ドイツの環境先進住宅モデルから見る日本の将来 /4号 2009/12

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村上 敦氏基調講演より

皆さん、“ピークアウト”という言葉をご存知でしょうか。最近、新聞等の環境に関する話題の中で目にする機会があるかと思いますが、この言葉の意味は「頂点に達すること」。間もなく化石エネルギー源がピークアウトする、すなわち化石エネルギーの消費量が生産量を上回ろうとしています。

環境先進国であるドイツ政府は、2014年にピークアウトを迎えると予想しております。原油や天然ガスの生産量が下がるとどうなるでしょうか。ガソリン代、電気代はもとより衣料、食品、電化製品に至るまですべての物の値段が上がります。昨年、ガソリンが200円/Lに届こうかというところまで価格が上昇したことは記憶に新しいと思います。この時は、その後のリーマンショック、サブプライムローンの影響で大幅に値下がりをしましたが、実はそのままガソリンの価格が上昇し続けてもおかしくない状況にあるのです。もしガソリンが1,000円/Lになったら…そんな時代が訪れることを想定し、世界各国が国家規模で基準や法律の整備を急ピッチで進めています。

それは、住宅・不動産分野でも例外ではなく、今後、エネルギーを効率的に活用できる住宅、耐久性能の高い住宅、既存住宅の再利用などが普及・促進するような施策が次々と打たれていくでしょう。激変する社会状況の中で企業はどう対応していけばよいのでしょうか。そのヒントはドイツにあります。鳩山政権の環境政策はドイツを参考にして作られています。そこで、環境先進国ドイツにおける最新の住宅動向について、ドイツ在住の環境ジャーナリスト村上敦氏にご紹介いただきながら10年後の日本の住宅不動産動向を考えてみたいとおもいます。

ストックとして価値のある住宅(ドイツの事例)

環境ジャーナリスト村上敦氏今、アメリカの原油1ガロンの価格は4ドルですが、6ドルから8ドルくらいになるとほとんどの飛行機会社は倒産し、ピックアップやSUVといった車は全く売れなくなるだろうと言われています。このようにガソリンの価格が現在から1.5~2倍になることで人々の生活は大きく変わるといわれていますが、この時に人々がどんなライフスタイルで生活をしているのかを想像するとこれからのビジネスの方向性が見えてきます。

ドイツでは現在、「ストックとして価値ある住宅」の普及を進めておりますが、ストックとして価値のある住宅とは何かということについて、立地、耐久性、安全、健康、省エネの5つの視点からご紹介いたします。

1番目は立地です。ガソリンが1,000円/Lになったら今の住居に住み続ける事は出来るでしょうか?エネルギー価格の高騰により、燃料を必要とする移動手段の利用が困難になった時、医療機関や教育施設など日常生活の中で必要とされるインフラにいかに安く移動できる場所にその物件があるかということが価値の高い物件となります。
ドイツのフライブルグ市には戸建て住宅は一戸もありません。1haあたり大体140人の人口密度で都市計画を進めていますので、中心部には集合住宅しかなく、駐車場も郊外に立体駐車場を建設し、自宅から駐車場までトラム(路面電車)などの公共交通機関で移動できます。
今後は必然的にエネルギーと資源の価格は高騰します。いつの時期にどのくらい高騰するかは断言できませんが、EUはおそらく2015年から2020年くらいで今の化石燃料というのは非常に高価な物になってしまうと想定しています。さらに、日本においては高齢化が進み労働人口が減少していきますので、税収は落ち込んで国債・公債の返済額は膨らみます。さらに社会保障費も膨らみますから、限られた国家予算の中で既存の交通インフラが果たして10~20年後も今のように維持できるかというのは非常に疑問だろうと言われています。そうなると、人口は移動に便利な都心へ回帰し、最終的には郊外の戸建て住宅など車がなければ生活できない物件は、10~20年後に価格が下落していくと思われます。これらのことを考えると、これまで以上に公共交通を意識した立地が重要になるのではないかと考えられます。

2番目は「壊れない」ということです。日本は過去に何度も大規模な地震がありました。その度に耐震基準が改正されるということが繰り返されてきたため、旧耐震基準で建てられた住宅はストックという点でとらえると価値が下がってしまう現象がおこっています。しかし、これからは耐震パスというものが導入されたり、構造計算というものを客観的に明示するようなシステムが導入されるのではないかと思います。まだ民主党より具体的な指針は発表されておりませんが、これから先、新築ではなくリフォーム型ストック型への移行が政策になっていますので、丈夫な躯体を持つという事が、住宅としての価値を高める要件になるのではないかと思います。

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