繰り下げ受給年齢を75歳まで拡大を検討中、の意味するところとは?

今回は年金制度についてです。政府は年金受給開始年齢を75歳まで繰り下げることを検討しています。
さて、その意味するところとは何なのでしょう。

 

日本の年金制度が心配される理由は?

「日本の年金制度って大丈夫なのか?」と懸念される話は常にあって、若い人にとってはすでに常識となりつつあります。

日本の年金制度がなぜこんなにも心配されるのか、というとこれまで制度を維持できてきた前提が崩れてきているからですね。

日本の年金制度は、現役世代が現在毎月払っている年金保険料を今の年金受給者が受け取っています(これを賦課方式といいます)。
これまでは、現役世代の方が受給世代よりも人口が多かったので、年金保険料の納付額の方が年金の支給額を上回っていました。だから年金受給者への支払いに困ることはなく、むしろ毎年余剰分が生まれていました。その支給額を上回った余剰分は積み立てられていて、その積立金を管理しているのが「年金積立金管理運用独立行政法人」(通称GPIF)ですね。このGPIFが管理・運用している積立金の総額はなんと160兆円以上。世界で最大の年金基金です。

しかし、日本はすでに少子高齢化社会に突入しています。このまま現役世代が減り、高齢者が増え続けると、年金の支給額が納付額を上回るようになります。そうなると年金支給額が不足します。その不足分はこれまで積み上げてきたGPIFの積立金を取り崩しながら対応していくことになるでしょう。
いくら世界最大の年金基金といえども、今のペースで少子化と高齢化が続けばいずれ枯渇してしまうのではないか、ではこの先も年金制度を維持するにはどうすればいいのか、というのが日本の年金制度が心配されている理由ですね。

 

■年金財政を安定させるための方策の状況は?

考えられる対応方法としては、主に次の3つです。

1)納付額を増やす
2)支給額を減らす
3)支給開始年齢を遅らせる

実は、1)「現役世代が納付する年金保険料を上げる」、というのはこれまでずっとやってきました。
2004年(平成16年)に年金制度を維持するための改正がありまして、「上限を固定した年金保険料の引き上げ」が決まり、2017年(平成29年)まで段階的に引き上げられて来ました。
現在、国民年金保険料は月額16,9000円。2004年の時は13,300円でした。
厚生年金保険料は給料に対して、18.3%。2004年の時は13.58%でした。13年間で4.72%上がったことになります。

勤め人の方は国民年金に加えて厚生年金の保険険料も支払っていますが、給与から天引きなのでじわじわと上がっていたことを気付いていなかった人も少なくなかったのではないでしょうか。

また、2)の「年金支給額を減らす」も制度は出来ています。
ここでも何度もご紹介していますが、「マクロ経済スライド」といって、年金支給額の改定率を物価や賃金の上昇(または下落)に応じて調整する、という仕組みです。
わかりにくいですが、要するに、物価の上昇率ほど上げない、物価が下落したらそれに応じて下げるというもので基本的に年金支給額の上昇を抑える機能があります。
ただ、2004年以降はほぼデフレ状態で物価が上がっていないので、まだそれほど機能していません。

そして、3)「支給開始年齢を遅らせる」です。
これもずっと議論されてきました。現在の年金支給開始年齢は「原則65歳」ですが、過去何度もこれを「68歳」とか「70歳」とかに遅らせる法案が検討されては廃案になってきました。
しかし、実はもうすでにこの支給開始年齢を遅らせることで年金財政を安定させるというのは、方針からは外れているようです。

 

■政府は「繰り下げ受給、75歳までに拡大」を検討中

年金の支給開始年齢は「原則」65歳ですが、実は60歳から70歳までの選択制です。
65歳が基準で、それよりも前に年金を受け取りたい人は「繰り上げ受給」が可能です。そのかわり、1か月繰り上げるごとに年金基準額から0.5%減額されます。最大で、60歳から受給すると30%の減額になります。

