平成20年5月に省庁横断で出された「業種別生産性向上プログラム」というレポートより 建設・住宅・不動産業の生産性向上と付加価値について

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3. 生産性向上と付加価値を高めることの意味

2章でも確認したように、生産性は投入した生産要素(人、時間、原材料)と付加価値の割合であるので、生産性を向上するには、より少ない生産要素で成果(付加価値)を生み出そうとするか、相応の生産要素を用いてより大きな成果(付加価値)を生み出そうとするという二つの方面から考えることになります。

より少ない生産要素で生産性を向上させる代表的な具体策は、原材料・仕入れの使用量や費用を下げることでしょう。これには、少ない原材料や安い原材料でもそれまでと同等の性能や品質や商品を生み出す技術があることが前提となり、あるいは原材料を安く調達するための大量仕入れの実施や、より安い仕入先を探すなどの工夫をする必要があります。しかし、この考え方にはある面で限界が考えられます。それは、生み出す成果を大きくしないため、成果(付加価値)は得ることができても事業の成長を望むことが難しいという点です。逆に言えば、リーチ可能な市場シェアを獲得した後の守りの策とも言えそうです。

一方で、先ほども記したように付加価値は消費者(ユーザー)が決めた価値という前提に立つと、自社が生み出す商品やサービスが他社よりも良いという事実や、あるいは自社がつけた価格は性能・品質に見合ったものであるというユーザーの理解と納得を獲得することが必要になります。もうお分かりのことと思いますが、このように商品やサービスを磨き上げ、かつユーザーからの評価を得るためには、それを実現する技術力や商品開発力、PR力など一連の営業計画も大事になります。言い換えれば、新しい技術や新しいサービスの開発の実施や、開発からPRまで一貫した営業計画を準備・構築することが、新しくより大きい付加価値を生み出す取組そのものに他ならないと考えます。いわば攻めの策であり、事業を成長させながら成果(付加価値)を生み出してゆく循環となるわけです。

4.事業の成長と付加価値の拡大の両立に向けて

少し別の観点で、攻めの策と守りの策について考えてみます。

考えるにあたって“サービス産業の高付加価値化に関する研究会”の第1回で配布された資料『サービス産業の高付加価値化・生産性向上について(経済産業省商務情報政策局2014年1月)※2』にある調査結果をきっかけとして話を進めます。

この資料ではサービス産業(広い意味でのサービス業をさす。狭義のサービス産業の他、電気・ガス・水道、卸・小売、金融・保険、不動産、運輸、情報通信、政府サービス、労働組合、政党、宗教団体、私立学校)の生産性の低さと、その向上にあたって、個別企業内でできることとして3つの点(人材育成、投資(IT投資)、マーケティング・ブランド戦略)を指摘しています。そのなかでも特に注目するのがIT投資です。図表1で示されているように、日米の企業のIT投資の目的の差が明確にあらわれているという調査結果は興味深い結果です。「ITがこれまでもたらした効果の日米比較(上位3つ)((社)電子情報技術産業協会、2013アンケート調査)」の結果から、日本企業の回答では、社内業務の電子化によるコスト(人件費等)削減を目的としたIT投資が主な目的であるとの回答が多いのですが、米国企業の回答からは企業の売上増や新たな付加価値の提供を目的として、環境変化への迅速な対応、新規製品/サービスの開発などに活用されている事が示されています。


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この結果はさきほど3章でのべた生産性向上の二つの方向性、より少ない生産要素で成果(付加価値)を生み出そうとするか、相応の生産要素を用いてより大きな成果(付加価値)を生み出そうとしているか、という視点に共通していると考えます。つまり、あらたな投資(IT投資)によって革新的な技術の開発や新サービスの企画や現場装着を行うことで、成果(付加価値)を上げ生産性向上を実現できるということです。

5. まとめ

改めて攻めの投資について考えます。攻めるとは、より高い付加価値を創造するための投資であり、それには新しい商品やサービスの開発のためだけではなく、意思決定の迅速化、ユーザーニーズ把握、サービス提供の迅速化や効率化のための投資を行うということです。さらに、このように開発から提供までの仕組み化は形を整えるだけではなく、その「運用」をきちんと実践することで生産性の変化を大きくすると考えます。例えば、課題抽出能力の向上として、データをきちんと履歴として残し、きちんとモニタリングすることを通じて変化を見極める事も大事になります。このように、品質向上を実現する投資には有形なモノへの投資だけでなく、無形な「方法」や「人材」への投資のどちらもありうるということです。例えば、情報提供の内容を如何に充実させるか、あるいはその情報提供姿勢を変えただけでも「顧客から見える価値」は上昇する可能性があります。

ところで、自分でその投資をして改革をするにはハードルが高いと考える中小企業も多いのではないでしょうか。そうした環境もサービス産業の生産性向上のための投資が遅れてきた背景にあると思います。その意味では、今後ますます中小企業を支える支援環境の整備が求められ、競争優位を保つために重要な要素になって来ると考えます。(ハイアス総研 矢部)

※1「 経済財政改革の基本方針 2007」などの指摘に加え、業種別生産性についての先行研究などを参考にした選定重点業種。通信・放送・コンテンツ、住宅・建設・不動産、宿泊・旅行、卸・小売、食品加工、物流、人材ビジネスの8 業種
※2

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/service_koufukakachi/pdf
/001_04_00.pdf

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