住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 商品サービス戦略

規格型商品住宅で生活者の暮らしに寄り添う住宅供給を実現する 北海道・不動産企画ウィル

創業してわずか15年で道内の住宅着工数ランキングでトップ10入り、道内ランキングにおいて函館地域のビルダーでは唯一のランクインを果たす同社。急成長の背景にある「住まいのあり方を問い直し、生活者の暮らしに寄り添う住宅供給」を実践する佐藤社長の企業経営に対する考え方を伺いました。

佐藤社長有限会社不動産企画ウィル
代表取締役 佐藤 真一 様

社名のまつわる秘話。「地域ビルダーとして持つべき覚悟」を持つ地域ビルダー

今の会社を立ち上げる前、大手ディベロッパー、そして神奈川県にある建築会社に勤めていました。その経験の中で不動産開発やら営業、設計業務など色々と経験を積ませてもらいました。神奈川の会社は親戚が経営している会社で、6~7年修行させてもらった後いわゆるUターン組として函館に戻ってきました。社長は仕事に対してなかなか厳しい人で、特に「請負」という仕事はいわゆる一生のお付き合いが前提で、何があっても逃げられないという考え方を自分はもちろん社員にも常に言っていました。おかげで、請負で住まいを提供するような仕事をする以上は地域の方にちゃんと安心して貰える、そういう事業を行わなければならないというお教えが自分にも本当に染み込みました。
そんな背景もあって、自分が独立する時、一生何があっても逃げない、ちゃんと安心して貰える、そんな会社をつくる確たる自信などなく請負事業を展開するのはちょっと重いなと考えていました。あと、請負の仕事って一人二人でできるものじゃないわけで、そんなことからやっぱり不動産の売買をメインに、それに加えて仕事の経験から自分が得意とするところは住宅系のプランニング、設計業務が得意でしたから、不動産の売買時に設計の業務にかかわるような仕事を受ける事業をしようと独立しました。なので、社名には「不動産企画」とつけることにしたんです。
スタート時こそ確固たる自信を持てないままの出足だったわけですが、創業して2-3年経って、周りの環境環境が思いもよらず変化してゆく中で、自社で請負契約を受けざるをえない状況が生まれました。そこからは、前職で心身に染み込んだ教えに反することの無いよう、「地域ビルダーとしての覚悟」を決めて請負業務も開始したというわけです。そうこうしているうちに、来たる2019年は15周年と迎える時期となってきました。おかげさまで道内での住宅建築の仕事も注目をいただける位置になってきましたので、今後に確立、浸透させてしてゆきたい事業理念やブランド、自社の立ち位置を明確にお示しできるような社名を考えていきたいと思っているところです。

住宅事業の成長力をさらに高めるポイントは、標準化と生産性アップ

会社のポジションも変わってくる中で、社員も30名ほどの規模になってきました。そこで考えているのは、人数こそいますけれどいわゆる住宅事業のキャリアが豊富な人材が揃っている訳ではないので、若い社員とか未経験の社員とかそれこそ女性スタッフが経験を積む機会をどう作り、ステップとして一つずつ自分の仕事として覚えていく機会を作るか、という課題の解決策です。今はまだ取りかかり始めたところですけれども、キャリアがある人間がやらなくては駄目な仕事とその人でなくても出来る仕事というのを分業して、未経験の人は経験者の仕事に関わっていく中で自分の仕事として覚えていくような分業をしている最中です。こういう取組の先に、普通のプレイヤーが集まって成果を出していく、そんな会社にしたいと思っています。
なぜそのような考え方をするかというと、他の地域ビルダーとしてもよくある課題だと思いますが、高齢化に常に怯えているっていうことがあります。経営の安定性を考えるとき、中小事業者として資金繰りの安定という事もあるわけですが、それ以上に労働力の高齢化のようにこの先どういう状況になるかが見えているリスクをどうヘッジするか、ということの方が優先されると考えているからです。
中でも現場代理人、現場監督の業務はその典型です。極端な言い方ですが、ゼネコンの監督と木造住宅の監督っていうのは質とレベルが違うと思っています。2ヵ月半~3ヶ月で木造住宅は出来あがっちゃうので、工程表一つとっても、同じ事の繰り返しを阿吽の呼吸で大体わかるでしょみたいな事でやってしまう事ができる。そうするとどちらかというと楽してできる方に流れてく技術者とか現場代理人(監督)が結構いる。その結果、現場代理人(監督)の腕次第で工事期間が変わり一棟当たりの利益も変わってくる。そういう生産性の観点を重要視しています。着工から現場代理人(監督)が現場を見始めてから引き渡しが終わるまでの工程が、例えば2ヶ月半で「一定」であれば1年間で持てる現場の数が忙しさと成果がきちっと読めてきます。また、平準化されていないことでもしも工期が延びた際の同時並行の現場の増加が増えた時とかに、本人の忙しさと成果が伴わないという事が起きる。そういう意味でも、工程の平準化、工程管理の平準化というのが結構キーポイントになってくると考えています。

