米国の不動産流通を支える仕組み

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シアトルの不動産流通について

平成24 年6 月に、(財)不動産流通支援機構(RESA)企画の米国視察・研修会に参加しましたので、その内容をレポートしたいと思います。

今回の視察地であるシアトルは、マウント・レーニア国立公園などの美しい緑と、ワシントン湖・ユニオン湖といった数多くの湖に囲まれ、「エメラルド・シティ」の愛称で親しまれています。近郊の住宅地は、その自然と歴史が調和する美しさと、資産形成に結びつく都市計画により、アメリカ最新の住宅資産形成・住宅地経営成功事例のひとつと言われています。

この街の特徴は、世界的に活躍する企業(マイクロソフト、ボーイング、コストコ、スターバックス、タリーズ、アマゾン等)の本社が集まっているという点と、全米でも屈指の人気校であるワシントン大学をはじめとする教育環境の充実が挙げられ、世界中から多くの知的労働者が集まる環境となっています。

シアトルの住宅・不動産市況に目を向けてみますと、住宅の平均売買価格は、1990 年を起点として対前年比平均約5.0% 増で推移しています。住宅の価格は「需要」と「供給」で決定されますので、シアトルのように恵まれたロケーション(景観・利便性/誰もが欲しくなる住宅地)と、知的労働者が集まる環境(高所得者層の流入/住み替え需要の増大)、それらを円滑に流通させることのできる不動産流通の仕組み(MLS /エージェントを窓口としたシステム)の3 つが複合的に作用していることが不動産流通活性化のポイントであると改めて実感しました。

本誌では以前より、米国不動産流通の仕組みについていくつかご紹介してきましたが、今回のシアトル視察で新たに得られた知見をトピックスとして紹介したいと思います。

MLS 運営会社(Northwest MLS)

全米で最も歴史のあるMLS(Multiple Listing Service:物件情報の登録利用サイト)であるノースウェストMLS社に訪問し、運営するサイト「Discover」とその運用ルールについて説明を受けました。

最初にMLS の基本理念として「不動産業者全員が協力して情報を共有する」ことが、結果として関与者全員の利益につながることを理解しなければならないとの話を聞きました。事例を数値で説明しますと、「Discover」には売買可能な売り物件として約40,000 件が登録されています。この情報は約2,200 社のブローカーと、約20,000 人のエージェントが閲覧可能になっています。

買い側のエージェントから見ますと、お客様から物件探しのオファーを受けた時に、エリア内にある40,000 件の情報の中から、お客様に最適な物件を紹介することができるようになり、一方、売り側のエージェントから見ますと、エリア内の20,000 人のエージェントを通して、物件を売却することが可能になるといえます。お客様にとっても、現時点で購入することができる全ての物件の中から選ぶことが来出るようになりますので、意思決定のスピードや満足度が高まるそうです。ワシントン州では、売りと買いの同時エージェントになることは禁止されていないそうですが、両手のエージェントとなる方は少ないそうです。確かに1 契約あたりの収益は2 倍になるかもしれませんが、情報をシェアすることで生産性が高まり、それ以上の収益が得られることを知っているからと話されていたことが印象的でした。

このような考え方をベースとして、規則と罰則の徹底(例えば預かってから24 時間以内に必ず物件を登録。違反すると罰金やMLS の利用権剥奪)、キーボックスの運用(鍵の受渡しと案内履歴の管理)、統一契約書の使用(半自動作成と常に最新の法令に適合)など、エージェントが活動しやすくなるための共通ルールを設けることで、年間45,000 件の契約が成立しているそうです。日本でも参考にすべき部分が大いにあると実感しました。

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