ハイアス総研レポートNo.11
人口減少などの社会構造の変化、地方経済の衰退、人材不足・・・
こうした環境変化に対し、地域における 建設業はどのように変わるべきか?
識者に聞く、「これからの建設業のあるべき姿と可能性」

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Q 建設業を取り巻く昨今の環境変化を受け、
どのような問題意識をお持ちでしょうか

安成)1992年当時84兆円あった日本の建設総投資が現在約55兆円と35%減少している。一方で建設業許可業者数は22%しか減っていない、つまり過当競争は解消されていないといえます。にもかかわらず現場では職人が不足している。これは産業の持続性にとって深刻な問題です。また、地方では建設業従事者の就業人口に占める割合が20%近くあり、建設業が元気になることは地域経済の活性化、地方創生につながります。そういう問題を含めて地域において大きな役割を担う建設業の持続可能性を高め、将来を希望あるものにするために何をすべきかを考えなくては、という大きな危機感を持っています。

赤井)安成さんもご指摘のように、建設業というのは各地域において比較的大きな雇用者を抱える産業クラスタとして地方創生にとっても重要な位置付けの分野です。ただ、これまで地方の建設業は公共事業の受注を通じて資金や各種補助などリソースの配分を受け取ることという形で、その仕組みが限界に達しています。地方創生を考えた時、地方の建設業が受け身でなく、自らビジネスチャンスを探って行くような動き方に転換でき、その中で自治体との連携や新しいファイナンスの仕組みを使った枠組みの再構築、つまりビジネスモデルにおけるイノベーションを起こすことができるようバックアップを行うことが求められていると考えています。

Q これからのあるべき産業の姿、
いわば「新・建設業」ともいうべきあるべき姿とは

安成)私は今から6年前に発刊した弊社の創業60年記念誌に「新・建設業」を目指す。と書きました。残念ながら建設業は3Kなどとイメージは良くありません。私は「誇りを取り戻した建設業」をつくりたいのです。手に汗して働く人が真っ当な評価をされて誇りを持って働ける、そういう業界をつくるという理想を持っています。あるべき社会の姿を定め、それを実現するために同一のベクトル上で仕事をしながら、働く人たちが誇りを持ち、評価され、高い収入を得られる。私は、そのような建設業を「新・建設業」と位置付けています。

赤井)冒頭にも話があった報告書「建設業の2017年+10」の副題である「若い人たちに明日の建設産業を語ろう」に象徴されるように、現在の建設業は意欲ある若者に次世代の担い手として参加してもらえる産業として準備ができているか、という観点です。
地方でのまちづくりや都市再生といった事業については、そもそも地方の建設業がその領域を担っていないのが現状です。各地のまちづくり、都市再生や賑わいの回復にあたり、公共的な視点を持ちしかもハード面での技術を生かして活動できるプレイヤーが望まれる中、若い人たち、特に地方から大都市圏に流出して戻らない人材に訴求できるような建設業に生まれ変わることができれば、それこそが「新・建設業」と名付けるにふさわしいものになると考えます。

Q ここまでのお二人のメッセージには「地方創生」や
「まちづくり」という言葉が登場します
「新・建設業」にとって地方創生とかまちづくりという
のは、 重要な取り組みテーマなのでしょうか?

赤井)そうですね。建設業のこれまでのビジネスモデルは公共事業一回の受注でどれだけの収益を上げられるかが重要でした。まちづくりに寄与することは、入り口での一定収益に加え、その後に長くプロパティマネジメント業務を通じて、まちの大家さんのような役割を果たしながら街のクオリティの維持に貢献して収益を上げる、そういうビジネスモデルへの転換です。そこでは決められたものを造って納品をするというだけではなくて、新しく構想したりニーズを吸い上げたり、高齢化社会を含めたこれからの社会のニーズというものを取り入れてビジネス化していくクリエイティビティが求められます。これは先ほども申し上げた次の担い手である若い人たちをワクワクさせる仕事です。

安成)同感です。一般的に建設業というと施工をする会社を指しますが、私が目指す新・建設業は企画・開発・設計・施工・管理この5つのジャンルを全部持つ業態です。しかし、すべての会社がこの5つを持つことを目指す必要があると言っているのではありません。関連の他業種との連携でジャンルを補完することもあると思います。つまり、受注業態から脱して、仕事を自ら作り出す創注業態に転換することで、新・建設業に一歩近づくことが出来ると思います。
これからますますスポンジ化する地方都市の中心市街地の土地活用をどう活かすか?から始めるのも一つの方法です。

赤井)少し補足すると、どういう点に配慮してまちづくりを進めてゆくかということは極めて大事なことです。最も大きなことは「地方創生に資する」ことで、各地でハードの供給過剰が起こっている中、自治体と連携してまちづくりの計画や都市再生計画との整合性を持って進めること、また市民に近い立場の建設業がニーズを吸い上げる中で他の業と連携するといった新しい取り組みを進めることを通じて必要なものを作っていくという取り組みです。

安成)オーダーを受けて工事するのではなく、空いている土地をそのまちにとってどう活用すれば、最も有効か徹底的に考えて「企画」をつくる。これが私の思う「まちづくりの始まり」です。例えば心を尽くして住宅を1棟建てて、4人の家族に幸せに暮らしてもらうことも家をつくる喜びですが、よく考えてみると、1棟ではなく数棟、数十棟のまちをつくることで、街並みの景観や集まって暮らすコミュニティまでも創り出すことが出来ると思うのです。新築の家で幸せになれるのではなく、人とのふれあいとか助け合いの中で暮らすことのほうがもっと大切かもしれません。多くの建設業経営者にまちづくりを志向してもらうことで、個人主義が行き着いた現在の社会を変える一歩になるかもしれません。
公共施設を民間建設業者が企画して、運営し、維持していくなどもまちづくりを志向することの理解が深まるのではないでしょうか?

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