ネット広告が広告媒体の主役に 私たちはネット社会とどう向き合うか

コロナショックで先行き不安な日々が続いていますね。
感染予防に注意しながら、なんとか踏ん張っていきましょう。
今回はネット広告についてです。

 

■2019年、ネット広告がテレビ広告を抜く

いずれ来ると言われていましたので驚きはありませんが、「ついに」というか「ようやく」というか・・・。
広告の世界でネット広告がテレビ広告を抜いたようです。
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<ネット広告費、テレビ抜く スマホ普及で>
(2020年3月15日付日本経済新聞)
『インターネット広告が広告の主流になった。2019年の日本の広告費でインターネット広告費が2兆円の大台を突破し、テレビ向け広告費を初めて上回った。スマートフォンの普及で動画広告などが好調で、食品や化粧品業界もネットへのシフトが進む。』

広告大手の電通によると、日本の2019年の広告費は、インターネットが前年比19.7%増の2兆1,048億円だったのに対して、テレビ向け広告費は2.7%減の1兆8,612億円だったそうです。

ネット広告の約7割はスマホ向けで、特に動画広告が伸びたとのことです。2020年には通信速度が格段に上がる「5G」時代に突入します。
動画広告の伸びとともにネット広告はますます増加していくことでしょうね。

ちなみに世界全体で見ると、すでに2018年にはネット広告がテレビを抜いていました。
日経同記事には、『2019年の世界の広告費は5,921億ドル(約62兆円)で、ネット広告は43%と18年にテレビを抜いた。その6割を米グーグルと米フェイスブックが占めるとみられる。』とあります。

グーグルの2019年の広告売上高は1,033億ドル、フェイスブックは600億ドルです。2社合計で円換算にして、およそ16兆円以上もの広告売上があるということです。
すごいですね。

 

■オールドメディアにはないネット広告の強み

新聞とかテレビなどのいわゆるオールドメディアとネット広告の大きな違いは、「一方向」なのか「双方向」なのかということですね。オールドメディアは、広告主から見ると、本当に自社のターゲット顧客層に広告が届いているかがわかりにくい。最近では特に若い世代を中心として、そもそも新聞や雑誌を購読しなくなってきているし、テレビを見ない層も増えてきています。

その点、ネット広告はオールドメディアと違って「双方向」です。
広告に対するレスポンスがすぐにわかります。そのレスポンスした人の属性情報もある程度わかりますので、エリアや性別、年代、もっというと趣味嗜好や行動特性に合わせて広告を届けることも不可能ではありません。
さらにそれを、「機械学習」といって、コンバージョンのパターンを分析し続けることで、より正確に自社のターゲット顧客層に広告を当てに行くことが可能です。

例えば、最近デジタル化された広告媒体にタクシー広告がありますね。
今、東京のタクシーに乗ると後部座席の前にタブレットがあって、そのカメラを通じて、性別、年齢、服装などからその乗客にマッチしそうな広告が出ます。私は、たぶん「50代くらいのビジネスマン」と認識されるのでしょう。「人材採用」とか「人事評価システム」とか「クルマ」などの広告がよく出ます。高級化粧品とかウェディングとかは出てきません。

ネット広告の主要プレーヤーである「GAFA」(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は消費者のデータをありとあらゆる方法で取りに来ています。位置情報や検索履歴、画像認識、言語認識などあらゆる情報分析して、ネットを通じて私たちが関心を持ちそうな広告を届けています。

■今、消費者が受け取っている便益とその対価としての個人データ

さて、「消費者余剰」という言葉をご存知でしょうか。
「消費者余剰」というのは、私たちが何かを買ったりサービスを受けたりしたときに、「このレベルの商品・サービスであれば、これくらいは払ってもいい」と思う金額と実際の価格との差のことです。簡単にいうと、「お買い得だった」と思える部分のことです。

デジタル技術の進展やシェアリングエコノミーの普及、ポイント還元サービスなどもあって、いろいろなサービスや商品が安くなっていますよね。
中でも、ネット企業によるサービスには無料やとても安いものが増えています。
グーグルマップもGメールもフェイスブックも無料です。LINEもツイッターも基本は無料です。
アマゾンプライムは月額500円で配送料無料、映画も見放題だし、ネットフリックスは月額800円という安さです。

