コラム:不景気の今だからこそ質的転換に注目しよう!

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ハイアス・アンド・カンパニー(株)取締役常務執行役員 川瀬 太志

~アパレル業界に見る構造変化とは?~

消費不振が言われて久しいですね。
<ダイエー売上高 32年ぶり1兆円割れ 3期連続で最終赤字>

(日本経済新聞2010円4月10日付)

『ダイエーは2010年2月期連結決算が売上高9,868億円(前期比6%減)、最終損益は118億円の赤字になると発表した。衣料品や日用品などが不振だった。この低迷は続く見通しで、来期の2011年2月期の連結最終は55億円の赤字になると発表した。』

百貨店やスーパーの決算は軒並み「赤字」です。「消費者のサイフのヒモは緩む気配がまったくありません…」(大手スーパー幹部談)という現場の悲鳴は当分止むことはなさそうですね。

消費不振と言えば「百貨店・スーパー」の○○?

実際、消費はここ数年ずっと低迷しています。内閣府の「家計調査年報」の「家計消費」によると、5年前との比較では消費全体でおよそ2.5%減少しています。減少した項目でみると、

・ダントツトップが「衣料」でマイナス10%強。
・第2位が「住居」でマイナス6.5%。
・第3位が「家事用品・家具」でマイナス2%です。

業態別で見ると、「スーパー」と「百貨店」が大きく販売額を落としています。販売額の減少はスーパーと百貨店全体で1兆円以上です。
だから、一般的に新聞などで「消費不振」というテーマになると、『百貨店・スーパーの売上が激減、特に「衣料」の落ち込みが激しい』といった内容が多くなるわけですね。
ただこういう発表だけを見ていると世の中の動きを正しく見られななってしまう可能性があるな~、といつも思っています。

同じ業種業態でも伸びているところは?

数字は多面的に見ないと本当のところは見えてきませんよね。

例えば、「アパレル・衣料」においても全体では消費が落ちていますが、販売業態で見ると、皆さんご存じの「ユニクロ」は変わらず好調です。また「ファストファッション」と言われる最近日本に来た「フォーエバー21」や「H&M」の勢いは凄いですし、先行している「ザラ」や「GAP」、日本勢でもカジュアル衣料の「ハニーズ」などは堅調ですし、「ポイント」などは11期連続の増収増益です。

これらアパレルブランドの共通キーワードは「SPA」(製造小売り)。

SPAとは、自社で企画・生産・販売を一貫して管理するアパレル業態のことで、売り場情報を素早く企画と生産現場にフィードバックし、売れ筋商品だけをスピーディーに手ごろな価格で販売するモデルです。
SPA自体は10~15年くらい前からあったように記憶しています。SPA業態ショップは、従来は百貨店の衣料売り場の「ライバル」でした。でもそれが今やSPA業態のショップは完全に百貨店の有力テナントになってしまいました。

その象徴的なニュースがこちらです。

<低価格衣料店 百貨店に続々進出>

(日本経済新聞2010年4月10日付)

『ユニクロやフォーエバー21など低価格を武器とする衣料専門店が相次ぎ大手百貨店に出店する。都心の好立地を押さえて成長を加速したい専門店とデフレ基調の中、集客力を急ぐ百貨店の思惑が一致した格好だ。』
フォーエバー21が銀座松坂屋、ユニクロが新宿高島屋、ポイントが京都大丸などに出店するようです。
アパレルで起きていることは単なる「消費不振」ではなく、完全に「構造変化」です。主役が「総合店」から「専門店」へとシフトしました。
別の言い方をすると、従来の、「メーカーが企画し、卸が品揃えをして、百貨店が販売する」という「生産者主導」の流れから、「販売現場が企画から製造までを一貫して行うことで生産を効率化しながら流行に応じた品揃えをする」という「販売者主導」の流れに変化したという
ことです。
こういう構造変化が起きている以上、今後いくら消費が回復するとしても、もはや百貨店が従来通りのやり方のままで自社衣料売上を回復することは極めて難しいのではないかと思います。
時代環境の変化に応じて業者の淘汰が起き、業態の転換が起きる。こういった業界構造そのものが変化する流れは経済活動においては自然のものであり、どの業種業態でも今まで起きてきたし、これからも起きることです。
「不景気だから…」で終わらせず、不景気の今だからこそ時代の流れを見極めることがどんな業種業態でも大事なのだと思わされます。

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