ハイアス総研report

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図表1 に整理しているように、日米間の相違は、日本では、すべての業務を宅地建物取引主任者が担っているのに対して、米国では、税務相談は税理士が、価格査定は評価システムと合わせて場合によっては不動産鑑定士が関わり、物件調査はインスペクターが、そして、決済業務はエスクローが担当するなど、高度に分業化が行われているという点にあります。

米国式には、それぞれの専門家が介在することにより、売り手・買い手ともに、日本より高い仲介サービスを享受できるというメリットがあるわけです。

29-03-3
中古住宅(6,500万円)の売買に伴う費用負担 日米比較(図表3)

米国の費用は高いのか?

それでは、多くの専門家が関わる米国の取引費用は日本と比べ高いのでしょうか。

図表3 は、6,500 万円程度の戸建中古住宅を仲介した場合の、両国での売り手と買い手の費用を比較・整理したものです。

流通に伴うコストとしては、仲介手数料等の売買契約に関する費用があり、これは仲介会社に対して支払われます。ローン借り入れに関するコストとしては、各種手数料が該当します。これについては、米国では銀行に支払う事務手数料のみであるのに対して、日本では、税として公的部門に納めるほかに、銀行や司法書士、保険会社等にも支払うことになります。その他、登記に関するコスト、保有や補修に関するコストなども必要です。

まず全体のコストを比較します。日本では、6,500 万円の中古住宅の取引に伴う流通コストが613 万円(買主406 万円+売主207 万円)であるのに対して、米国では836 万円(買主164 万円+売主672 万円)と、日本の約1.4 倍になります。

次にその内訳に着目すると、買主側では、米国が164 万円であるのに対して日本は406 万円と日本の方が高いのに対して、売主側においては、日本の207 万円に対して米国が672 万円と3 倍以上の水準です。また、費目別に比較すると、仲介手数料は、米国では売主のみが支払う(356 万円)のに対し、日本では、売主・買主それぞれが、同額を負担することになります(計402 万円)。

契約締結・引渡業務の範疇に入るエスクローのコストも含めて比べた場合、日本は、買主・売主合計で402万円と不変であるのに対して、米国は1.6 倍の659 万円と、日本を大きく上回る水準になります。つまり、仲介業務の機能に着目すれば、日本の仲介手数料はかなり安いと言うことができます。

さらに日本の流通コストを高めている要因は税金にあり、米国の2 倍の水準にあることは特筆すべきでしょう。

ここまでの比較をまとめると――全体の取引費用は米国の方が高い。しかし、日本では買い手の負担が高いという特徴がある。米国では、インスペクションやエスクローなどの費用負担を買い手がしているものの、日本ではそのような負担はない。しかし、日本では、不動産取得税、登録免許税、印紙代などの負担が大きい――ということになります。

効率的な不動産流通システムへの課題

中古住宅の流通を活性化させていくことは、ストック化時代を迎えるなかで、優先すべき政策課題であることは、疑う余地はありません。

近年においては、しばしば米国の中古住宅の流通システムの事例が紹介されますが、米国では日本の1.4倍の費用が発生しているという点は認識しておくべきでしょう。より高いサービスを受けようとすれば、売り手もしくは買い手は、その分高い費用負担を求められます。

とりわけ、わが国の不動産流通コストを高めている大きな要因は流通関連税です。特に、買い手に対する税率が著しく高く設定されています。むやみに米国の仕組みを模範にすることには慎重であるべきですが、この事実は念頭に置いておくべきでしょう。

また、米国において仲介に係る費用を高めている一因として、「物件調査」があげられます。しかし、物件情報を整備・蓄積していくことは、長期的には、追加情報の収集コストを下げ、市場の透明性を高めることに寄与します。加えて、リスクを含む取引費用の軽減にもつながります。

正確な情報を市場で蓄積し、流通させるという観点に立てば、物件調査を宅建業者だけに依存している現在の状況は、不十分であると言わざるを得ません。

インスペクションなどを普及させていくためには、売り手・買い手・仲介業者の責任を明確にしていく必要があります。すべての責任を重要事項説明書の中に盛り込み、仲介業者に押しつけている状態では、買い手がインスペクションを実施するモチベーションが生まれません。

この点から見れば、その不動産について、最も情報を持っていると考えられる売り手に対し、商品として不動産を市場に出す上での義務として、自らのコスト(時間も含む)により、商品の性能に係る情報の提示を義務づける可能性は検討に値します。

不動産市場には、多くの専門家と呼ばれる主体が存在します。効率的な不動産流通市場を整備していくためには、それらの専門家が協業していく制度を構築していくことが急務であると考えます。

参考文献

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