銀行が事業会社を経営する効用とは?

こんにちは!ハッピーリッチ・アカデミーの川瀬です。
今回は銀行の新しい取り組みについてです。
銀行が事業会社を経営するそうです。さて、どんな取り組みなのでしょう。

 

■銀行が事業会社経営に進出

新型コロナウイルスの流行で経済全体が沈んでいます。
経営が厳しく、後継者もいない中小企業の経営者の中には廃業を決断する人も出てくるかもしれません。
「そうはさせない」と銀行が動き始めました。
↓↓↓

<銀行、事業会社経営へ 後継難の中小廃業阻止>
(2020年7月10日付 日本経済新聞)
『事業の引き受け手がいない中小企業が廃業するのを防ぐため、銀行自ら受け皿ファンドを創設し始めた。金融庁が事業承継なら事業会社への出資規制を解禁したため、買収も視野に入れる。銀行がホテルや町工場、スーパー、ガソリンスタンドなど事業を経営する時代がやってくるかもしれない。』

三井住友銀行やりそな銀行、百五銀行などが事業承継のためのファンドを設立して、後継者不在の取引先へ出資するようです。

これは「買収」というよりも「支援」という位置づけです。
経営者が70歳以上で後継者が未定の中小企業は100万社以上あると言われています。いわば「廃業予備軍」ともいえる企業が日本の企業の3割強占めていることになります。

高い技術力やブランド力があって、顧客も多くいて利益も上げているのに後継者がいない、そのために事業の継続が出来ない会社が廃業することは社会的な損失です。

そこで、その会社の経営状態をよく理解している取引銀行がその株をオーナー経営者から買い取り、3年から5年くらいかけて譲渡先を探します。
その間に事業を拡大させ、さらに企業価値を高めることが出来ればキャピタルゲイン(譲渡益)も狙えます。

まだ取り組む銀行も少ないし、目論見通りいくかどうかも不安視されていますが、私はこの動きを評価したいと思います。

 

■背景にある金融庁の方針変更とは?

銀行が、融資や一部出資ではなく、経営権を買い取ってまで支援をするような動きを始める背景には、昨秋に金融庁が行った規制緩和があります。
事業承継が目的の場合には、投資子会社を通じての最長5年の株式保有を解禁しました。

従来、銀行による事業会社への出資は原則5%までとされていました。
もともと企業に対して優越的な立場にある銀行が、その立場を利用して経営支配をすることを規制するためです。

金融庁が規制を一部緩和したのは、金融庁の方針が大きく変化したことがあります。
経営環境が厳しい金融機関の生き残りのため、金融庁は「監督庁」から「育成庁」になる、と宣言していました。今、銀行員は融資業務だけでなく、経営改善指導や事業再生、事業承継などの業務のスキルを高めて、地域経済を支える存在になることを求められています。

銀行は、後継者探しの支援やM&A仲介などの単なるマッチング業務はこれまでもやってきました。今回の取り組みでは、銀行が経営責任を負った上で、
5年以内に譲渡先を見つける責務までを負うことになります。

日経記事は、「後継者難の企業の受け皿作りは苦肉の策」としてネガティブに捉えています。
銀行員に事業が出来るのかという懐疑的な見方もあるでしょう。
確かに、「これは金融庁の意向もあるし、やらないと廃業も増えるからしかたがない」というような意識ではうまくいかないでしょう。

「後継者難の企業の経営に積極的に関与して、地域の企業の持つ技術やブランド、雇用を守る!」という強い使命感を持ってやるべき仕事です。
今回、準備を進めている銀行はそれだけの覚悟とある程度の勝算は持っているはずだと思います。

 

■銀行が事業を行うことの効用

銀行が後継者難の企業の事業を行うことにはリスクもありますが、効用もあります。

まず、M&Aが加速すると思います。
本当にすごい技術やノウハウがあって、顧客からの支持も強いような企業なら、「買いたい」という会社や投資家が現われるはずです。
しかし、それでもM&Aが難しいのは、正しい企業価値を判断するための情報が十分に流通していないことと、経営者のプライドやこだわりが邪魔をすることです。
経営者は、自分の会社が売りに出ているというような情報は隠したがります。ですから、買収に興味がある会社や投資家はなかなか良質なM&A情報にアクセスできません。
また、M&Aの交渉に入っても、話がまとまらずに破談になることも少なくありません。多いのは、経営者が自社の事業を過大に評価して、譲渡価格を妥協しなかったり、ブランドや従業員の取り扱いに関して細かい条件を付けて譲らなかったりするケースです。
これらのハードルの多くはいったん銀行が受け皿になることで解消されると思います。

また、銀行が直接事業を行うことで、間違いなく、銀行の人材が育ちます。
『りそな銀はファンドを通じ、事業承継先が見つからない取引先に原則として100%出資する。一定以上の経験のある中堅層以上の行員も派遣する。』(日経記事より)とあります。

銀行員は過去の財務諸表などを分析して融資可否を審査しますが、実業の経験がないために特に新しいビジネスや技術の評価ができません。
業界の最新の動向にも疎いところがあります。
伸び盛りの中堅行員を取引先に1~2年間ほど業務出向させて、実業経験を積ませることで成長機会とすることはどこの銀行でも取り組んでいることです。
それが経営者ともなるとまったく違う意識レベルで臨むことになるでしょう。商品開発にもマーケティングにも、顧客管理にも人事・労務にも関わることになります。そういった事業家としての経験を積んだ行員は将来必ず銀行を支える「人財」となることでしょう。

 

■黒字廃業の意思決定を促すことも大事な仕事

しかしながら、そうはいってもおそらく、実際に銀行が事業を買い取る会社は年数社に留まるでしょう。
ほとんどの企業は銀行に出資を求めても、審査の結果、投資見送りになることの方が多いと思います。
これはある意味、経営者に廃業の意思決定の背中を押すことになりかねません。しかし、それも銀行にとっては決して悪いことではないかもしれません。少なくとも、再生の見込みがないままズルズルと赤字になっても経営を続けて、最後に過剰な債務を抱えて法的整理になるよりもいいと思います。

「赤字企業が廃業するのはわかるが、黒字企業が廃業するのはもったいない」という声もあります。
しかし、本当に将来にわたって有望な事業なら、後継者は現れていたでしょうし、M&Aやこの銀行の投資も裁可されたでしょう。それらが叶わなかったということは、残念ですが将来性がない事業と見られていると判断した方がいいのかもしれません。

会社が黒字で自己資本も十分に残っているうちに廃業すれば、仕入先への支払いや、社員への退職金、そして銀行への借入金の返済もできます。
現有の資産できれいに債務を清算して誰にも迷惑をかけずに会社を畳むのは経営者としての最後の責務とも言えます。

黒字のうちに廃業するのは経営者として極めて賢明なことですが、その意思決定は決して簡単なことではありません。その決断を促すのも銀行の大事な務めです。

次代に残すべき企業の経営を立て直す、もしくは拡大・成長させ、企業価値を定めて、承継者に譲渡する。これは地域の雇用と付加価値を守る非常に社会的意義が高い仕事だと思います。
経営とファイナンスのプロでないと出来ない仕事です。
やりがいがありますね。
多くの銀行員にチャレンジしてほしいと思います。

今回は以上です。
一日も早く平穏な日々が戻りますように。

2020年7月21日 火曜日 18:38 投稿者:HyAS&Co.川瀬太志
カテゴリ:

ページトップに戻る