住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 ブランド戦略

目標は常に高く。高い志と高い技術力+広報戦略で、県下・地域ビルダーのトップへ 高知県・建匠

地域住宅会社としては高知県で今期ナンバー1が見えている株式会社建匠の西村社長。地域トップビルダーとなる過程のなかで注目すべきは、高い志と高い技術力を持つこと、そしてそれらを「経営資源」として蓄積するための「広報戦略」です。地域密着の工務店にとって示唆に富んだお話を西村社長に伺いました。

西村 龍雄株式会社建匠
代表取締役 西村 龍雄 様

創業時から決めていること。「目標は高く掲げる」

今年で8年目になりますが、ようやく高知県内の地場住宅会社で今期の着工数トップが見えてきました。残る上位はナショナルブランドのハウスメーカーだけですね。結果的に8年かかりましたが、創業当初から地場住宅会社の着工数トップのレベル、おそらく年間50棟を越えればトップと言えるはず、という着工規模を目指して会社を続けてきました。
売上で見ると実績は11億円ちょいで、今期は16億円の目標。少しアップトレンドを上げる動きとして今期から分譲事業も始めました。これまではあまり土地の扱いはしてこなくて、それこそ懇意にしている不動産業者さんが開発した用地を年に1回程度買って販売するぐらいでした。元々はR+houseのモデルを見せた後で分譲するということをここ5年位やってきました。売れ残ると辛いっていう体験もしてきてはいますが、事業として今期は12区画の販売を目標にやり始めました。おかげさまでつくっている途中に売れているものもあるくらい回転が良くなってきているので来年用にも残しておかないといけないかな、と焦っているくらいです。

ここまでのお話だけだと順調に伸びてきている感じもしてしまいますが、途中途中では結構大変でした。特に2年目、3年目は転機だったと思います。常に思っていたことは自分が目指すレベルへの意識を落とさないということです。例えば、現段階で20棟しか建ててない時でもすでに50棟を当たり前に建てている企業のトップと付き合い、今50棟が見えてきた中で100棟ビルダーのトップを付き合い、自分の目線を下げないようにしてきました。

2年目の転機。「続けるための決断」と「知らないものは誰も買えない」

実は創業した初年度、半年で30棟建てました。本当に恥ずかしながら…という話ですが、銀行融資を受ける術もなく、最初の半年に10棟10棟10棟で建築していく建築計画を立て、ひたすら現場に入りました。最初の10棟の建築が終わってから次を建て始めるというスパンではお金を立て替えられないので、契約金、着工金、中間金、完工金と絶対ずらさないスケジュールでお金をまわしていました。
無茶をしましたがおかげで初年度は利益が出ました。粗利は12%でしたけど。ただ当時はそれこそ事務所も持っていなかったので固定費も全然掛かっていなかったので結構手元に残りました。そこで2年目の転機として私がやったことは「2年目の目標売上の7%」という広告宣伝費をその年だけかけました。知名度引き上げようっていう目的でした。あと、社員を4人雇ったのもこのタイミングでした。さらに丁度その年、東日本大震災があったので起震機もキャッシュで買いました。
そんなことで2年目はマイナス2,500万円の赤字でした。意図的に出した、ある意味で戦略的な出費だからそれで決算がそうなってもそんなものだろうという気持ちでした。ただ転機というのはそういう意味ではないんです。さっき言ったような投資を立て続けにしたこともあるんですが、実はこの2500万円の赤字は販促費や設備投資によるものというだけではなく売上が落ちていたことにも原因がありました。売上が落ちた背景には、私が自分で受注を取ることをやめたから、というのが一番大きな理由でした。
2年目を迎えるにあたって強く思ったことは、このまま自分が営業をやり続ければ取れるのだけどそれだと継続的に高知のトップをとれない、それは意味がない、ということでした。瞬間風速でトップに立てても、私にもし何かあったらそれで建匠は終わっちゃいます。だから自分で取るのをやめよう、社員が取れる会社にしよう、社員が会社の利益を上げてくれる、そういう会社にしよう。そう思って4人を一気に雇ったんです。

採用とあわせて「まず会社を知ってもらう」、このために何をするかを考えました。それが2年目の売上計画の7%の広告宣伝費です。前職の経験から「世界の全ての商品は知らないと買えない」と強く思っていましたから。余談ですけど、会社を起こした時から昨年までやったトンガリ頭もそもそも知ってもらう為でした。
実は、私はずっと日本建築と神社お寺がメインで、高知の名のある神社は結構やっている工務店に大工として勤めていました。昔ながらの老舗のいい工務店で、神社とかお寺とかやって技術があるという評判で私の親世代のお施主さんから仕事をいただいていました。しかし、腕があれば、実績があれば売れるという時代は続きません。だんだん紹介が途切れていった時に「あ、誰も知らないこの会社の事。だってHPもないし施行例の写真も撮った事ないし」ということを今更のように気づかされました。新規を取る力がゼロだったのですね。「世界の全ての商品は知らないと買えない」、まさにそういうことだったんです。

3年目を迎えて変えたこと。「採用と教育」そして「広報と販促」。

2年目に4名を採用して学んだことは、「人はそんなに簡単に育たない」ということでした。人の成長っていうのはこんなにも一歩ずつなのだなと思い知らされました。そんなことで3年目も自分で取りながら渡す感じで仕事を進めていました。

