住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 商品サービス戦略

ハウスプランナーによる「マン・ツー・マン工法」で高い顧客満足と高い生産性を両立させる経営手法に注目 岡山県・ミナモト建築工房

岡山県にある株式会社ミナモト建築工房では、建築士の資格を持ったハウスプランナーという担当者がひと組のお客様にずっと向き合う「マン・ツー・マン工法」で、高い顧客満足を実現させながら業界紙による住宅会社の生産性ランキングにおいて全国トップクラスの実績を残しています。今回は青江会長(*取材時は代表取締役社長)をお訪ねして、高い顧客満足と高い生産性を両立させる同社の取組についてをお伺いしました。

青江社長株式会社ミナモト建築工房
会長 青江 源家 様

生産性の背景にある「モチベーションの引き出し」と「仕組み化」
(1)モチベーションを引き出す

今期はハウスプランナー11名で22億円超の売上となりました。営業、設計、現場監督を全て同じ人材で進めるうちならではの「マン・ツー・マン工法」だから実現できる生産性です。業界紙で取り上げられて以来、同業の皆様にも弊社の社員の働き方を見学いただくのですが、その際にも分業した方が生産性が高まるのでは?とよく聞かれます。それに対して私は「力がある人間が取り組めば違う」ということをお答えしています。例えば、設計する人間は現場を見ることができるんです。そして営業もできます。営業、つまりお客様と話ができて、こうしたらどうですかという提案を自分で直接できる、こういう人が強いんですよ。少し視点を変えて言うと「自分が扱う商品に惚れて売ることができるか」という差なんですよ。例えば、自動車会社の営業マンは、自分では変えられない他人が作った商品しか売ることできません。でも私たちは「注文住宅」を売っています。カタチのない「お客様の夢とご希望」をカタチある「住まい」へと具体化、実現するお手伝いをする仕事なんです。まさに自分が扱う商品に惚れ込まなければできない商売だと思うんです。
ところが今の住宅産業を見渡すとそこで行われているのは営業・設計・現場監督が分業され、流れ作業のように受け渡されていく仕事の進め方です。特に大手ハウスメーカーと呼ばれる会社では、A社に所属したらA社の決めた仕様で設計をしますから結果的にだれがやってもだれが見てもA社の建物になります。それはB社に属してもC社に属しても同じことです。ということは設計者がある意味「機械」となっているわけです。
中学生、高校生くらいには将来の職業選択を考え始め、例えば医者になりたいとか、旅行ツアーの仕事をしたいとかが出てくる。その中で「建築」を選びそのために大学や専門学校などに行って、住宅を作りたい、大規模建築に携わりたいといった選択の結果、多くの人は知らない様な工務店には行かずゼネコンやらハウスメーカーを選び建築の仕事を始めるわけです。しかしそこで数年経ったときに自分の一生、それは分担された役割に一度就いたらずっとその仕事をするようなイメージが見えてくる。そんな時、ミナモトで仕事をすれば建築を選んだ際に自分がやりたいと思っていた仕事が実現できる、全部任せてくれるという情報に接すればうちに関心が湧くわけです。もっとも、そういう人が例えば20人いたとしてもそのうち19人は「機械」の現状を我慢します。家庭のことやら何やらいろいろありますし。でも残りの1名は「自分が建てたい住宅を、建てたいお客様と一緒に建てたい」という思いを叶えたいという人材かもしれません。今のうちのハウスプランナーはそんな人材との出会いから始まっています。

生産性を高める経営をする上で、社長の仕事の一つにはここまでお話ししたように「自分からやりたくなる」環境を作ることだと考えています。きっかけはミナモトにいけば家づくりの一連の仕事を全部自分でやれるっていうことですが、実は一番のモチベーション、動機付けは「自分のやりたい仕事ができる」ということなんです。こうしなさいっていうのは駄目です。うちのハウスプランナーはいわば11人の設計事務所の先生みたいなものです。これがやる気の源になって高い生産性を実現できる組織になっているのだと自負しています。

生産性の背景にある「モチベーションの引き出し」と「仕組み化」
(2)仕組み化

会社のポジションも変わってくる中で、社員も30名ほどの規模になってきました。そこで考えているのは、人数こそいますけれどいわゆる住宅事業のキャリアが豊富な人材が揃っている訳ではないので、若い社員とか未経験の社員とかそれこそ女性スタッフが経験を積む機会をどう作り、ステップとして一つずつ自分の仕事として覚えていく機会を作るか、という課題の解決策です。今はまだ取りかかり始めたところですけれども、キャリアがある人間がやらなくては駄目な仕事とその人でなくても出来る仕事というのを分業して、未経験の人は経験者の仕事に関わっていく中で自分の仕事として覚えていくような分業をしている最中です。こういう取組の先に、普通のプレイヤーが集まって成果を出していく、そんな会社にしたいと思っています。
なぜそのような考え方をするかというと、他の地域ビルダーとしてもよくある課題だと思いますが、高齢化に常に怯えているっていうことがあります。経営の安定性を考えるとき、中小事業者として資金繰りの安定という事もあるわけですが、それ以上に労働力の高齢化のようにこの先どういう状況になるかが見えているリスクをどうヘッジするか、ということの方が優先されると考えているからです。
中でも現場代理人、現場監督の業務はその典型です。極端な言い方ですが、ゼネコンの監督と木造住宅の監督っていうのは質とレベルが違うと思っています。2ヵ月半~3ヶ月で木造住宅は出来あがっちゃうので、工程表一つとっても、同じ事の繰り返しを阿吽の呼吸で大体わかるでしょみたいな事でやってしまう事ができる。そうするとどちらかというと楽してできる方に流れてく技術者とか現場代理人(監督)が結構いる。その結果、現場代理人(監督)の腕次第で工事期間が変わり一棟当たりの利益も変わってくる。そういう生産性の観点を重要視しています。着工から現場代理人(監督)が現場を見始めてから引き渡しが終わるまでの工程が、例えば2ヶ月半で「一定」であれば1年間で持てる現場の数が忙しさと成果がきちっと読めてきます。また、平準化されていないことでもしも工期が延びた際の同時並行の現場の増加が増えた時とかに、本人の忙しさと成果が伴わないという事が起きる。そういう意味でも、工程の平準化、工程管理の平準化というのが結構キーポイントになってくると考えています。