野村総合研究所(NRI)の発表によると、こういった無料や低額サービスが増加していることで、私たち消費者はかなりのメリットを受け取っている、
すなわち今の社会には大きな「消費者余剰」が生まれているとしています。
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(野村総合研究所「デジタル時代における新経済指標と新たな地方創生の取り組み」より抜粋)
『日本では2006年以降、実質GDP成長率や所定内賃金水準などの主要な経済指標が低迷する一方で、生活者の主観的な生活実感は向上していることがNRIの調査からわかりました。NRIは、この相反する現象の背景に、デジタルサービスから得られる豊かさ(デジタルが生み出す消費者余剰)があると考えました。』

NRIの試算によると「デジタルサービスから得られる豊かさ」を経済価値に置きなおすと、その金額はなんと・・・
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『NRIは、デジタルサービス(有料・無料問わず)から生まれる日本の消費者余剰の合計を、年間161兆円(2016年)と試算しました。
この金額は、2016年の日本の実質GDP(520兆円)の約30%に相当し、
消費者余剰が経済活動として無視できない規模であることが明らかになりました。なお、主要SNS(LINE・フェイスブック、ツイッター、インスタグラム)からは、日本で年間20兆円の消費者余剰が生まれているとの試算が得られました。』(野村総合研究所 2019年10月2日付ニュースリリースより)

GDPの約3割にも相当する年間161兆円もの「消費者余剰」が起きているとのこと。
だから、消費者は生活が充実していると感じても消費額自体は伸びない、
それならGDPも増えませんよね、という話です。

この「消費者余剰」を生み出している源泉のひとつは私たち消費者のデータです。
現在、消費者は、いわば自分の様々なデータを売って各種のデジタルサービスを安価に受けています。ネット広告企業は、そのようにして得た消費者データを広告収入で回収しているわけです。

今は、残念ながらその広告費のほとんどがGAFAなど外国資本のIT企業に出て行っています。
これがデジタル課税の話につながっていくわけですね。

 

■ネット広告の課題と今後

GDPが伸びないという問題があるとしても、デジタル社会の進展によって私たちの生活実感が豊かになっていくならそれはそれでいいことなのかもしれません。

ネット広告の課題としては、個人のデータ情報をIT広告企業はどこまで自由に使っていいのかということがあります。
ターゲティング広告に対する消費者側の抵抗ですね。プライバシーや個人情報の保護の観点から、検索履歴や位置情報などから個人の好みや行動特性を推測して出されるターゲティング広告に対しては、消費者からの一定の反発があります。

先のタクシー広告でも、「性別の判断は広告プログラム開始時に起動し、
判断の工程が終わり次第、画像データは削除されます。タブレットもサーバーもデータを記録することはありません。もしこの広告が嫌ならオフにしてください。」といった感じのメッセージが出ます。
でも、もしそういった配慮をしなくていいとなれば、私(川瀬)のようなネット上に顔をさらしている人間なら、画像認識で「この人は川瀬だ」と特定できるでしょうから、私の検索履歴や動画履歴をもとに今何に興味があるかがわかります。もっというと位置情報をもとに、タクシーをどこから乗ってどこで降りたかで行動範囲もわかるでしょう。もはや丸裸ですね。

個人データの取得と活用にどこで制限をかけるかが今後の課題です。
グーグルはそういう世論に配慮して、段階的に、サイトの閲覧履歴を収集する仕組みを制限していくとしています。個人情報の利用には世界中の国とネット広告業界をあげて制限レベルの合意がこれからなされていくと思います。

しかし、こういった個人データが収集・分析されることへの抵抗が無くなっていくのも時間の問題のような気もします。私のような古い世代の人間と比べたら、デジタルネイティブの今の20代以下の方がはるかに抵抗は小さいでしょう。
個人データは悪用されないという社会的な合意があるならば、個人の趣味嗜好に応じてレコメンドされることの便利さを優先する人が若い世代を中心に増えるかもしれません。

デジタルの良いところは双方向です。どちらかがどちらかを一方的に利用するのではなく、企業側と消費者の双方が納得する形で、双方にメリットがあるような社会の仕組みを形成していかないといけないなと思います。

今回は以上です。

2020年3月17日 火曜日 16:47 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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