採用力っていうのは、会社の仕組み・システム、それから周りからの評価、建てている住宅のクオリティ、それらが総合して人を除いた所で高いレベルまで上がっていくとついてくると思っています。でも教育という点では積み重ねなので、例えば私は今でも営業・設計・工務の全てにおいて自分が建匠で最強戦力だと思っていますから、「自分を外して組織が何点なのか」っていう視点を常に持って組織を見ています。そうやって新卒でとった20代を中心に3年目4年目5年目を経て、自分がパスしなくても社員が社員自身で受注できるようなチームとして機能し始めたのは、正直なところこの1、2年ですね。

もう一つ大きなターニングポイントは、3年目で折込チラシを止めたことですかね。多分これは結構大きい出来事だったと思います。
はじめにも言いましたけど、上を目指して色んな会社と出会う中で、棟数をやっている会社の宣伝広告費が大きい、まぁ当然大きくなっていくのですけれど、事にびっくりしました。そしてもっと驚いたのはその殆どを折込チラシが占めていることでした。高知にお住いの方が都会にお住いの方よりも全然新聞読んでいると思いますけど、ただ新聞折込に依存する状態では、30棟で使っているお金が100棟になると単純に3倍のお金を使い続けないとお客さんが来ないかもしれないけれど、一方で同じ人に何回配っても見る人は同じだろうという無駄な感覚が消せません。それで折込チラシを止めていくには何をすればいいのだろうって真剣に考えました。

そんな頃、社員がフェイスブック始めたんですよねって来て聞いた時に、自分の中で「これいけるじゃん」となったんです。3年目でフェイスブックを始めて、フェイスブックをメインの販促媒体に移していったのが4年目位でした。そんなに簡単に戦力化しないので、頃合いを見ながらちょっとずつ減らしていきました。思い出しても0にするときはめちゃくちゃ怖かったですね。今みたいにネットやSNSもそんなに普及していなかった頃ですから。おかげさまで今ではインスタグラムとフェイスブックで見学会とスタジオに直接集客ができるようになりました。やっていての実感は、場所などもネットで「自分で調べてまで来る」人の方が当然契約率も上がるわけで、その辺りも結果として20代の新卒でも取れるようにするという効果につながっている気がします。

集客コストがSNSなどで低くなったことでモデルハウスの運営を除いた販促費用、売上比で3%位ですけど、その内訳はどちらかというと集客費ではなく、ほぼ「広報費」にしています。
私は前から「販促」ではなく「広報」という言葉を使いますが、知名度を上げる為に売上の7%も使ったことは2年目単年で終わらせるって決めていたので、そこから絞ってまた3%にしていくときに、ネット集客を背景に集客費用を減らして同じ金額なのだけれど広報費用を増えていくことを考えていました。

例えば今から3年前、創業5年目の時に「建匠STYLE」というローカルテレビ番組を「住宅系地域創生バラエティ」って名付けて始めました。結局3年と8ヶ月続けましたが、司会は私でしかも3分番組なのでそんなに高額ではなく、折込チラシを止めた金額で充分やれました。必ずうちで建てたお家を映してますから、建匠の家の「あんな感じ」というイメージも定着する。おかげさまで、中学生から60歳まで千人にアンケートとって、知っている人が93%にまでなりました。私が家を建てた団地では小学生でも私の事は知っています(笑)。こうなるともう知名度は稼ぐ必要はないわけです。だから今は①に社員教育、人材育成、②に住宅商品の圧倒的強化、③に広報ということに注力できます。

動画の力を活かして、さらに広報力をアップ。

今後は「建匠STYLE」を通じて獲得した効果である「知名度」を超え、広報戦略の成果を「価値NO.1への挑戦」と掲げています。建匠としてはデザインって言うよりは技術力の方が信頼度を高めるのに直結するのではないのかと思っていますが、デザインという要素を無視しているわけではないです。ただ、デザインは「みればわかる」要素です。それをいかに広報の力で伝達してゆくか。その鍵は「動画」の活用だと思っています。
IT業界の中では有名らしいのですけれど、一人の使える時間、睡眠、お風呂、仕事時間を除いた「可処分時間」をどれだけ掌握するのかが業績の肝という考え方があるらしいです。それを聞いた時に、住宅業界のお客様にも同じ事が言えると思ったんです。私達の広報が生活者の可処分時間を大きく奪うことはできないかもしれないけれど、スマホの中にいかに入っていくか、ということは自分たちでもできるのではないかなと。

スマートフォンを通じて一般の人達の生活の中に入り込めるのはやはりSNSだと思います。SNSの構成要素は折り込みと一緒で基本的に文章と画像、その次に動画ってなるわけですが、基本的な情報伝達まだ画像付文章が中心です。画像付文章は自分で「読む」という必要があるわけですけど、動画に注目したのは、例えば技術の事など小難しい内容は折込チラシとかでも「読まない」だろうけど、動画なら「見て」くれるんじゃないかなと。
で、動画は調査をすると視聴するかしないかのジャッジ、判断の限界が2秒らしく、2秒間の間にどう価値付けするのかっていうのが動画の最大の肝なんだとわかり、最初の2秒に確実にキャッチーなものかメッセージ性のあるものを入れるっていうのをうちの動画作りの鉄則にしています。2秒のためには”おちゃらけ”もやりますが、これで性能とかに興味を持ってくれる一つのきっかけになり、家を建てようとなった時に建匠で建てたいのですって来てくれれば十分な広報だと思っています。

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