない」で、2位が「個人保証が解除されない」とのことです。(中小企業基盤整備機構調べ)
この調査をした中小企業基盤整備機構によると、「事業承継を断る人の6割は経営者保証があることを理由としている」らしいです。

この記事を見て、「今でも個人保証が融資の前提になっているのか」と少しだけ驚きました。そして、「やはり中小企業では、自社の事業計画を作ることができない、もしくは作らない経営者が多いのだな」とも感じました。

というのも、「個人保証がなくても融資が受けられるようにしよう」という方針はすでに少なくとも6年前には出されていたからです。

 

■「経営者保証に関するガイドライン」とは?

かつては、中小企業が銀行から融資を受けるにあたって、経営者が連帯保証人になることは当たり前のことでした。そのため、もし経営に行き詰まり、倒産ということになると経営者は個人の資産をすべて失ってしまうリスクがありました。
創業者であれば、事業への思い入れも強いし企業が成長したときのリターンも得ることが出来るので、リスクを取ることが出来るかもしれません。
しかし、事業を承継する人にとっては、確かに個人保証は受け入れることが厳しいかもしれません。

そこで、国は全国銀行協会と協議・連携して、今から6年前の2013年に「経営者保証に関するガイドライン」を制定しました。この「ガイドライン」では、どうすれば経営者の個人保証なしでの融資が受けられるか、またはすでに受けている融資の個人保証を外すことができるかを明示しています。

その「ガイドライン」が示している「中小企業に求められる経営状況」の条件はいくつかありますが、主なものが以下の3つです。

1)法人と経営者が明確に区分・分離されていること
中小企業では経営者個人と会社の資金がごっちゃになっていることがよくあります。例えば、会社に経営者名義の土地を貸したり、経営者やその親族が会社からお金を借りていたり。こういう会社と経営者が一体の状態で個人だけ外すことは出来ませんよ、ということです。またちゃんと区分されているということを税理士さんなどの外部の第三者が適切にチェックすることも条件としています。

(2)財務基盤の安定と改善
会社の財務状況が良いことは当然として、もし今は決して良くないとしても業績の改善の見通しがあって、融資の返済能力が十分にあると認められることです。

(3)経営の透明性が高いこと
経営者が自社の財務状況を正確に把握していることです。そして、この先数年分の妥当な事業計画がちゃんと立ててあって、事業の見通しを金融機関に提出することです。もちろん経営者がそれを説明できることが求められます。

 

■個人保証をなくしたところで事業承継が増えるわけではない

このガイドラインの制定から6年たって、今また国が「経営者保証の見直しの指針整備」に乗り出すということは、現状まで経営者保証の見直しは進んでいないということですよね。
事実、中小企業庁によると、今でも中小企業の約86%の経営者が銀行融資の保証人になっています。

実際、上記の3つの条件は中小企業経営者にとっては非常に高いハードルです。
私は長年中小企業経営に関わってきましたが、財務内容が盤石な中小企業はごく一握りです。多くの中小企業の財務体質は弱いし、資金不足の際には経営者は自分の給与を返上してキャッシュフローを回したりします。
この時には会計処理上は経営者が会社に貸し付けたことにしたりします。
また、事業の実務者が多い中小企業の経営者で財務会計にも強いという人はあまりいません。自社の財務内容を正しく説明するどころか、事業計画の策定もなかなか難しいというのが現実です。

こんな状況では、個人保証をなくしたところで事業承継が増えることはないと思います。
そもそもの問題は、後継者になる人がその会社やその事業に対して「個人保証をしてでもこの事業をやりたい」と思えるほどの魅力がないことだと思います。

中小企業の廃業で優れた技術が失われるといいますが、本当に優れた技術をベースに魅力ある事業が展開できているなら、社内からも社外からもその事業を承継したいという後継者は現れるでしょうし、M&Aをしてでもその事業を譲り受けたいという会社が現れるはずです。

財務基盤が弱いのはこれまでの事業運営の結果だし、事業計画が描けないというのは将来性が見えないということとも言えます。

そういう企業に対してまで銀行は個人保証を外すことは出来ないし、存続を支援することも難しいということにしかならないと思います。

 

■経営者保証は「覚悟を問うもの」

実際には、銀行は経営者個人の資産額をはるかに上回る信用供与をしています。個人保証で融資を保全したいわけではないし、保全できるとも思っていません。
個人保証はひとつの踏み絵であり、この先の経営への覚悟を問うものです。
銀行が融資の際に経営者の個人保証を取るのは、「事業をやりぬく覚悟を持ってもらう」という意味もあります。「この事業を自分の生活をかけてでもやり抜く」という強い意思のある人にしか銀行としては貸したくないのです。

経営者が、保証なしで、言ってみればいつでも逃げ出せる状態で、「自分を信用して融資してくれ」というのも虫がいいように思います。

ただ、銀行としても安易に個人保証があればいい、という姿勢ではダメで、成長が見込まれるキラリと光る中小企業はきちんと育てることが大事です。事業計画の立案や財務体質改善の施策を指導するのは当然として、独自の技術のある会社で後継者がいない場合などは外部経営者を探したり、M&Aを勧めたりといった具体的な存続策が打てるようにならないといけませんね。

一方で、財務基盤が弱いとか生産性が低いとか技術力や競争力がないといったような将来性がない企業にまで保証を外す必要はなく、場合によってはスムーズな市場からの退場(廃業)を促すことも必要だと思います。存続させることではなく、新陳代謝を促すことで地方経済の活性化につながるというケースもあるからです。

日本経済の課題のひとつに、限られた労働資本を低生産性事業分野から高生産性事業分野へシフトすることがあります。なんでもかんでも中小企業を救おう、というではなく、メリハリのある条件下での運用をしていただきたいと思う次第です。

今回は以上です。次回もお楽しみに。

2019年6月4日 火曜日 14:44 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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