ハイアス・アンド・カンパニーがお届けする、住宅・土木・不動産業界の経営革新情報サイト
HyAS View netでは、ハイアスメンバーがキャッチした業界の最新情報や関連ニュースなどを取り上げたコラムをブログとして公開しています。
皆様のお役に立つ情報をキャッチするアンテナとして、ぜひお読みください。
今回は「人手不足で倒産する企業が増えている」という記事についての所感を書きました。
倒産は悲しい現実ですが、社会全体でみると違う見方もできるかもしれません。
「人手不足倒産」という耳慣れない言葉をよく目にするようになりました。
さて、この「人手不足倒産」、これはいったい何のことで何が問題なのでしょうか?
↓↓↓
<人手不足倒産が高水準、年間最多更新も>
(2019年8月18日付 日本経済新聞)
『人手不足を原因とする倒産が高水準で推移している。
2019年1~7月に累計200件を超え、通年では過去最高だった18年を上回る可能性がある。
有効求人倍率が約45年ぶりの水準で推移する中、介護など労働集約型のサービス業などの
中小企業が人手を確保できない。
従業員の退職もあり廃業に追い込まれている。』
少子高齢化、生産年齢人口の減少などに伴い、働き手が不足しています。
厚生労働省が発表した2018年度の有効求人倍率は1.62倍。
これは1970年代の高度経済成長期以来の高水準です。
労働者側の「売り手市場」ですから、人件費も上昇傾向が続いています。
そうした環境下、事業運営に必要な人員が確保できずに事業が継続できない企業が
増えているようで、それが「人手不足倒産」と呼ばれているものです。
記事の中で、「人手不足倒産」をタイプ別と業種別で紹介しています。
タイプ別で多いのは、まず「従業員退職型」(前年対比2.2倍)。
会社の中核社員の転職が相次ぐことで事業が継続できなくなったケースです。
次に、「求人難型」(前年対比2.1倍)。
求人をしても従業員の確保が出来ず事業運営に支障がでたケース。
そして、「人件費高騰型」(前年対比1.2倍)。賃金の上昇により収益が悪化したケースです。
業種別では、接客対応を中心とするサービス業が最多。
そして、建設業、製造業、卸売業、小売業と続きます。
やはり、労働集約型の業種で比較的付加価値生産性の低い業種ですね。
この「人手不足倒産」について中小企業庁は、
『中小企業の廃業が急増し、2025年ごろまでの累計で約650万人の雇用と、
約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある』
という見通しを発表して、懸念しているということです。
さて、この「人手不足倒産」、何が問題なのでしょうか?
本当に政府が懸念しているように大量の雇用とGDPが失われてしまうのでしょうか?
恐らくですが、政府が懸念しているような事態にはならないと思います。
「人手不足倒産」は、いわゆる「不況型倒産」とは違います。
リーマンショックの頃のような一時的な経済環境の悪化で健全な企業までもが経営危機に
陥るようなものではありません。
「不況型倒産」の問題のひとつは失業が増えることです。
しかし、「人手不足倒産」では失業は増えません。
有効求人倍率は1.6倍もあり、現在の失業率は完全雇用の目安である3%を
はるかに下回った状況が続いています。
今は総じて景気は良いのです。
ですから、従業員は失業することはなく、次の新たな職場にシフトするだけです。
結局、人が確保できないのは、待遇が悪いからです。
労働時間が長かったり、給与が低かったりするからです。
待遇さえが良ければ人は集まるはずです。
待遇を良くすることが出来ないのは、稼げていないからです。
つまるところ、企業としての「付加価値生産性」が低いからです。
「付加価値生産性」とは、「付加価値」(←ざっくりいうと企業の稼ぎ)を
「従業員の総労働時間」で割ったものです。
分子が「付加価値」、分母が「総労働時間」ですね。
昨今の「働き方改革」の狙いは「生産性の向上」ですが、生産性を上げるためには2つの方向性があります。
分子の「付加価値」を増やすか、分母の「労働時間」を減らすか、です。
「とにかくまずは労働時間を減らせ」と政府が企業に強いる中、
生産性向上はとりあえず脇に置いておいて、正社員の労働時間を短縮するために、
不足分をパートさんなどの非正規社員、場合によっては外国人を採用するなど、
比較的安い労働力の追加で対応している企業があります。
でもその場合には従前からの正社員の給料は減ることになります。
それでは全体として世の中の消費は増えませんから景気も良くなりません。
働き方改革の目的は、生産性の向上で、従業員の労働時間を増やさずに付加価値を増やす、
そしてその果実を従業員と企業で分け合うところにあります。
つまり大事なのは、労働時間を減らすことだけではなく、付加価値を上げることです。
人手が足りなくて事業が継続できないという企業は、気の毒ではありますが、
市場から退場しなければなりません。
自社の商品・サービスの付加価値の低さを労働者にツケ回すことはもうできないのです。
外国人労働者受け入れに懸念を示す人の論調も同じような話です。
「日本人がやらない低生産性の仕事を外国人にやってもらおうとするのはいかがなものか」、
ということですね。
確かにこれは日本人としてちょっと恥ずかしいことじゃないかなと思います。
そんな外国人の方々だって、いずれ自国や日本以外の国の経済の生産性が上がったら
日本を働く場所として選ばなくなるでしょう。
社会構造や時代の変化に対応できずに稼げていない企業は、業態を転換するなり、
新商品・新サービスを開発するなりしなければなりません。
残念ながら、環境変化に対応できなかった企業は市場から退出せざるを得ません。
これが自然な市場機能です。
経済にも新陳代謝は必要なのです。
競争力を失っている企業が適正な価格設定をしないことで、
本当に良いサービスを提供している企業の足を引っ張ることはよくあります。
こういうケースが増えると社会全体の総付加価値を落とします。
労働人口が減っていく日本では生産性の向上が不可欠です。
限られた労働力を低生産性の分野から高生産性の分野にシフトさせることが急務なのです。
政府は、淘汰されるかもしれない中小企業の雇用者数とGDPを単純に足して、
それが失われる可能性を危惧しているのかもしれませんが、恐らくそんなことにはなりません。
新陳代謝が起きて、強い企業が稼ぎを増やすことでむしろ全体のGDPは増えるかもしれません。
政府は、弱い中小企業を支援し続けるのか、それとも社会の生産性を向上させるのか、
どちらかに絞って施策を講じてもらいたいものだと思います。
今回は以上です。次回もお楽しみに。
2019年8月20日 火曜日 17:22 投稿者:admin
カテゴリ:時事所感