不動産投資で相続税を節税することが「常識」ではなくなる?

今回は「不動産による相続税対策」についてです。
東京地裁の判決が波紋を広げていますね。

 

■不動産による相続対策が「常識」ではなくなる?

「不動産投資で相続税対策」。
これは地主さんや資産家層の人たちにとっては常識ですね。

その常識が変わっていくかもしれません。そんな驚きをもってこのニュースを見ました。
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<相続税で「路線価」を否定 地裁判決、”節税”に警鐘>
(2019年11月18日付 日本経済新聞)
『路線価に基づく相続財産の評価は不適切」とした東京地裁判決が波紋を広げている。国税庁は路線価などを相続税の算定基準としているが、「路線価の約4倍」とする国税当局の主張を裁判所が認めたからだ。路線価は取引価格の8割のため節税策として不動産を購入する人もいる。だが相続税の基準となる路線価と、取引価格に大きな差があれば注意が必要だ。』

相続税額を算定する際には、まず相続財産を評価しないといけません。
現金はそのままの評価だし、価格がついている上場株式や債券などは評価は難しくありませんが、問題は不動産です。土地や住宅の取り引きでも価格はあってないようなもので、売り手と買い手の交渉で決まります。

そんな評価の難しい不動産も含めて、「相続財産の評価は原則このように計算します」というルールがあります。

土地は毎年発表される「路線価」を基準に計算します。建物は「固定資産税評価額」が基準です。
「路線価」は土地取引で参考とされる「公示地価」のおよそ8割です。要するにおおよその市場価格よりも2割程度低いわけです。
また建物の「固定資産税評価額」は、元々建築に要した費用の40~60%になります(構造によって異なります)し、3年おきに見直されるたびに基本的に評価額は下がっていきます。

だから、現金をたくさん保有している人は、その現金資産を不動産資産に組み替えるだけで相続財産評価が下がるわけです。

例えば、1億円で購入した賃貸アパートが、相続税評価では2,000万円くらいになったりすることもあります。現金はそのままの評価なので1億円に対して相続税がかかりますが、賃貸アパートだと2,000万円に対して相続税がかかることになります。だから相続税をかなり減らすことが出来るわけですね。

こういった「節税目的」での不動産投資は広く一般的に行われています。
今回の判決は、その計算で相続評価したものが国税庁で否認され、その国税庁の主張を東京地裁が認めたというものです。

さてどんな事例だったのでしょう。

 

■どんな事例だったのか?

同記事から今回のケースを要約するとこんな感じです。

・対象 :東京都内と川崎市内のマンション2棟
・購入金額 :2棟合わせて13億8,700万円

そして、購入後3年ほどで相続が発生。

・申告した評価額 :2棟のマンションの評価を路線価から計算して3億3,000万円。さらに借入分を差し引いて「ゼロ」で申告。
・国税当局の評価額 :12億7,300万円

国税庁の評価額は路線価評価額のおよそ4倍近くです。この差額を申告漏れとして約3億円の追徴課税処分とした。

これが東京地裁の判決で認められ、取り消しを求めて提訴していた相続人たちは敗訴した。

・・・ということです。

なぜこんなことが起きるのでしょう?
実は、土地や建物などの不動産の相続税評価額は、法律では「時価で評価する」とされています。
ただ、納税者も国税庁も適切な「時価」を把握するのは困難なので、実務上は算定基準として「路線価」を使っている、ということなのです。

今回、東京地裁は、『「近い将来に発生することが予想される相続で、相続税の負担を減らしたり、免れさせたりする取引であることを期待して実行した」と認定し、国税の主張する不動産鑑定の価格が妥当とした。』(同記事より)

つまり今回のケースは、「あまりにも節税目的があからさまだから路線価以外の鑑定方法で評価した」というこという判断が認められたわけです。

 

■どういうケースがOKでどういうケースがNGなのか?

税理士や資産コンサルタント、不動産仲介業者、アパート建築会社などの業界関係者は今回の判決に困惑しています。

これまでは、相続対策として不動産投資を購入して路線価や固定資産税評価額で計算して、それで合法的に節税出来ていたのに、「ケースによって算定基準は変わります」ということになると、「じゃ、どういうケースならOKでどういうケースならNGなのか?」となりますからね。

恐らくですが、例えば、資産家のおじいちゃんが「もう余命が短い」となってから、慌てて相続対策で収益マンションを買って相続を迎えたケースなどで、そのマンションの購入額と路線価での評価額に大きな差がある場合に否認される可能性が高くなるのかもしれません。

路線価がさほど高くない土地に、稼働の良い収益性の高いマンションが建っている時などですね。
収益マンションの売買価格は家賃などの収入額を期待利回りで割り戻す計算で決まることが多いです。こういうケースでは、購入額は高くなりますが路線価で計算する相続税評価額は低くなります。この「時価」と「路線価」の差が大きいほど相続税対策効果も大きいわけですが、今後はより慎重にならないといけなくなった、ということです。

 

■節税目的の不動産投資の需要が減退していくかも

今後、資産家も税理士も金額の大きな相続対策には慎重にならざるを得ないでしょう。
資産家層が節税目的で不動産を買う市場は実はそれなりに大きいのですが、今回のケースでその大きな市場が縮小していくかもしれません。
ただでさえ、先の某金融機関の不正融資などで最近は不動産向け融資が絞られているのに、さらに節税目的で不動産を購入する需要までが落ち込んでいくとなると、不動産の価格が下落してしまうかもしれません。不動産価格が下がっていくと、資産デフレということになりますから、景気悪化圧力が強まりますね。

まだ東京地裁の判決です。
原告の相続人らはこの判決を不服として控訴しています。
さて、どうなるのでしょうね。業界関係者は今後の展開を心配しながら見ています。

今回は以上です。次回もお楽しみに。

2019年11月26日 火曜日 16:14 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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