歴史的建造物の活用と持続可能な街の設計が街や市民に富をもたらす
~経営研究会特別補講2016ドイツ・スペイン~

(ページ:1/2)

はじめに

弊社が開催する経営研究会では、日頃なかなか得ることができない新たな知見や、これからの市場において自社を成長に導くヒントを獲得することを目的として、海外の現地を視察する「特別補講」を年2回開催しています。今回2016年6月の視察では、経営研究会修了生を中心に全国から14名が参加され、都市再生ならびに省エネルギー政策の先進事例を有するドイツ(ルール地方、フライブルク)と、地域の歴史的資源を観光産業に有効活用したスペイン(バルセロナ、マドリード、トレド)を視察してまいりました。

訪問地レポート1 ドイツ・ルール地方編(1)
廃墟となった工場跡地を
高級住宅地や観光施設・公園にコンバージョン

ルール地方とは、デュッセルドルフからドルトムントにかけての一帯を指し、その昔炭鉱により栄えた地域で、現在の人口は514万人です。1830年に石炭の採掘がはじまり、鉄道と運河を利用した輸送力を背景に製鉄業へとシフトしながら繁栄しましたが、戦争・復興からの経済成長を経て、製造コスト高騰により国際的競争力を失い没落したという歴史があります。

今回視察した事例の一つ目は、ドルトムント南部で実行されているフェニックスプロジェクトです(画像1)。「土地の再生」「川の再生」「緑地」「魅力ある場所」「低価格で高品質な住環境」「アイデンティティの保全」をキーワードとした都市再生プロジェクトです。EUや自治体からの補助金や投資ファンドから集めた資金で、製鉄所や工場跡地、施設を買収し、ビジネスパークと人工湖を中心とした住宅地からなる街区として再生しました。現在では、土地価格がドルトムント平均の239€/㎡に対して、このエリアは300~400€/㎡に上昇しており、付加価値ある街として人口が増加する人気エリアとになっています。

44-7-1

画像1
ドルトムント/フェニックスプロジェクト

二つ目はドーステン:ハーケンベルク地区における減築による都市再生事例です。約4,000人の労働者が従事する炭鉱があり、そのベッドタウンとして開発されました。最初の都市計画では、人口60,000人の地区を想定していましたが、炭鉱閉鎖や拡大計画の頓挫なども重なり、現在の修正計画では8,000人が住む地区となっています。その結果、都市計画的には半分程度のエリアしか完成せず、人口減によって80年代には半分が空き家になり、治安が悪化するなど都市問題が噴出しました。そのため2004年から地域のルールとして、4階建までのリフォーム(例えば8階建を4階建に減築する場合)に積極的に補助金を出し、また、使用に耐えられない建物は解体するなど、住宅供給数を物理的に減らすことで、空き家率を低下させ、建物の維持管理・メンテナンスコストを抑え、また、空いたエリアを公園や広場へと活用することで、街全体の再生を実現しました。

三つ目はデュイスブルクの製鉄所跡地の再開発事例です(画像2)。デュッセルドルフ郊外に位置し、1900年に創業した製鉄所を中心とした工業都市です。1970年代に製鉄所が閉鎖したことを受け、近年商業施設と公園に再生しました。ここでは若者に対するアプローチを前面に打ち出し、貯水湖にてダイビングの練習を可能にしたり、鉄鉱石貯蔵庫をボルダリング施設にリニューアルしたり、溶鉱炉を展望台としたり、地域の住民にとっては長年目にしてきたシンボルである製鉄所などの施設の面影を随所に残しながら人が集まる工夫を行っています。地域のアイデンティティを最大限保全しながら新しい用途として生まれ変わった事例です。

44-7-2

画像2
デュイスブルク/製鉄所跡地の再開発

訪問地レポート2 ドイツ・ルール地方編(2)
外皮性能を重視したパッシブハウス

ドイツの最新の住宅情報を収集するために、デュッセルドルフの東方約30kmに位置するヴッパータールの住宅展示場FertighausWeltを訪問しました(画像3)。ここは、日本でいうところの住団連が管理運営を行い、20社の工務店が出展しており、全棟プラスエネルギーハウスであることが特徴です。

省エネルギー性能では、EnEV2014基準を大幅にクリアする水準であるUA値は0.25W/K・㎡、サッシは断熱三層ガラス(Uw0.8~1.0W/K・㎡)が一般的な仕様となっています。太陽光発電では、売電から自家消費に切り替わり、これまでのように南面に大きくソーラーパネルを設置するのではなく、朝と夕方の消費にあわせて東西にジグザグに配置する方法がとられています。設計的には、部材の性能向上に伴い大きめの開口部を取ることが可能になったり、2階の屋上テラスを日射遮蔽に活用したり、太陽光発電を上述の仕組みで陸屋根に納めたりするなど、従来の省エネ住宅の考えとは一線を画した斬新な住宅が展示されていました。日本の将来を見通す上でも参考になる内容です。

44-7-3

画像3
ヴッパータール/住宅展示場

page: p1 p2

ページトップに戻る