内部留保を積み上げている日本企業は悪なのか?

今回は「日本企業の内部留保の使いみち」についてです。
日本企業が内部留保をためこんで使っていないって本当なのでしょうか。

 

■「内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きない」って、ん?

「大企業は儲けたお金をためこんでいる。
もっと有効にお金を使ってもらわないと経済が活性化しない!」というような話、割とよく耳にします。
この記事もその類だと思うのですが、ちゃんと整理して考えた方がいいと思うのです。

↓↓↓

<M&Aに減税措置検討 甘利自民税調会長に聞く 内部留保の活用促す>
(2019年9月30日付 日本経済新聞)
『自民党税制調査会の甘利明会長は日本経済新聞のインタビューに応じ、M&A(合併・買収)への減税措置を検討する方針を示した。
企業に利益の蓄積である内部留保の活用を促す。
投資額の一定割合を税額控除する案を検討対象に挙げた。2020年度税制改正大綱に盛り込む。』

日本企業が自社だけでは出来ないような事業や技術を取り込むために、
投資をしたり、連携したりすることを税制面から後押ししますよ、ということのようです。

M&Aへの減税措置自体は企業の投資活動を促進する上で結構なことだと思います。
ただ、気になったのはここです。

↓↓↓

『甘利氏は日本企業の内部留保が18年度で463兆円と7年連続で過去最高を更新したと指摘した。
「内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きていない」と述べた。』(同記事)

内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きていない?
ん?
内部留保とイノベーションって関係があるのでしょうか?
そもそも内部留保がたまることは悪いことなのでしょうか?

 

■内部留保=利益剰余金=現預金?

財務省発表の「法人企業統計」を見ると、日本企業の2018年度の「利益剰余金」が463兆円ですので、
甘利さんが言っている「内部留保」とは、この「利益剰余金」を指していると思います。

「利益剰余金」とは企業がこれまでの事業活動で得た利益から、
法人税を支払って、株主への配当分配を行った後に残った当期純利益の累計額のことです。

この日本企業が利益を積み上げてきた剰余金を、企業はため込んだままにするのではなく、
M&Aなど事業革新のための投資にもっと使え、といいたいのでしょう。

これ、甘利さんには申し訳ないですが、よくある勘違いです。
「利益剰余金」という会計上の勘定科目のネーミングが勘違いの元かなと思いますが、
「利益剰余金=現預金」ではありません。
そして、「内部留保がたまること」と「企業のイノベーション」はまったく関係がありません。

 

■積み上がった内部留保はなにに使われているのか?

会計の基本的な話なのですが少し整理をします。
企業の財政状態を表す「貸借対照表」(バランスシート)は下のような構成になっています。

    <借方>(運用)              <貸方>(調達)
①流動資産(現預金や売掛金など)        ④流動負債(買掛金や短期借入金など)
②固定資産(不動産や投資有価証券など)   ⑤固定負債(社債や長期借入金など)
                    ⑥自己資本(資本金や利益剰余金など)
——————————————————   —————————————————
③総資産(=①+②)            ⑦総資本(=④+⑤+⑥)

バラスシートの右側は<貸方>といって、負債と自己資本からなっています。
これは企業が必要な資本をどのように調達しているかを表しています。
「負債」のことを「外部から調達した資本」と言う意味で「他人資本」ともいいます。
また自社が出資したり稼いだりして蓄積した資本のことを「自己資本」といいます。

一方、バランスシートの左側は<借方>といって、企業が調達した資本の運用状況を表しています。

そして、貸方の合計(上記③総資産)と借方の合計(同⑦総資本)は同じ額になります。
この調達と運用がバランスしていることからバランスシートというわけですね。

先の「利益剰余金」は「自己資本」勘定に入っています。
日本の企業はここがとても増えている、ということです。

では、もう一度「法人企業統計」を見て確認してみます。
「利益剰余金」がこの10年でどれだけ増えたかというと、
平成20年度に279兆円だったのが平成29年度には446兆円になっていますから、
10年で167兆円も増えたことになります。

では、その増えた利益剰余金はどのように運用されているのでしょう。
現預金のまま積み上げられていて有効に活用されていないのでしょうか?
法人企業統計によると、「現預金」は平成20年度に143兆円だったものが、
平成29年度には221兆円になっています。
つまり、この10年間で増えた現預金は78兆円です。
「利益剰余金」の増加分の半分くらいしか「現預金」は増えていませんね。

では、バランスシートの左側にある「資産」の中で何が増えているのかをよく見てみると、
最も増加しているのが固定資産の中にある「投資有価証券」でした。
平成20年度に193兆円だったのが、平成29年度には343兆円、
この10年間で150兆円も増加しています。

「投資有価証券」というのは、子会社・関連会社や提携先企業の株式のことです。
要するに企業への投資ですね。

つまり、日本企業がこの間ため込んできた「利益剰余金」は、
「現預金」のままただ積み上げられているわけではなくて、ちゃんと投資に使われています。

「法人企業統計」には「投資有価証券」の内訳がないのでわかりませんが、
この投資有価証券の多くは海外への投資に向かっているものと思います。

「法人企業統計」によると、国内向けの投資である「対内直接投資」の金額はこの10年間の推移を見ても
だいたい年間2~3兆円程度で変わらないのに対して、
海外向けの投資である「対外直接投資」は、
平成20年ごろには年間7~8兆円程度だったものが、
ここ数年は年間15兆円から19兆円の間で推移しています。