住宅販売にまつわるアンチテーゼ。「本当に生活者の暮らしに寄り添う住宅供給とは」

「マン・ツー・マン工法」ではセールスして、プランニングして、現場管理もして建てるということですが、工事はうちから全て分離発注をします。
工務店、普通の工務店では現場監督は忙しいと言われます。ではそういう現場監督の何が忙しいかといえば、大工と材の手配が忙しいんです。ところがうちのハウスプランナーは違います。手配は一切やりません。但し、決めるものは全部決めているんです。何を使うかを決めてそれをお客さんに承認してもらう、ここまでがうちの仕事です。で、その後の発注は「坪単位」だけなんです。もちろん特殊なものは別ですけど、実行予算の積算が物凄く簡単で坪幾らだけなんです。つまり基本的な「規格化」ができているということです。そんな状況なので注文書一本あればよく、ハウスプランナーはお客様と一緒に施工の進行確認をするために現場に行く以外、現場に行かなくていいんですよ。
こういう話をすると粗利率のブレはないですか?とも聞かれますが、それもブレません。着工する前にコーディネートボードを全てプレゼンしてお客さんから承認を貰って、その上で発注をする。つまり、何をどれだけ使って、その手順で進めていくかがわかっていわけです。しかも何をどれだけ使いどうんな手順でいくかを作る側だけでなく材を出す側も両方がわかってるから必要な時に必要な分の材だけが現場にいく。大工さんと材木屋さんの間で、いつ頃に棟上げしてそれが終わるとこの材を、といった具合に全部の材を数回に分けてこれとこれをいついつ入れてという話がついている。普通は必要な材を都度発注しないと現場に入らないけど、うちは放っておいても入ってくる。それでいて「余分」な材も入らない。もし入ったとしても使わない材の分は材料屋さんが損を被るだけだから。こういう現場と流通の関係が「決まって」いることも高い生産性につながる一つの要因です。

家づくりは「まちづくり」。

土地分譲事業は20年ほど前から始めていましたが、最近はまちづくりに関心が高いです。ミナモトでは家を建てることはまちづくりにつながっていると考えています。住宅の建築を通じてまちなみに配慮し、近隣のコミュニティーに関係性を構築するような仕掛けをすることで、豊かな住環境を創造に貢献することも私たちの仕事だと思っています。それを具体的な取組にし始めたのはここ3年から5年のことです。

小さなことですが、新たな住まいで豊かな生活の提案を具体的に示すために、例えば区画の販売価格に全部野菜を植えてある全家庭菜園を込みにした分譲をしたことがあります。始めの野菜を収穫してその後新しい野菜を植えようが植えまいがそこまでは縛りません。とりあえず生活提案している訳です。恐らくですが、半分位は野菜を作るんじゃないかと思うのです。ホームセンターに行って苗を買ってきて、野菜を作るから肥やしも入れて。行ってみると実際に植えてある訳です。「しなさい」じゃないんです。あと、「実のなる樹、果実のある樹」を1本植えて下さいという分譲もしました。一本はうちが植えて販売しますが、それに加えてもう一本植えて下さいとお伝えします。手入れを考えると躊躇されるお客様もいますが、もう一本の分も土地代に入っていると言うと植えてくれるんです。強引なんですけどね。でも最終的に植えないと損だということでイチジクがいいとかレモンがいいとか何がいいとか、って言って1本植えてくれるんです。これが10年経つと街並みに実がなってくる。年数が経つごとに段々段々大きくなってくると樹が良くなってくる。こんな風に緑や樹木を使って「まち並み」からいかないと。土地の提供にまでこだわるのは、先ほども言ったように、今までは家を建ててるだけだったけれどこれからは家建てるだけでは足りないと考えているからです。
あと最近の例では11軒が共有する中庭付きの住宅地を分譲しました。今はご近所同士の繋がりがないでしょ。マンションの隣で人が倒れていても気がつかないっていうことがあっても、それでもその方がいいと。皆で集まって近隣の掃除をしようとかは面倒くさいし、そもそも隣とも関わりたくないという様な人が多い風潮ですよ。でも、でもそうじゃない人もいる。べったりでは嫌だけど少しは関わりたいという人が。そういう人のために取り組んだ仕事です。ただ、この仕事では、売れるのに普通の3倍位も時間かかりました。はじめはわりと集まるんですけどはじめに集まった人はその後半分位は買うのをやめたんです。お互いに言い合えないけど個々に聞くと「あの人が嫌だと」。こういうコンセプトの街を売るのは難しいとあらためて思いましたが、なんとか完売しました。結果的には、建てる前に気に入った人たちが住まいを建て始め、中庭も相談しながら共同で造ったことで、今ではその中庭で家族ぐるみでバーベキューなどを楽しむような仲の良いご近所付き合いをされています。
うちは住宅を建てる仕事をしている訳ですが、ただ家を建てるだけという仕事には限度がある。だから家を建てて売るだけでなく環境も売っていこうとしているんです。環境とか生活スタイルとかについてこれからももっと考えてかなくてはと思っています。

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