住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 商品サービス戦略

旧来型の住宅産業に「ことづくりマーケティング」の普及を目指す 奈良県・SOUSEI

芸人から住宅会社、さらにはマーケティング・プラットフォーマーへと転身を図る、異色のキャリアを持つSOUSEI株式会社の乃村社長。マーケティング・ブランディングの必然が大きくなかった旧態依然の住宅業界に変革をもたらす「基盤」となる事業の起業・発展を目指す新進気鋭の経営者。旧来型の住宅産業に「ことづくりマーケティング」の普及を目指す乃村社長にお話を伺いました。

SOUSEI株式会社
代表取締役 乃村 一政 様

素人ゆえの強み 〜芸人から転身。1年間でトップセールスに〜

もう昔の話ですが家庭の事情で大学進学ができないとなって…。でも、そんなに深く思いつめてどうこうなった訳ではなく、もともとお笑いが好きだったという理由でエンタテイメントの世界に入ったんです。いわゆる芸人です。その後、24歳位でエンタメ業界を離れ、そこから「営業」の仕事をしていました。営業の仕事をしながら、自分の中では30歳になるまでインフラサービスみたいなものをずっとやりたいという思いがありました。なぜそれを思ったかというと、きっかけは「iモード」でした。iモードというインフラが大きくなって、そこで何かをしたい人、参加するプレーヤーが増え、したがって利用するユーザーも増える。「あっ、こういう事業の大きくなり方っていうのがあるんだ」って気付かせてもらいました。しかもiモードのサービスができたことで色んな人と人を繋ぐサービスが次々と生まれてゆくことに本当に感動したことがきっかけです。

その後に住宅業界に転身することになるわけですが、本当に住宅の仕事をしたことがなかったので、奈良県にある50棟くらいやっている住宅会社にサラリーマンとして入りました。そこでは入社1年目に注文建築契約を25件したんです。1件目の受注は入社6日目でした。それも何も教わってない状態で。ついで2件目の受注は入社2週間でした。そしてそこから毎月2件以上契約して、最終的に25棟の契約をいただきました。
こんな言い方をすると生意気なのですが、結構「売れた理由」は簡単だったんです。入ってすぐ、注文住宅を「売る役割」というのはディレクション業務をする役割なんだと解ったんです。なので住宅ローンの事を教えて欲しいとお客に言われたら住宅ローンのプロがいるんですよと言って先輩を連れていき、建築の事を教えて欲しいと言われれば建築の事がわかるプロがいるんですと言って設計の先輩を連れていくんです。その上で、肝心なクロージングの所だけ僕がやる。これが住宅営業マンの役割だって割り切ってやってたんです。そうやって1年で25棟売ってみて、素直に感じたことは基本的に(売るために)モノを考えない業界、マーケティング・ブランディングを知らない(しない)業界だということでした。と同時に、だからこれは自分の思う様にいけるな、やれるなと興奮したのを覚えてます。

それでやって1年が過ぎ、2年目はどちらかというとマネジメントがしたくなって入社2年になる前かなる時かに僕は「経営改善計画書」というのをつくって当時の社長と専務にお出しして、これを読んで僕をいますぐ店長にしないのであれば僕はすぐ辞めますと言ったんです。ただ、業績を出したからその会社内で何でもいいから偉くなりたいといのじゃなく、店長というのは「役職」ではなく「配置」、つまりマネジメントが得意な人と、現場で注文建築を受注するのが得意な人みたいな「役割」の違いだと思っていて、この会社のマネジメントはこうあるべきだと自分の中であったので計画書を出したんです。もちろん、ただ席次をよこせと言っても難しいでしょうから条件をつけました。僕を店長にしてくれた時は150%にしますと。で、結果的に150%に引き上げました。ただ僕が思うマーケティングとかブランディングを色々提案したんですけど、そこは思い通りにはさせてもらえなくて。その限界を感じて今のSOUSEIをつくったわけです。

ものを作っていない住宅産業がさししめす「ものづくり」思考の古さ

住宅業界に入ってもう一つ思ったことは、「ものづくり」と言っている人達が一体何を指して「ものづくり」と言っているのかさっぱりわからなかったということです。キッチンはLIXILから仕入れ、建材はどこどこから仕入れ、プレカットは材木屋から買い、金物は金物屋から買い、塗装は塗装屋に依頼し、板金は板金屋に依頼して・・・実は自社で「作っているもの」なんて一つもない。今時ケーキ屋でも苺を自分の農園で育てますよ。つまり、住宅建築はいわゆるmanufacturing service、製品設計、開発、宣伝、販売に経営資源を集中するモデルだということです。それなのに自分の事業を「ものづくり」と言ってる人達が凄く多い。もちろんものづくり、技術へのこだわりをもち、やっている職人集団のビルダーもいます。ただ大半の住宅会社はそうではなかった。そういう世界を目の当たりにして「チャンスだな」って思ったのです。
そもそも多くの住宅会社の言う「ものづくり」とは即ちなんなのかというと、洗練された技術で作る一点物のものづくりではなく、「大量生産」、「大量消費」の時代における製造業であり、より良いものをより安くなんです。中には、革新的な製造業の中にはinnovativeなものづくりとかプロダクトアウト的なものづくりっていうのが出てきましたが、住宅業界ではそれもなかった。住宅業界がいうのものづくりっていうのは、いわゆる「旧来型の製造業」的なものづくりで、相変わらず良い物をより安く提供しようとか、価値あるものを手の届く価格でみたいな。

