データをよむマーケッターの目
ハイアス・アンド・カンパニー ハイアス総研主席研究員 矢部智仁さん
生活者が住宅に求めるものがこの10年で大きく変わったといわれるが、私はそんなに変わっていないと思っている。変わったとすれば、暮らしの選択肢が多様化したというこうことだ。
新築か賃貸か中古の購入か、そのくらいしか選択できなかったものが、今ではいろいろ選べる。新建ハウジングの今回の独自生活者調査の結果(8-9面参照)でも、さまざまな選択肢がそれなりの割合で選ばれているのは、それらが認知されていることの証だろう。
[選択肢の情報が活発に流通してきた]
かつては、例えば賃貸ならば、あるものをあるがままに使い、原状回復して返す以外の選択肢がなかった。それが面白くなくて、自由に暮らせる持ち家取得の意向につながっていた面もある。それが今はDIYやセルフリノベなど、新たな選択に関する情報が流通し始めたことで少しずつ生活者の意識がかわってきているのではないか。
[情報格差が暮らしに影響]
一方で、情報の格差が広がっている感覚もある。
今どき新築住宅を35年ローンで買う人は、一面的には情報弱者かもしれないという仮説だ。
暮らしの選択肢が豊かになっているのに、その可能性に気が付いていない人がいる。普段接している情報源によって、選択肢が挟まっているかもしれない。それは収入の格差とは違う格差だ。
例えば長期ローンで新築を買うという行動が、先の時間が長い20代、30代の若い世代に多いのはわかる。しかし40代の新築持ち家意向の多さは、それ以外の選択肢を意識していない可能性がある。ここは、情報が流通したとき、されに大きく変わるかもしれない。
[多様化にどう対応するか]
要するに、需要サイドでは新築だけにこだわらない兆しが見え始めている。例えば、10年前の30代と今の30代は使えるお金にかなり差がある。
今の収入でどのように暮らすかと考えたときに、中古住宅を購入して直して使うという選択も「普通」になるだろう。
こうした生活者の変化に、ある程度の規模で事業をしている工務店は、事業の構成を多角化してでも合わせていかなければ、経営は難しくなっていくと思われる。現状のリソース(経営資源)で対応が難しければ、外部との提携も必要になっていくだろう。(談)