すでに多くの日本企業が、人口が減少し内需が伸び悩む日本市場から、
特に成長著しいアジアを中心とした外国に進出しています。
新たに子会社を設立したり、現地の有望な企業へ出資して提携したり、買収したりしています。
政府が、減税措置をとってM&Aを促進するのはとても良いことだと思いますが、
実はもうすでにかなりやっているのです。
バラスシートの右側は<貸方>といって、負債と自己資本からなっています。
これは企業が必要な資本をどのように調達しているかを表しています。
「負債」のことを「外部から調達した資本」と言う意味で「他人資本」ともいいます。
また自社が出資したり稼いだりして蓄積した資本のことを「自己資本」といいます。

一方、バランスシートの左側は<借方>といって、企業が調達した資本の運用状況を表しています。

そして、貸方の合計(上記③総資産)と借方の合計(同⑦総資本)は同じ額になります。
この調達と運用がバランスしていることからバランスシートというわけですね。

先の「利益剰余金」は「自己資本」勘定に入っています。
日本の企業はここがとても増えている、ということです。

では、もう一度「法人企業統計」を見て確認してみます。
「利益剰余金」がこの10年でどれだけ増えたかというと、
平成20年度に279兆円だったのが平成29年度には446兆円になっていますから、
10年で167兆円も増えたことになります。

では、その増えた利益剰余金はどのように運用されているのでしょう。
現預金のまま積み上げられていて有効に活用されていないのでしょうか?
法人企業統計によると、「現預金」は平成20年度に143兆円だったものが、
平成29年度には221兆円になっています。
つまり、この10年間で増えた現預金は78兆円です。
「利益剰余金」の増加分の半分くらいしか「現預金」は増えていませんね。

では、バランスシートの左側にある「資産」の中で何が増えているのかをよく見てみると、
最も増加しているのが固定資産の中にある「投資有価証券」でした。
平成20年度に193兆円だったのが、平成29年度には343兆円、
この10年間で150兆円も増加しています。

「投資有価証券」というのは、子会社・関連会社や提携先企業の株式のことです。
要するに企業への投資ですね。

つまり、日本企業がこの間ため込んできた「利益剰余金」は、
「現預金」のままただ積み上げられているわけではなくて、ちゃんと投資に使われています。

「法人企業統計」には「投資有価証券」の内訳がないのでわかりませんが、
この投資有価証券の多くは海外への投資に向かっているものと思います。

「法人企業統計」によると、国内向けの投資である「対内直接投資」の金額はこの10年間の推移を見ても
だいたい年間2~3兆円程度で変わらないのに対して、
海外向けの投資である「対外直接投資」は、
平成20年ごろには年間7~8兆円程度だったものが、
ここ数年は年間15兆円から19兆円の間で推移しています。

すでに多くの日本企業が、人口が減少し内需が伸び悩む日本市場から、
特に成長著しいアジアを中心とした外国に進出しています。
新たに子会社を設立したり、現地の有望な企業へ出資して提携したり、
買収したりしています。
政府が、減税措置をとってM&Aを促進するのはとても良いことだと思いますが、
実はもうすでにかなりやっているのです。

 

■内部留保が積み上がってきた今こそチャンス

「内部留保」と呼ばれる「利益剰余金」が現預金でためこまれていると勘違いして悪者扱いするのはちょっと恥ずかしいですね。

「企業の利益剰余金に課税すれば消費税を上げなくてもいい」という全く理解できないことを言っている政治家もいました。
そもそも利益剰余金は当期利益から法人税を払った後の剰余金ですから、
そこに課税したら二重課税になりますけどね。

内部留保が積み上がることは決して悪いことではなく、言うまでもなく良いことです。
日本企業がちゃんと稼げているということですからね。
事業の資金運用や投資を借入金などの他人資本で行って、もし失敗したら即経営危機です。
特に、企業への投資など長期的な運用は自己資本である利益剰余金でまかなうことは理にかなっています。

日本企業はこれまでもずっと内部留保が潤沢だったわけではありません。
1990年前後、借入金を増やして事業を拡大していたバブル経済が崩壊した後は、
負債が多かった企業から次々と経営が行き詰まりました。
その後、多くの企業がバランスシートの負債を減らすことを優先したため新たな投資が行われず、
景気が低迷したことから「バランスシート不況」ともいわれました。
こんな状況が2000年代に入っても続いたのです。

「失われた20年」といわれた時期を経て、今、やっと日本企業の自己資本が増えたのです。
甘利さんが言いたいのは、余裕が出来たのだから、
もっともっと新規事業や新しいテクノロジーへの投資を加速してほしい!
政府も後押しするから。ということでしょう。

決して悪いことではないですね。日本企業、これからです。

今回は以上です。次回もお楽しみに。

2019年10月1日 火曜日 15:20 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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