長期優良住宅の資産価値とは

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ドイツでは安全保障の意味合いで住宅の省エネ化を進めている

最近は、人々の環境意識の高まりへの対応として、環境共生をテーマとしたまちづくりや、CO2の削減をテーマとした環境共生住宅の建設が世界中で行われてきています。特に北欧やドイツでは、脱車社会への取り組みや、パッシブハウス、ゼロエネルギーハウスなどの先進的取り組みが早くからなされてきました。今回の視察ではドイツの環境首都として名高いフライブルクを、地元在住の今や著名となった環境ジャーナリスト村上氏の案内により、都市政策、環境政策、住宅建築の面からつぶさに視察いたしました。

そもそもドイツを中心とするヨーロッパの環境意識の高まりは地球温暖化対策で始まった訳でなく、北海油田が枯渇する中、中東の原油やロシアの天然ガスにエネルギーを頼ることは安全保障上大きなリスクを抱えることである為、自国にてエネルギー発生可能な太陽光発電、太陽熱利用、風力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーへの転換を図ることを目的に大義名分として掲げたことなのです。加えて、これまで否定的であった原子力政策の転換(廃止から増設へ)を考慮する法制化の検討も始まりました。

ドイツでは連邦政府が世界一厳しいエネルギー基準を定め、州や市という各自治体が先行的な取り組みを工夫しながら行っています。住宅に関しても同様であり別紙のようなエネルギー基準を推進しています。中でもフライブルクは最も先進的な取り組みを行っています。

ドイツの住宅エネルギー基準の変遷~図3~

ドイツエネルギー基準と日本の次世代エネルギー基準~図4~

図4にあるよう、日本のエネルギー基準はドイツの1995年レベルと同等であり、15年以上ものリードを取られています。本文では紹介しませんが、灯油換算の年間エネルギー必要量では2009年政令対比で3.5倍、2012年政令対比では8倍以上の開きがあることになります。このことは付帯発生する技術のレベルは格段に違うことを意味します。

そして、ドイツでは住宅の7割は集合住宅であり、残りはメゾネット住宅か戸建となります。集合住宅や界壁を有するメゾネット住宅はエネルギー効率が高いため建築時に税制優遇されています。

また、フライブルクでは1960年代から田園都市(衛星住宅都市)の開発が行われてきています。いくつかの失敗もあったようですが、私が訪れた「ボーバン地区」や「ゼーチェン地区」は最初から成功した計画都市であり、公共施設や住宅、交通や商業ともに順調な発展を遂げています。これら地区ではエネルギー効率を重視した暖房設備の集中化が進んでいます。夏涼しく乾燥し冬寒く湿気が多い中部ヨーロッパでは暖房の集中化は大きな省エネ効果を生みます。燃料が現在使用中の木材チップであれば尚更でしょう。

亜熱帯化が進む日本のパッシブ住宅とは

ドイツと違い日本の家は「暑く蒸す夏」と「底冷えする冬」を意識せねばならないでしょう。17世紀に造営された「桂離宮」は、当時の技術で最高の住宅(造営目的は別荘であったが)を提供しました。特に素晴らしいのが、夏場に南側の池と各建物の南側に広葉樹植栽を有し直射日光を避ける技術、冬は縁を空気層に見立て、高床の床下を閉じて炭火で床暖房する技術など枚挙に暇のない工夫が随所に施されています。

古書院、中書院、新御殿はいずれも小屋裏空気流通の容量が大きい入母屋造、柿葺(こけらぶき)で、書院造を基調としていますが、古書院の縁側などには数寄屋風の要素も見られ、意匠に関しては現代でも通用する佇まいを見ることが出来ます。

現在の建材や建築技術、設備を使えば日本特有のパッシブ住宅を見いだすことは可能ではないかと思われます。特に断熱に関しての昨今の技術革新は大きな可能性を孕んでいるものと考えています。

日本は気候学的にみると「温暖湿潤気候(おんだんしつじゅんきこう)」に位置づけられますが、Ⅲ地区以南は、言わば「冬寒い亜熱帯」という言い方もできるでしょう。また、日本人の文化的特性として「雨を楽しむ」「風音を楽しむ」「空の変化を楽しむ」などの他の民族にみられない「自然との調和」を強く意識する特性が上げられます。外構との「一体設計技術」に日本流のパッシブ住宅のヒントがあるように思えます。

今後も、住宅先進国と日本古来の素晴らしい技術を考察することにより、日本独自のパッシブ住宅のありようやそれを実現するための仕組み作りに貢献して参りたいと考えます。

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