一方、65歳を過ぎても働いていて、収入があるから年金受給はもっと後でいい、という人は「繰り下げ受給」で支給開始年齢を遅らせることができます。その際は、1か月繰り下げるごとに年金基準額の0.7%が増額されます。最大70歳まで繰り下げると42%の増額になります。
そして政府は、この繰り下げ可能年齢を75歳まで拡大することを検討しています。
↓↓↓

<75歳から年金、どこまで増額? 厚労省が議論開始へ>
(2019年10月18日付 日本経済新聞)
『公的年金の受け取り開始を75歳まで遅らせた人には毎月の年金額をどれだけ増額するのが妥当なのか――。こんな議論が年金制度改革の焦点に浮上してきた。受給開始を65歳よりも遅らせた人が損をしないように年金額を増やす仕組みは今もあるが、長寿化が進んだことで今の増額率では過剰給付になるとの指摘がある。』

政府としては、労働人口が減少する中で、働く高齢者をもっと増やしたいという思いがあるのでしょう。
働ける高齢者はどんどん働いてください、そうして年金の受給開始年齢を繰り下げたらもっと年金を増やしますから、ということですね。
この上限が70歳から75歳まで拡大された時に、いったいいくらまで増額させるのか、という記事です。
今のままの月0.7%増額ということにすると、75歳で最大84%の増加です。基準年金額の1.8倍以上もらえるということですね。

受給開始年齢を繰り下げても、その分支給額を増やしていくのなら、年金財政をよくすることにはつながりませんね。年金財政に対しては、計算上は中立です。繰り下げによる増額受給は亡くなるまで続きますから、今よりも寿命がもっとのびて、本当に「人生100年時代」とかになったら給付過剰になる可能性もあり、むしろ年金財政は悪化するかもしれません。
みんなが100歳まで生きるのが当たり前になったら、75歳から本来の年金の倍近い額を25年以上もらえるということになりますからね。

記事によると、『70歳までの現行の増額率を0.7%と決めたのは2000年。今は当時の平均寿命から男女とも3年程度延びている。』ということです。日本人の長寿化に合わせて繰り下げ率はもっとよく考えた方がいいのではないか、ということです。

 

■結局最後は若い世代に負担がいく・・・?

いずれにせよ、繰り下げ年齢の拡大を検討しているということは、支給開始年齢を遅らせて年金財政を安定させるという方策はあきらめて、むしろ高齢者の就労を促してもっとGDPを増やしたり、健康な高齢者を増やしたりする方針にした、ということでしょう。

政府としては、支給開始年齢の基準を65歳ではなく、もっと遅らせて70歳とする手もありました。70歳よりも前に繰り上げて受給を受けると基準より下がる、70歳までは増額もしないという策です。でもこれはたぶん世間の反発が大きいでしょうし、政権も支持を失うだろうと考えたのでしょうね。

GDPは増えるかもしれないし、健康なお年寄りは増えるかもしれませんが、年金制度不安は続きます。
ではどうするか。
「マクロ経済スライド」も緩やかにしか発動されないとすると、結局最後は「年金納付額を増やしてもらうしかない」、ということになってしまうのではないかと懸念します。

安倍総理は、年金も含めた社会保障の充実に充てるとした消費税は10%にした時点で「当分上げない」と(今のところ)表明しています。とすると、あとは若い世代に負担してもらう、という策しか残っていないのでは、と心配になります。2017年にいったん上限に達したとしている年金保険料がまた上がることになるのかもしれません。

年金財政を維持するためには仕方のないことかもしれませんが、しかりあまり若い人ばかりに負担を押し付けるのは良くないですよね。これからの日本を担っていく若い世代の人たちが「働いても全部お年寄りに持っていかれる」などと考えて、「日本で稼ぐんだ」というモチベーションを失わせないようにしたいところです。優秀な若者が日本から逃げ出してしまうようなことは避けたいですからね。

今回は以上です。次回もお楽しみに。

2019年11月12日 火曜日 17:51 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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