コンサルティングの現場から 「住宅不動産売買仲介業の事例」 /3号 2009/10

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「お客さまはよい物件がないから買わない」のではなかった

前号では、営業効率の低下に悩む中堅不動産会社の事例をご紹介しました。
本当の課題は「お客様とのコンセンサス不足」だったのですが、今回は改善のために講じた対策とその後の成果について解説していきたいと思います。

対策「ライフプランニング相談でお客様の人生に関心を持つこと」

コンサルティングでは、売買営業知識やマネジメントスキルの基礎的な研修や、案件レビュー(=顧客状況と接触履歴から契約シナリオを設計すること)を行いました。その中で、まずもっとお客様情報を聞き出すことの重要性を繰り返し伝えました。そして、物件と価格のミスマッチが起きているので、すぐに物件の話をして案内をする前に、お客様にとっての「正しい予算」(ストライクゾーン)をお客様と一緒に確認するプロセスを組み込みました。
「正しい予算」を確認する手法は「ファイナンシャルプランニング(FP)」です。弊社が開発した簡単に使えるFPシステム(ハイアーFP)を導入してもらい全員が使いこなせるようにトレーニングをしました。特に訴求すべきポイントとして、将来的な給与収入の不安定さ、子供の教育費や、老後にかかる費用ともらえる年金額など、ライフプラン全体の話を徹底することにしました。
また営業プロセスの改善状況を把握するための管理指標として以下を設定しました。
・アンケート取得率(アンケート取得数÷接客数)
・FP相談率(FP相談数÷接客数)
・次回アポ取得率(アポ取得数÷FP相談数)
・契約率(契約数÷FP相談数)

また、お客様との信頼感を醸成するために1回90分以上の「長時間面談」を目安にすることも勧めました。

抵抗と混乱の現場~意識を変えたきっかけ

最初は、混乱と抵抗がありました。ファイナンシャルプランニングの知識のない人にとっては、FP相談は恐怖に近いものがあります。それに、長時間面談をしている余裕もありません。特に土日は何件のお客様を物件に案内するかが数字を上げる鍵だという意識が根底にあり、一人のお客様に長時間を使うという事そのものにも抵抗感がありました。お客様が物件を見たがっているのにFP相談などやっていられない、という人もいました。FP相談をして失敗した事例も出て、本当にこれでいいのかという不安もあったようでした。
そんな中、ある決定的な案件がありました。

弊社コンサルタントがあるお客様との個別面談の場に同席してFP相談をしました。お客様は、「年収は1,000万円以上ある方、予算は問題なし、物件待ちの状況」と営業担当からは聞いていました。人生三大支出(住宅費、教育費、老後費)と収入のバランスの話からライフプランニングの重要性を話し予算シミュレーションを丁寧にやりました。約1時間ほどの面談で、「いろいろ返済のパターンなどをシミュレーションできたことでこの金額でも十分買えそうだと確信し、安心できました。」と言ってお客様は帰りました。
翌日、ずっと物件待ちだったそのお客様がすんなり物件を契約しました。お客様は「物件待ち」ではなかったのです。買える金額が漠然としていて最後の踏ん切りがつかず意思決定できなかっただけだったのです。
社長は同席していた営業担当にこう伝えました。
「君は『物件待ちのお客様』と思い込んでいたが、実は違った。お客様の不安を解消できていなかっただけだった。間違いのない正しい予算の確認をお客様としっかりやれば決めてくれる。ストライクゾーンの物件が出たときにお客様にすぐに意思決定いだけるような準備を用意することが私たちの役目なんだ。」と。
社長は、一層思いを強くして、信念を持ってメンバーにFP相談をやらせ続けました。

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