ハイアス総研レポートNo.10
「土地政策の新たな方向性2016~土地・不動産の活用と管理の再構築を目指して~」を読んで

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はじめに
~地域密着産業に関係する土地政策の方向性~

人口減少や空き家問題など過剰ストックの問題はすでに社会課題として共通認識となっています。そうした中で、平成28年8月、国土審議会土地政策分科会企画部会から、タイトルにある「土地政策の新たな方向性2016」というタイトルで同部会において調査審議されてきた内容が報告されました。

少し難しい話と思われるかもしれませんが、本誌読者の皆様は建設・土木業界、住宅建設業界あるいは不動産業界など多少の差こそあれ土地を基盤とした、あるいは土地・不動産に関わるお仕事をされています。つまり、この国の中で土地・不動産をどのように扱うべきか、そしてその方向はどこに向かっているのかを知ることは、読者の皆様の日常に深い関係がある話題といえます。

この報告書は国土交通省のホームページに公開されていますので、ここで内容を紹介せずとも全文をお読みいただくことはもちろん可能ですが、今回はハイアス総研が注視した記載表現やポイントを抽出してご紹介したいと思います。

[参照] 国土交通省ホームページ 「土地政策の新たな方向性2016」
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/totikensangyo02_sg_000097.html

1.示された当面の土地政策の新たな方向性

報告書では当面の新たな方向性として3つのテーマが示されています。それぞれ概略的に記すと、「成長分野の土地需要を確実にとらえ、経済成長を支える土地利用を実現する」、「蓄積された宅地ストックをうまく使い、国民生活の質の向上に資するような豊かな土地利用を実現する」「都市計画などのエリアの面的な規制・誘導ではない個々の土地に着目した最適な活用・管理(宅地ストックマネジメント)」と記されています。少し大胆に意訳すれば、土地開発をすれば後から需要が付いてくる時代は終わり資源としての不動産ストックは十分蓄積ができたので、これからの時代を牽引する成長事業の芽を伸ばすために資源を優先的に配分すべきであり、そのために既存の不動産に新たな使い方を取り入れたり、所有者すらわからなくなるような状態をなくしたりする「地域マネジメント」が重要な産業となるという方向が示されたということです。

住宅不動産業、とりわけ地域に密着して事業を営んでいる住宅不動産業の企業にとって、「成長分野の需要喚起をもたらす土地利用」、「蓄積された宅地ストックをうまく使う」、「都市計画などのエリアの面的な規制・誘導ではない最適な活用と管理の実現」が自社の事業に直接かつ密接なビジネスチャンスの起点となるか、についてもう少し詳細に記してみたいと思います。

(1)成長分野の需要喚起をもたらす土地利用

日本は製造業立国という見方がよくされます。しかしすでに日本のGDPの6割以上は家計消費であり、また大区分の産業構造からその売上規模や雇用吸収をみれば、すでに日本はサービス産業立国であると言っても過言ではないです。さらに昨今の報道でもよく見聞きするように、観光業を中心とするインバウンド需要の増大はまさに成長分野として注目を集めています。

一つの例として観光産業を取り上げると、建設や不動産に関わる事業チャンスとして一部の大都市圏における再開発事業だけでなく、地域の魅力を高めてその魅力を集客装置とした地域創生の足がかり・基盤作りという役割が期待されるはずです。具体的には地域インフラの整備やインバウンドで重要要素の一つである宿泊サービスに向けて施設開発や民泊施設化などの運営など多岐にわたり建設不動産業の活躍フィールドが用意されていると考えることができます。

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(2)すでに蓄積された宅地ストックの有効活用

ご存知のように、国内の住宅不動産ストックは数量の上では世帯数を大幅に上回っています。つまり数の上では十分な蓄積ができているのです。そのような状況を作り上げたことに加えて、さらに世帯の高齢化や人口の都市圏集中が加速したことなどを背景に需要と供給のバランスが崩れ、「空き家」の発生と増加が社会問題となりつつあります。空き家の状態が続くことはその土地の利用度が低い状態を意味しています。土地の利用度を高めることは、すなわち土地そのもの、あるいは土地の上にある不動産が使われている状態、さらに言えばその不動産を起点にして事業が起こり、経済が回っている状況にあるということです。

それゆえ、元の使い方と同じ使い方でしか考えないといった狭い思考ではなく、例えば住宅を住宅以外の用途で使うなど利用の選択肢を増やすことで隠れていた需要を掘り起こすような提案や、そもそも土地の高度利用のアイデアを持たない所有者から借り上げ等の手法で所有と利用を分離するなど、住宅不動産事業者に求められる役割は大きくなると考えられます。

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(3)個々の土地に着目した最適な活用と管理
(宅地ストックマネジメント)

前項で見たように空き家が問題化しつつある中、少子化がボディーブローのように問題を悪化させることで、そもそも空き家や空き地の所有者自体が把握できないという新たな問題の連鎖が起こりつつあります。そのような場合、土地や不動産の利用度を高めるとしても、利用や活用を実施する判断ができないことになります。その意味で、所有者との連携、土地不動産が優良な活用可能な状態の維持は、その地域の資源を資源として持続させる重要な仕事と言えます。区分所有マンションや賃貸住宅では当たり前になっている「管理業」の対象範囲の拡大とそのサービスの多様化は今後のチャンスとなると考えられます。

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