住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

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「100年工務店」。地域工務店として求められる役割と機能を果たして145年。 広島県・橋本建設

地域工務店と家守

橋本建設株式会社
代表取締役 橋本 英俊 様

基本的にこの地域で145年もやっててまだこの状態ですから、代々商売は上手なほうじゃないと思うんですよ(笑)。何にしても、うちとしては「地元に地域密着する」ということ、そして「住宅建築をコアな事業領域にする」ということからは大きくはみ出すことなくやってきた結果として今があると思っています。
企業の存在意義としては、自分たちが根ざすこの地域に住まい・家がある限り、僕らはそれをずっと守(もり)をしなくてはいけない、そういう役割を自覚しています。極端な話、将来もしかして会社の規模が小さくなろうが「会社は残らなくてはならない」、そういうことを先代から言われ続けています。その考え方の一つの流れで、会長は「工務店は世襲制が望ましい」だからこそ「責任感」を持ち続けることができるんだ、という考え方を持っているようです。個人的には100%の同意はしていませんが理想としては理解しています。
家守として存在し続けるからには、基本的にちゃんとした住まい・家の情報を残しておくことが全ての起点、基本だと思っています。長くやっているので、近隣の古い住宅など「あそこはうちのお爺ちゃんが建てたらしい」とか、そんな話を耳にするんですけど、さすがにわからない。当時の書類はほとんど残されていません。もしうちがどこのお家をいつ建てたって記された書物が残ってても、明治時代の書物なんて読めないだろうし(笑)。冗談はさておき、ちゃんとした住宅履歴情報を残して行こう、となったのは先代からです。なので少なくても30年ほど前から、まだ青焼き図面が普通だった頃以降の情報は全部書庫に残してあります。今後は、それをどうデータ化するかっていうのが中々大変です。
何にしてもこのOB顧客情報は財産ですし、お問合せが来た時に、何年の誰々さんですね。どこどこの箇所はいつ改修してますね。という「カルテ」が当然のようにある、そういったものをどういうようにデータ化するかという所を考えています。
また、うちもISO9001を取ってますが、先代が、世界基準での通信簿じゃないですけど世界的に統一の一定基準があるなら、それに合わせることに挑戦すべきだろう、良い物を作り続けて蓄積するための方法として一定の基準やルールがあるんだったらそれに乗っかろうよ、って事で取得しました。これもお客さまからの連絡が入って何かトラブルがあったとか、こういう施工の仕方はまずいよねとか、要は何十年か先に担当者が変わっていてもそれを見返せばこういう情報があるよというのを蓄積しておきたい、という思いが根底にあります。

家守としての姿勢。ファストリフォームとは一線を画す

家守として地域工務店として生き続けるにはそれなりに継続的な仕事も必要だと思いますが、ありがたいことに大工の腕と管理能力を買ってもらって設計事務所さんからの仕事をいただくなど、ご依頼を受けるルートは多様になっています。新築請負以外でも、広報活動こそそんなにはしていないですけど、長くやっている分リフォームの仕事も結構いただきます。その時に決めているのは、新規のお客様からの相談で、ファストリフォームと言われる水回りの設備の付け替えが中心の改装工事で競合になった時、基本的には「やらない」ということです。うちは大工さんの技術を売りにしたいのであって据え付けてなんぼじゃない。だから古民家改修だとかそういった工事に関しては頑張ります。
僕らの仕事って、会社の歴史だとか技術だとか知識だとかの蓄積っていうのが当然あるので、ファストリフォームの営業マンとは当然違うわけです。例えば手術をするとして、体を開けてみた時にこの部分が悪いと思っていたら実は別の部位もやばかった、でも契約はその部分だけだから他は知らない、では困りますよね。総合医としては「これも手を入れた方がいいですよ」っていう話もするし、「完全に治すならこうですよ」って話をしなくてはいけない。
今どき、お医者様の世界でもホームドクターとか我が家の掛かり付け、主治医という存在がいなくなってる家はいくらでもあるじゃないですか。同じように、お客さんがファスト的なリフォーム専門店とうちを見比べる時、あそこは家に関することだったら何でも相談できてちゃんと処置してくれる、そんな町医者じゃないですけどもそういうように思われる会社を目指しています。

