コロナ後の飲食業経営は以前の状態に戻れるか?

前回の続きで、今回も飲食業の経営についてです。
コロナが落ちついてお店が再開しても以前の状況に戻すためには引き続き経営努力が必要でしょうね。
 

■非常事態からの出口は徐々に見えてきたものの・・・

緊急事態宣言は5月31日まで延長されていますが、これまでの1か月近くに及ぶ自粛効果もあってか、少しずつ「自粛の出口」についての話題が増えてきました。
非常事態宣言の解除は、まず特定警戒都道府県以外の34県から、ということですが、東京や大阪など13の特定警戒都道府県でも、政府が設定した基準の状況次第で解除を検討していくようです。

ただ、ウイルスが消えて無くなったわけではないので、引き続き警戒しながらではあります。それでも徐々に徐々に以前の日常へ戻っていく方法を、
地域ごと、業界ごとに模索していくことになります。

最も自粛の影響を受けている産業分野のひとつである飲食業もお店を再開し始めるでしょう。どのお店も今、本当に厳しい状況にありますから、
お店を開けられるというのはなによりの朗報ですね。

ただ、完全にコロナ前の状態には戻らないかもしれません。
コロナ後は、飲食経営そのものを再設計しないといけないのかもしれません。

 

■ソーシャルディスタンスと坪売上

コロナ前と後で一番違うのは、お客様のスペースでしょう。
今、多くのお店で、お店のレイアウトを広く座席間隔を空けた形に変更したり、カウンター席もひとつ空けて座ってもらったりしています。

ソーシャルディスタンスという言葉と共に、密接、密集を避けたいという気持ちはかなり深く私たちの意識に刻み込まれました。
これはコロナが収束に向かった後もなかなか変わらないかもしれません。
隣の人との距離が近いお店はお客様も敬遠するかもしれません。

つまり、お店としては、一度に提供できる座席数が減るということです。
これは飲食店経営にとって、小さくない影響を与えます。

飲食店の経営が効率よく運営されているかどうかを見る指標として、
「坪売上」(もしくは坪効率)があります。店舗面積一坪(約3.3㎡)あたりいくらの売上を出せているか、というものです。

例えば、店舗面積が20坪で月に600万円の売上がある居酒屋さんの場合は、
600万円÷20坪=一坪あたり30万円の坪売上です。

同じ20坪の広さの隣のラーメン屋さんが月に800万円を売り上げているとすると、800万円÷20坪=一坪あたり40万円の坪売上ですね。

ラーメン屋さんの方が同じ面積で大きな売上を上げられているので、居酒屋さんよりも経営効率が良い、ということになります。実際は、そこから原価率とか人件費とか営業時間の違いとかまで分析するわけですが、経営効率を見る際に簡易的に「坪売上」がよく使われます。

なぜ、坪売上(坪効率)が飲食経営の重要指標なのかというと、家賃に対する費用対効果をみたいからです。店舗面積はコストです。
家賃コストに見合った売上を上げられているかどうか、ということです。

前回、「FLR比率」(食材原価と人件費と家賃の売上に対する割合)のところでも書きましたが、家賃の目安はおおよそ売上の10%くらいです。

つまり、坪売上20万円なら、坪2万円の家賃がひとつの妥当な目安ということです。
家賃が坪2万円する店舗で、坪売上が20万円を上回っていればいいし、
逆に20万円を下回るようだとR比率が高くなってしまい、最終利益が残りにくくなるということです。

家賃によって変わるわけですから、坪売上の基準は地域によってかなり違います。
坪売上20万円がひとつの基準とは言われていますが、東京都心部のように家賃が高いところなら基準はもっと上でしょうし、家賃の安い地域なら坪売上の基準はもっと下でも大丈夫です。
 

■コロナの影響は飲食業から不動産業にも及ぶ

さて、家賃相場に見合った売上を上げないといけないわけです。
飲食店の売上は以下の要素で構成されています。

売上=座席数×回転数×客単価

ラーメン屋さんとかカレースタンドとか、少ないメニューを低単価で提供していて、お客様の回転数の多い店や、居酒屋とか小料理屋さんなど、幅広いメニューをそれなりの価格で提供していて、滞在時間も長いために回転数が少ない店など、飲食業態にはいろいろあります。

ただ、経営改善の視点は同じです。
上記の式でいうと、

・座席数を増やせないか? (店舗レイアウトの改善など)
・座席の回転数を上げられないか? (料理提供スピード改善や時間制の導入など)
・客単価を上げられないか? (新メニュー開発やサイドメニューの充実など)

ということになります。
その中で、今回は座席数がコロナ以前よりも減ることが多くの飲食店で前提になるわけです。

例えば、もし座席が半分になったとしたら、回転数を2倍に増やすか、
客単価を2倍に上げないとコロナ前と同じ売上は上げられないということです。
売上が落ちるのに、同じ原価率、同じ人件費、同じ家賃だとすると収支は合いません。赤字になるような低収益状態から抜け出せないようなら、
経営を続けることが出来ずに閉店ということになってしまいます。

客単価が高くて経営効率のいい業態のお店ならいいですが、そういうお店ばかりではありません。
次に新たに出店を検討する経営者が現われたとしても、
事業計画段階で「採算が合わないね」という話にもなりかねません。

つまり、コロナ後の影響はいずれ店舗オーナーなど不動産賃貸業者にも出ます。
基本的に、飲食店舗のテナント家賃は下がる方向に進むのではないでしょうか。もともと店舗面積が狭いお店とかには借り手がつかない可能性も高くなります。
だからといって、家賃を下げると収支が悪くなります。改修費とか維持費が出しにくくなり、施設の老朽化が進んでしまうかもしれません。
もし、テナントからの家賃収入が減るとなると不動産としての投資利回りは下がります。
商業地の不動産市況は悪くなるかもしれませんね。
 

■客単価アップにトライして生産性の向上を

コロナ後にソーシャルディスタンスが当たり前になり、お店として提供できる座席数が減るということは坪売上が下がっていくということになります。

そうなると、どの店舗も「コストを抑える」か「客単価を上げる」という方向で経営を考え直していくことになるかと思います。

私は個人的には、「客単価を上げる」ということにトライした方がいいと思っています。
客単価を上げる方法はいろいろあります。前提は「食事の味とサービスのクオリティを上げる」ということが基本ですが、日本の飲食店の多くは味もサービスクオリティもレベルは高いと思っています。
その割に値段が安い。ニューヨークとかロンドンとかの3分の1くらいの感覚です。たぶん欧米から来た外国人から見たら日本の飲食店は相当安いという印象を持つでしょう。
そういうお店はこの機会に単価アップにトライしてもいいんじゃないかと思います。

日本人の多くが持つ「良いものをより安く」という意識は美しいですが、
こういう機会にお店側も私たちお客側も互いに意識を変えないといけないのかもしれません。

「日本の飲食業界は生産性が低い」といつもけなされます。その一因だと私が考えている「提供価格の安さ」を見直すところからコロナ後の生き残り策を検討していくのもひとつかと思います。

価格に見合った味とサービスならお客様は離れないはずです。厳しい環境は続きますが、多様性のある豊かな食文化の担い手として飲食業経営者のみなさんには何とか頑張ってほしいと思っています。

今回は以上です。
一日も早く平穏な日々が戻りますように。

2020年5月12日 火曜日 18:43 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
カテゴリ:

ページトップに戻る