デジタル税は新たな世界的国家間対立の火種なのか?

デジタル税という耳慣れない言葉がしばしば聞かれるようになりました。
さて、デジタル税とは何でしょうか?デジタル税で世界はどうなるのでしょうか?

 

■デジタル税導入でアメリカとEUが対立?

新型コロナウイルスで世界的に経済が停滞しています。
自国民の産業や暮らし、生活を支えるため、各国政府が大規模な財政支出を行っています。そうなると今後、世界的に経済復興のための財源確保が政府課題になると思います。
そういった背景もあるのでしょう。このデジタル税に関する動きも加速しそうですね。
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<米、デジタル税で孤立>
(2020年6月4日付 日本経済新聞)
『トランプ米政権は欧州や新興国など10カ国・地域がそれぞれ独自に導入・検討を進める「デジタルサービス税」に対し、不当に米企業を狙い撃ちしているとして、報復関税の検討に入った。背景にはデジタル巨大企業の税逃れを防ぐための国際ルールづくりを巡る対立がある。』

トランブ大統領、また報復関税ですね。中国に続き、今度はデジタル税を巡って、イギリスやフランスなどとの対立です。

アメリカ政権の言い分は、各国が新たに導入を検討しているデジタル税は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのグローバルなIT・デジタル企業を狙い撃ちしている、というものです。

GAFAなどの世界的に事業を展開するデジタル企業に対して、何らかの課税制度の制定が急務だとずっと言われてきましたが、世界的な統一基準の合意はなかなか進みませんでした。

そんな中、昨年12月、独自にデジタル税を適用しようとしたフランスに対して、トランプ大統領は制裁関税をちらつかせて課税を先送りさせました。

しかし、イギリスは予定通りこの2020年4月に、売上高5億ポンド(約680億年)以上のIT企業を対象として、ネット検索に関する売上高に対して2%のデジタルサービス税を導入しました。

「イギリスに続け」とばかりにコロナ禍で財政難に苦しむイタリア、スペイン、オーストリアなどのEU各国やインドやブラジルなどの新興国が、雪崩を打つようにデジタル税の導入検討を始め、アメリカとの対立の構図が鮮明になってきた、というわけです。

 

■デジタル税とはなにか

デジタル税とは、IT関連デジタル企業に対して適用を検討している新しい税金です。
グローバルに事業を展開する大手のネット通販企業やWEB検索企業などは、その国に事業拠点を持つことなく事業を展開して売上を上げることが出来ます。しかし、その国の政府は事業拠点のない企業に対して課税が出来ません。事業所とか工場とか倉庫とか、なんらかの拠点となる施設がなければ法人税は課税できないという国際的な原則があるからです。
グローバルに事業展開している製造業や流通業、小売業などは、工場や倉庫、事務所・店舗など拠点を置いているのでその国できちっと法人税を納めています。それに対してデジタル企業は、ネットを通じて知的財産などの無形資産をもとに事業を行っていますので拠点がなくても展開は可能です。

だから、「デジタル企業は税率の低い国に本店や支店を置いて税金逃れをしているのではないか」、という疑惑が付いて回っていたのです。

アメリカは、トランプ大統領になってから、そういった税金逃れをしているのではないかとされる大手デジタル企業の利益やキャッシュを本国に還流させる税制改革を行いました。

せっかく自国で新産業を育成して、その企業が稼いだキャッシュをようやく自国に取り込めるようにしたのに、それを「よこせ」と言われて抵抗しているアメリカと、「いくら拠点がないといっても、ウチの国民を相手に事業を行って利益を上げているのだから、ここにショバ代(税金)を置いていけ」というデジタル税導入を検討しているEU、ならびに新興国とのいさかい、ということですね。

 

■デジタル経済が進むとGDPが減少する国は増える

独自でデジタル課税制度をスタートする国が増えているのは、国際的なルール作りが進まないからです。国際ルール作りの議論が行われている経済協力開発機構(OECD)では、「国ごとの売上高に応じ、税収を分配する仕組み」の新ルールを2020年10月までに合意したいとしています。
しかし、これだけ思惑が入り乱れるとなかなか統一基準を制定するのは難しいですね。
ましてやトランプ大統領は選挙が控えていますし。

前にこのハッピーリッチ・アカデミーでも書きましたが(第339号「ネット広告が広告媒体の主役に私たちはネット社会とどう向き合うか」)、デジタル経済が進むとGDPが減少する国は増えます。
大手IT企業が、自国の消費者に利便性を与えることで、売上を失ってしまう自国企業が増えるからです。
しかも、デジタル企業が受け取る恩恵(収益)は、これまでリアル企業が実際に提供していた付加価値よりもかなり小さいのではないかとも見られています。デジタル地図や交通ナビゲーション、メールやチャットなどのコミュニケーションツール、動画や音楽などの配信サービス、シェアリングサービスなど、デジタル企業が提供している多くのものが無料だからです。

この差分の恩恵を受けているのが消費者です。
これがいわゆる「消費者余剰」です。
「消費者余剰」というのは、私たちが何かを買ったりサービスを受けたりしたときに、「このレベルの商品・サービスであれば、これくらいは払ってもいい」と思う金額と実際の価格との差のことです。簡単にいうと、「お買い得だった」と思える部分のことですね。

この「消費者余剰」を試算した野村総研によると、日本においてはGDPの約3割にも相当する年間161兆円もの「消費者余剰」が起きているとのこと。

消費者は生活が充実していると感じても、多くは無料だから消費額自体は伸びない、それならGDPも増えません。GDPが増えないなら税収も増えない、という話です。

では、なぜ大手デジタル企業は各種サービスを無料、もしくは低価格で提供できるのか、というと、その対価として消費者データを獲得しているからです。その消費者データをもとに広告事業やマーケティング分析事業で収益を上げられるからです。そしてその広告収益を上げている代表格が、GAFAなど米国資本の企業です。

自国の消費者データを得てそれで事業収益を得ている、そしてさらに結果として多くの自国のリアル産業の収益や雇用が減っている、としたら、収益を得ているデジタル企業に課税するのは当然だ、というのがデジタル税導入の文脈ですね。

 

■公正なデジタル税でデジタル経済の推進を

デジタル税の議論を、「GAFA潰し」とか「新しいネットビジネス叩き」とか、ましてや選挙政治の道具とするのはいかがなものかと思います。
これは止めることの出来ないデジタル社会化への流れの中で、従来のリアル産業と新興IT企業、それぞれに対していかに平等で公正なビジネス環境を提供できるかという話だと思います。

デジタル企業には国と国の壁はなく、世界中どこでもビジネスが出来ます。そのビジネスで得た収益は、公正に課税されて、収益を得るために使った消費者応分に各国に分配されるべきです。その分配された税収をもとに各国がデジタル経済を成長させていくべきです。

記事によると、『OECDは新ルールが実現すれば、世界の法人税収は1,000億ドル増えるとされる』とのことです。目先の小さな利権にこだわって国家間の関係を悪化させるのではなく、先にある大きなビジョンに向かって前向きな議論をしてほしいものだと思います。

決してテーマを矮小化することなく、次の新しい時代に向けた国際的な合意がなされることを願っています。

気になるのはこのデジタル税の議論が日本で行われている様子があまりうかがえないことなのですが・・・。

今回は以上です。
一日も早く平穏な日々が戻りますように。

2020年6月9日 火曜日 14:55 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
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