地域工務店としての役割と機能をどう考えるか
大工の育成

新築にしてもリフォームにしても大工の技術を「売り」にするっていう話をしましたけど、うちの大工さんはみんなイケてる人たちだということを伝えるために、もちろんイケてる大工をどう育てるかから取り掛かって、さらにそれをどう見せるか、どう示すかっていうことも考えて実際にやっています。
取り組みの一つが新徒弟制度という制度です。大工になろうと橋本建設に入ってもらってから、はじめの5年間はうちの「社員」として働いてもらいます。その5年の間で基礎中の基礎くらいのことを身についてもらい、その段階で会社を卒業させて棟梁に3年間、棟梁に雇われる形でさらに腕を磨いてもらいます。で、その3年間の結果、「橋本建設の大工さんとしてお客さんに出しても恥ずかしくないし、他の業者さんにも迷惑掛けない」って指導棟梁のGOサインがでればうちの棟梁として認めることになります。この制度を経た棟梁で、今うちで一番若手の棟梁は30代後半ですかね。高校出てすぐという人だけじゃなく、大学出てからっていう人もいます。

そうやって育ててのちに、長くパートナーとして一緒に仕事をしていただくことにも取り組んでいます。一部の工務店さんでは大工さんを消耗品、下請け職だと思ってる会社もあるように思います。そんな関係だと思っていると、逆に大工さんの側から見れば、育ててもらって、ずっとうちから仕事貰ってやってきてもらったって事があるにしても最終的にはお金の条件で他所にいくっていう選択につながることでもあります。社員ではないから仕方ないかもしれないけど、でもそれじゃぁ事業も長続きしないし、「売り」である大工の技術も続かない。
それで始めたのが、2年前位から大工さん一人一人と全員面談をして、「何歳まで働くつもり」とか、「辞めた後にどうしたいか、いくらお金を残したいか」とか将来設計の話をして、じゃあ逆算して一緒に退職金の様なものを積立てていこうということにしたんです。橋本建設で育って橋本建設で現役を終わった時に、自営業とか個人経営主だけどある程度お金が手元に残る、そんな積立てを一緒にしてここで働いて良かったねと思ってもらえる様な、そんな会社にしたいと思って始めました。

もう一つ、お客様からみてうちの棟梁や大工さんの技量を「分かりやすく」することにも取り組んでいます。
大工さんのブランドを上げるために、大工技術の国家資格でもある「建築大工一級技能士」っていうのをみんなで取ってもらっています。まぁ、仮にそれを持っていなくても良い仕事が出来る人は山ほどいるわけで、技能士を取らないと仕事が出来ない仕事じゃないんですけど、少なくともお客様からみて「分かりやすく」評価される資格があるのであれば、取っておこうよということです。

これからの工務店とは、を考えています

工務店と言っても営業で受注だけはするけど、プランニングから施工から全て外注、商社みたいな工務店ってありますよね。でも僕は工務店なら施工だけでなく設計業務から申請、全て自社で全部出来る体制が必要だと考えています。もちろん外注をすることもありますが、出来るけど外注、と出来ないから外注、は違うと思うんですよね。

それと。これからのことについての関心テーマはいっぱいあるんですが、特にこれというのを挙げると中古住宅の流通を基本とした不動産事業ですね、やっぱり。建てるという相談の前に僕らの所に来てくれたら、不動産と建築の融資も一本化しやすいし、ここは買った方がいいか買わない方がいいか、みたいなアドバイスもできる。でも例えば土地を買った後で相談に来られても、この土地はお客様の予算の計画では無理があったでしょ、ってことが言えないんです。そこを変えたいんですよね。あと中古住宅を買ってリフォームをしたいと考えてる人達も工務店に来てね、と言えるようになりたい。そのために不動産の情報を多く持ってる工務店、本来はそういうのやりたいなって、考えてます。

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