さらに住宅業界が凄いなと思ったのは、お客様が混乱している状態で買い物をさせるのは住宅だけだということです。混乱、つまり脳みそが冷静で日常的な状態にない、そんな状態で買い物をするかどうか決めさせるんです。例えばパンを買う時に混乱して買う人なんていなければ、服を買う時にしても混乱して買う人なんていないと思うんです。なんで混乱しないかといえば「買っていいか、買うべきかの基準」があるからです。美味しそうなパンだとかこれはいい服だとか、過去の類似体験があるから買えるんですよね。でも住宅って一回も建てたり買ったりしたことがないので、類似体験や基準というものがなんですよね。なのに、自社が強みと思っている商品特性が今から届けようとしている顧客属性とミスマッチを起こしていないかどうかの検証もしない。それではっていうのが現状です。例えば家事動線でも、いわゆるオーソドックスな間取りなんて、僕の知る限り30年位変わってない。そんな訳ないだろって思ってるんです。生活がこれだけ多様化してて、それで便利な間取りが変わってないなんておかしいと。

これからの住宅業界に必須なマーケティング・ブランディング

いわゆる製造という意味でのものづくりをやっている、打ち出している住宅会社には絶対に勝てると思ったんです。従来の住宅業界にはマーケティングやブランディングが得意でない方が多いと思います。この先の住宅業界では「ことづくり」的な売り方にシフトしていこうとしているのに、それが受け入れられていないと思います。
そもそも相変わらず住宅を提供する側は自分らの漠然とした強みを持ってして、集客できるだけの価値があるんだとか、エリア内で認知されているんだとか、これからの20代中盤から後半に刺さる商品はこうだとか言う訳ですよね。でも実際に集まってきているのは30代後半の主婦達なのに、ということに気づく機会がない上に、そういうことに気づきを与えるマーケッターが住宅業界、もっと言えばローカルエリアの年数十から100棟前後のビルダーには絶対にいないんですよね。なぜなら経営者もそういう役割の人に適切な対価を払わないからです。このままでは結局この業界は廃れていくだけです。
マーケティングとかブランディングとかは一朝一夕に活きるものでもないけれど、マーケティングって定量的なリサーチとか、街を歩いて隣を会話している主婦のこの会話を聞いてあっこれが求められているのか、といった情報を集積させるような世界観を住宅会社の人が自分で街を歩いて見聞きするようなことが大事です。

僕が住宅業界で展開しているマイホームアプリknotでやろうとしていることは結局何か?というと、マーケティング・プラットフォームをつくってるんですよね。住まい手は自分の家の情報を管理出来れば当然喜ぶんですよ。一方で住宅業界という安価で基本的に物を考える事が嫌な人達にとっても、自分であまり物を考えなくても僕らのサービスを使ってもらったら、いわゆるマーケティングオートメーション的な事が非常に簡単に出来て顧客の属性分析をいとも簡単に出来たりするわけです。例えば、家の間取りがどうあるべきか、という所から見直しをしたければ、フローリングに全部センサーつけてみる、といったことを考えるべきなんです。フローリング全部に圧力センサーつけて人の移動が全部データとして明らかになり、家の中で人間がどういう行動とったかが全部ログがとれるんですよ。もしそれが解ったら、今まで正しいと言われていた家事動線が本当に便利な移動動線になっていたのかという問いへの答えが出る。これがIoTの本領発揮の場所で、そういうのを僕はやりたいなと思っているんです。

将来のSOUSEIが目指す方向性〜人材と地域活性〜

いま将来の上場を目指してやっているんですけど、良く人に言われるんです。上場なんて目指さなくてもいいんじゃないかって。でも僕は自分の事業をより大きくしたい、社会に影響を与える公共性の高いものにしたいと思っているだけで、それを実現する上で一つの尺度というか信用性になると思うのが上場ということなんですね。企業として正しい事、あるべき姿、必要なモノというのは上場審査にあると僕は思ってるんです。

社会に影響を与える公共性の高い事業をするという点で、これから地域の建設とか不動産の産業が地方の経済活性化にどうやって産業として貢献していくのかっていう事についても興味があります。そして、街がちゃんと理念・ビジョン・ミッションつくっているとか、ちゃんと事業計画立ててみて街づくりをちゃんと経営するって素晴らしい事だと思っています。ただ、我々の産業はどちらかといえば地域経済にぶら下がっていた人達だった訳なので、意識とやり方を変えないといけないです。住宅や不動産事業の量的な活性化を会社の旗印とするのではなく、提供したサービスや商品がその場所に圧倒的に必要なソリューションであった、という図式でないといけない。

自分はいま、奈良県香芝市っていう所に特化して戸建の住宅会社をやってるわけですけど、もし香芝市の地域活性化や街づくりを事業として受けるとしたら、徹底的にデータが欲しいんですよ。例えば各病院の来院者数、それから各スーパーの来店者数、コンビニの利用者数、学校の通学数、塾の通学者数と通学時間、あらゆるデータ全部欲しいんですよね。で香芝の人間の移動をみたいんですよ。あらゆる産業は人がA地点からB地点に動く事によって生まれると僕は思っています。例えばその街にある商店や商店街は結構重要な役割担うわけですが、この街の月曜朝から日曜夜までの人の移動がヒートマップみたいなものでわーっと見えたらパン屋さんって本当はどこに出すべきか解ったりするじゃないですか。売っているものでターゲットの時間ってあるじゃないですか。この時間が僕らにとったらほっとタイムなんだと。そのホットタイムの動線がみえるというのはどの商業にとっても有り難いし、ひょっとしたらこの街にこれ以上パン屋つくっても無意味だよっていう事がわかるんですよ。こんな風に情報をかき集めるとその街のソリューションが見えてくるんですよ。

いま考えているマーケティング・プラットフォームは、こういう場面でも活かしてもらえるような、そんな世界ができるといいなと思っています。

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