ハイアス総研レポートNo.7
住宅不動産市場を取り巻く環境変化の行方と これからの対応を考える

(ページ:2/2)

2_ 最も大きな変化である「空き家問題」もチャンスと捉える

平成26年7月29日、平成25年住宅・土地統計調査「速報集計結果」が発表されました。これによれば、全国の空き家は平成20年調査の757万戸から63万戸増え820万戸とあります。いわゆる空き家増加問題ですが、この背景には世帯数の増加に比べて大きな供給という側面と、一方で使われなくなった住宅を除却または流動化させることの難しさがあると言われています。

37-5-2 空き家(イメージ)

今年5月26日、関連規定が発表され、全面施行となった「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年11月27日公布、平成27年2月26日施行)」。この特措法ができたことで、従前では具体的に空き家の除却を促そうとする際に、建築基準法にのっとり建物として適法でないあるいは倒壊の危険性が高い建物しか対象にできなかったものが、「倒壊の危険」がある建物に加え、「衛生上有害」、適切な「管理が行われていないため著しく景観を損なう」、「周辺の生活環境の保全を図るために放置」な建物まで除却を促す対象にできるようになりました。このことは建築業者にとっても不動産業者にとっても、単体の住宅不動産(建築物)を対象にした建築や取引だけが仕事の範囲ではなく、周辺環境の良化を含めた建築や取引という仕事を創造、展開することが新たな機会になると考えられます。

ここで新たな機会を考えるにあたって、空き家問題とは何かについて改めて整理したいと思います。もちろん、そもそも建築や取引の市場が成立しないような地域で発生する空き家を解決するのは、すぐには難しいと思いますが、市場があるにもかかわらず発生する空き家問題は「3つの老い問題」と分解して考える事が出来そうです。

3つの老いとは何か。それは(1)建物(ハード)の老朽化、(2)居住者の老齢化、そして(3)社会システムの老朽化と分解できます。具体的には、現代的な暮らしに向かない構造や設備をどうするかという問題、居住に関して新たな投資に積極的でない(もう、今の住まいのままでいい)という世代に合理的な判断を促す支援や次の最適な住まい方の提示ができるかという問題、そして、従来の社会システムでは対応してこなかった、例えば換金したくても、できなくなるような資産価値を認めにくい市場の改革や、住宅不動産の資産化につながる地域価値を発見、高めるための組織や仕組みをどう創るかと言った問題と考えられます。

では、それぞれの問題に対して、その対応を建築事業や不動産事業と関連つけて考えてみます。(1)建物の老朽化によって、現代的な使用に耐えないことで使われなくなる建物には、改修はもちろん、場合によってはコンバージョン(用途転換)を視野に入れた利活用の提案ができる知見や構想力が求められることになると考えられます。また(2)居住者の高齢化に対しては、将来の生活の不安を解消するリフォーム投資や売却や賃貸を含めた不動産活用や換金性の可能性について合理的な情報提供と提案力が求められる事になると思われます。ここまでは従来ビジネスのサービス品質を高めることで備える事が出来る解決力とも考えられますが、(3)そして社会システムの老朽化については、「1_最近のトピックス」でも示したように、中古住宅取引の透明性向上とプロセスの改革、あるいは環境の良化が個別の住宅不動産の資産につながるという考えのもとに、米国や英国ではすでにあるエリアマネジメントの仕組みを既存の住宅地に装着できるかといった、従来型のビジネスとは少し別の観点で備えが必要となると考えられます。新たなビジネスチャンスをものにする準備が必要な社会問題ゆえに、まずは「認識とヒントになる情報収集と知見の蓄積」が重要となります。詳細は別ページにありますが、今回行った経営研究会特別補講・欧州視察の事例などは参考になると思います。

3_変化への備えをどうするか。キーワードは「資産化」

ここまで見てきたことから、事業環境の変化はすでに起こり政策的にもそのスピードが加速されることは明らかです。そして、事業者が環境変化への対応策を考える際の軸・キーワードも浮かび上がります。それは「資産化」です。生活者が手に入れた住宅不動産を「資産」とするための商品、サービスを提供できているか、そして資産化に資する商品サービスの提供を従来の事業領域ややり方にとらわれず実行するための情報と判断が必要になるということです。

ところで、本誌の「シリーズ 調査を読む(参照14ページ)」でも取り上げましたが、生活者は土地・建物、つまり住宅不動産を次世代に引き継ぐべき財産と考えているようです。ただし、その財産はどのような資産価値を持つかについて、ただ目に見える形で手元に残るということ以外に、有用性、収益性、あるいは保有することで生じる金融メリットなど、住宅不動産を保有することで得られる自身にとっての利益をきちんと理解していない可能性がありそうです。また、住宅不動産保有のリスクのコントロールについても、維持管理・修繕・建て替え、相続、不動産価格の下落など、自身だけでは解決できない様々な問題が挙げられています。つまり、住宅不動産所有者は保有することで得られる利益を明確にできないまま、同時に保有に際して生じうる不確実性にきちんと対処できない状況におかれているといえます。

一旦保有した不動産を「財産」として価値あるものであり続けるようにするために、例えば高性能・良品質な土地・建物の提供を大前提とすることはもちろんです。それに加えて、生活者自身にとって保有することで得られる利益を明確にしてその価値を考える機会を適切に提供すること、あるいは市場で評価される財産であるためにハードの維持管理や情報整理、あるいは市場価値の確認などを通じて、住宅不動産の資産価値を保全することが生活者からの需要としても高まってくることは十分に考えられるでしょう。

4_顧客の住宅不動産を「資産」とするために「業際を超える」

本稿でも示してきたように、住宅不動産事業に求められる義務的な役割が高度化、多様化する可能性があることに加え少子化や高齢化などによって、市場環境は変わってゆくことが確実です。そのような激動の変化に適応すべく、住宅不動産の資産化のために、ハイアス・アンド・カンパニーでは、これまでも地盤改良工法、高性能住宅提供システム、不動産有効活用策としての高性能住宅システム、住宅不動産取得におけるファイナンシャルプラニングツールや財産承継コンサルティングツールなど、生活者が保有する住宅不動産の資産化に資するさまざまな施策やツールを提供してきました。

環境変化の行方とこれからの対応を考えるという主題にそって、これからおこる変化への適応を考えるとすれば、点としての商機を数多く創るという考え方だけではなく、線としての商機を継続的に循環させるという考え方を取り入れる必要があるのではないでしょうか。線として循環させるためには、建築だけ、取引だけといった点的な事業ではなく、生活者の住宅不動産の資産化を実現すべく、業際を超えて、つまり自社の対応領域の多様化、あるいは他社との事業間連携を通じて顧客との持続的な接点を持つ為の体制作りが肝要ということです。
(ハイアス総研 矢部)

<このコーナーのポイント>

1.中古住宅取引の検査義務化が検討されるなど、いまのやり方では商売すらできない可能性もある

2.空き家問題の解決には、住宅をどう建てるか、どう維持管理するかだけでなく、どう活かすかを提案できる知恵が必要

3.消費者が住宅を資産とするためには、建築だけでなく取引や活用提案の専門家が必要

4.建築と不動産という業の境目を超えて、ワンストップで多様な対応が出来る事業者になることが肝心

page: p1 p2

ページトップに戻る