欧州の「工務店が取り組む生産性向上」、「CLT×木造建築」の可能性を学び電子政府による「市民ファーストの未来社会」を垣間見る
〜経営研究会特別補講2018 ドイツ・スイス・スウェーデン・エストニア〜

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はじめに

弊社が開催する経営研究会では、日頃なかなか得ることのできない新たな知見やこれからの市場において自社を成長に導くヒントを得ることを目的として、海外の現地を視察する「特別補講」を年2回開催しています。
今回2018年7月の視察は、経営研究会修了生を中心に全国から集まった22名とともに、ドイツ・スイス・スウェーデン・エストニアを訪問しました。工務店の生産性向上のための取り組み、最新のCLT・集成材と木造建築の可能性を学ぶとともに、最近各所で注目されているエストニアを訪ね電子政府と呼ばれる「情報のデジタル化とネットワーク形成」による未来型の市民サービスを視察してきました。7月3日から8日間の旅程でお伝えしたい情報は盛り沢山ですが、誌面の限りもありますので今回は3つのトピックスをお伝えします。

視察レポート1
工務店の生産性向上と最新のCLT・集成材事情。

チューリッヒ

今回訪問したのはチューリッヒ南西部ホーホドルフ(Hochdorf)にある工務店、TSCHOOP社のパネル工場 です。同社は雇用90名、見習い14名の100名規模の工務店で、主に大型木造建築のフレームとパネルを作っているそうです。
今回の視察で目を引いたことの一つは、接着剤を使わない集成パネルの製造です。木製のボルト(直径20mm、長さ600mmの棒)で板材を繋ぎパネル化します。そのパネルは木造建築の外壁材などに利用されるそうです。接着剤=化学合成物質を使わない環境配慮型の建材が普及モデルとして利用されていることは注目です。
もう一つのポイントは、TSCHOOP社のパネル工場で導入されていたパネルや構造材等を高精度で製造する設備です。難しい形状の加工を要する多品種・複雑な形状の製造において、掘削/切断/ねじれ加工/ビス打ちなど多様な工程をデータ入力通りに行うMC(マシニングセンター)です。設備の導入で自社の受けた工事に必要なパネルや部材の供給における生産性を高める点は、今後日本の地域工務店でも導入の検討が避けられない規格型住宅を想定した場合、大変参考になる視察でした。

視察レポート2
木造高層住宅の視察

チューリッヒ、ストックホルム

元々はチューリッヒ市街地の工業団地として使われていた地区にあった巨大な物流倉庫跡地を住宅地に用途転換(再開発)したエリアに建てられた木造高層住宅。プロジェクトの特徴は木造大型建築を中心に再開発された点です。階段室だけは避難経路確保の観点から「PCの筒」構造ですがそれ以外はすべて木軸+木製パネルを使った高層住宅です。外観から見える構造はパターン化されていますが、部屋タイプや住戸の大きさは多様な提供をしているそうです。またパッシブ発想で住棟前の自転車置き場をグリーンカーテンの役割を兼ねさせるなど団地内の緑化も特徴的でした。

ストックホルムでも木造中高層住宅を視察しました。ボクヘルム社という木造中高層建物しか建てないというディベロッパーによる8F建ての集合賃貸住宅で、構造材、壁パネルは全てCLT(そのCLTもスウェーデン唯一のCLT製造メーカー・マーティンソンズ社の建材)を用いて建てられています。1990年半ばの法改正で木造中高層の建築が可能になったことでこのようなプロジェクトが増え始めたそうです。建築コストは単純費用ではRC造の方が安いが、壁材パネルなど「プレハブ化」が進み現場打ちのRC造に比べて工期が短かく、回収開始の早期化、その結果として回収総額が上がるという点が加味されRC造と木造の建築コストはイコールである、という考え方で木造大型建築の普及が進んでいるそうです。

視察レポート3
電子政府による市民ファーストの未来型行政サービス。

エストニア

1918年に独立後、旧ソ連やドイツに統治され1991年に再び独立を果たしたエストニア。1997年に城壁内 エリアが世界遺産登録を受け、観光資源として外貨を稼ぎながら、官民様々な主体が持つ情報のデジタル化を推進、さらに2001年からはX-roadというインフラでデジタル化された情報を連携・連結させ、社会生活上の恩恵やビジネス上の利益を市民に与える電子政府(e-Government)が特徴の国です。ちなみにX-roadで は900の政府機関の情報が連結できる状態になっていて、それを52,000の民間組織が利用できる状態で、今 では行政提供するサービスの99%の手続きはonlineで完結できる状態だそうです。
その前提となる国民の電子IDは日常生活に組み込まれ、例えばEU内での旅行ではパスポートを代替する機能を持ち、運転免許証としても使われ、あるいは本人許可があれば病院での健診履歴や投薬情報を他の病院が事前に見ることも可能になるとか、もっと身近な例ではスーパーでの買い物ポイントもこのカードに付与記録されるそうです。
日本でも未来のいつかのタイミングで書類やわざわざ出かけなくても取引が進む市場が生まれるかもしれません。そういう時代の変化を見据えてその時自分の会社の将来像を考える意味でも今回の視察は有意義な機会となりました。

(矢部)

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