住宅販売にまつわるアンチテーゼ。「本当に生活者の暮らしに寄り添う住宅供給とは」

設計事務所に入る設計士や建築家という人は、大きい建築公共建築だとかを設計して達成感を味わいたいという人と、普通の人に喜ばれることに喜びを見出すような人と二系統に分かれると思うのですが、僕自身はどちらかというと住宅の方が好きで、しかも豪華な建物を1年に1棟みたいな住宅ではなくて、量産型というかプロダクトアウトというか、いわゆる「規格型商品」というものを戸建て住宅でも上手く使っていけばもっと「当たる」、「普及できる」という考えを元々持っていました。

僕も建築設計のキャリアを積んできたんですけど、こうですか?こうですか?って何回もプランを打ち出したりパースを出したりして、はいこれで買いますか?という進め方は本当にいい家づくりなのか?と常に疑問に思っていました。大半の消費者は「どんな家建てたいんですか」と聞かれても答えられないし、それどころか全然思ってもない様なことも言葉にしちゃう。御夫婦で考えている事が違って、実は喋っていたら喧嘩が始まっちゃうなんていうこともあるくらい。でそういうことを乗り越えて時間をかけて100点の家ができた、と思っていざ住んだら実はあれも足りなかったこれも足りないってことに気づいて、マリッジブルーならぬ「新居ブルー」になっちゃうこともありえる。自分の経験の中でもそういう思いをさせてしまったお客さまもある訳です。で、出会ったお客様と断片的・表層的にお付き合いしても本当の中身はどうなんだろうと思うと、おのずと限界がある。開き直る訳じゃないですけど、こちらがやり過ぎるようなことはしない、つくりすぎるようなこともしない、という方がいいのではないかと思うようになったんです。
あと、今までのやり方では要望のウェイトと打合わせしている時間のエネルギーのウェイトが合ってないのでは?ということも疑問です。例えばハウスメーカーなどが提供している打合せは、仮に30回の打合せ中25回位は「プランとパース」を使ったの打合せで、最後の5回位で照明やクロスの打合わせに使われる。で問題と思うのは、そのタイミングになると設計の人もいなくなりコーディネータだけが残って、施主側も旦那さんもいなくなっちゃって奥様だけがカーテン・照明の打合わせをして終わる。さらについでのように外構もアスファルトでいいですよね、となっちゃう。これってお客さまの求めている「暮らしの要望」をやり取りする時間・エネルギーのウェイトと「打合わせしている内容」の時間・エネルギーのウェイトが合ってない、典型的なミス配分だと思います。
こんなことを考えている中で出てきたのがプロダクトアウト発想です。むしろ規格化されて決まっているものであれば、間取りや性能などの選択肢を過剰に選ばなくてもそれはそれとして、自分らしさにとって本当に大切な部分に打ち合わせ時間をかけることができる、そういう商談をした方が家づくりを楽しみ続けることができる家になると思ったんです。もちろん、次世代以降に対応する性能は当たり前のこととして、例えば少しだけ住宅をコンパクト化することで性能対応もしやすくなりしかも予算が圧縮できる。その分の予算を家具の予算、外構の予算、照明器具のこだわり予算に回して自分の納得度みたいな所に使っていく事もできるわけです。ですので、うちのモデルでは、玄関ドアをひとつ開けてもらうと「これで規格住宅なの!?」っていう様なモデルハウスのつくりこみをしてます。見て実感されれば、規格であることはどうでもいいことじゃないですかと。家具はインテリアの領域だと思いますけど、照明とか外構はかなり家の表情をつくる要素だと思いますので、仮に器が似通ったとしてもその家の表情をどうつくるかっていうところが実はうちの勝負所だったりします。

地域ビルダーとしての使命と不動産企画ウィルの今後

15周年を迎えてさらにこの先、20周年・30周年・40周年っていくその道筋において、「どこが限界か?ということはあまり考えない様にしよう」とは思ってます。もちろん30年も先に自分の会社の仕事が何をしているかはわかりません。家をつくる仕事なのか、デザインを売る仕事なのか、ノウハウを売る仕事なのか、全くわからないけれども、ひとつ言えるのは函館以外にも拠点をおくとか、我々が持っているノウハウだとかをうまく活用出来る様に同業とでも提携をしていくだとか、M&Aを進めていくだとか、そういうことが地方の会社といえども未来の会社の成長には必要だと思っています。今の自分からするとちょっと怖いですし、無理かもと思うこともあるけれど、実はそれは知らなかったり慣れていないだけでちょっと背伸びしてみると意外にそれが正解だよというケースもあったりするだと思うんです。
ですから、この先はチャンスがあるときはチャンスに素直に取り組んでいこうと思っています。住宅産業というのはある意味社会的に重要なインフラの産業だと思っていますから、道路が必要な様にやっぱり家も必要で公共のお金が出るか出ないかの違いであって、街をつくっている事業だと思います。大手のハウスメーカーさんもあった方がいいに決まっているんですけれども、大手に負けないだけの地域の地元住宅会社も大切で、そのような企業が地元にあることで地域に力強さや安心感を与える、私たちもそんな企業になりたいと思っています。

ページトップに戻る