新春特別対談。
住宅不動産業界の働き方改革と 近未来の業界のあり方

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今回のHyAS Viewでは、新春特別企画としまして日本大学 経済学部 教授の中川雅之様をお招きし、「住宅不動産業界の働き方改革と近未来の業界のあり方」をテーマに弊社代表の濵村と対談をさせていただきました。その様子を皆様にもお伝えいたします。
一年の活動方針を立てる年の初めに、皆様のお役にたてましたら幸いです。

中川先生のプロフィール
中川 雅之( 経済学博士)
日本大学 経済学部 教授
1961年生まれ。1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学。

技術革新や制度設計において 住宅不動産業界は進化しているといえますか?

中川先生(以下,中川):所々にAIやICTを使った進化があると考えています。2000年代以降の証券化技術や電子技術で資金を集めるクラウドファンディングなども一定の進歩と見ることができます。流通業ではネット上の情報交換や情報伝達量の拡大で顧客との接触密度が高まっています。また価格評価ではオートマティックエバリュエーション、一定のアルゴリズムにアクセスしやすくなっている点で一定の進化はあります。

濵村:技術の進化はその通りですね。一方で、制度や法律、商慣行の点で進化は見えにくいと思います。特に「分業体制」の問題は米国市場との差を感じます。例えば、エスクローや公的なオープンデータの取得しやすさなど、ルールがありルール通りに運用する民間の仕組みの有無に差を感じます。

中川:その点は、MLS※1とレインズの差が大きく影響していますね。背景には「協調の失敗」ということがあると思います。例えばあるカウンティ(郡)の中で地域の小さいエージェントが集まり「地域独占」的にMLSという高度な情報インフラへの投資ができています。そこで住宅性能、学区レベル、洪水情報などがわかり、データもデータカンパニーから買える。こうしたものは「みんなで大きなものを作る」という協調、カルテルの結果です。日本ではこの「協調」によるインフラ整備が行われていないのです。
一方で個社でできること、例えばVRで内覧できる、スマホで顧客接点を持てる、あるいは自動評価ができるといった技術導入はむしろ日本の方が進んでいると考えられることもあります。MLSのような社会インフラがない点が日本の情報インフラやその活用における「進化感」をなくしていると考えられます。

濵村:先生のおっしゃる地域独占カルテルを私は「ギルド」と呼んでいます。そういう組合、協会のような団体があり、共同で投資をし、ルールによる公平な運営がされ、ルール違反者には厳しい、そんなイメージです。

中川:まさに、MLSは規律の正しいクラブが持つ「クラブ財※2」ですね。

不動産取引における分業のあり方とは

中川:分業が進んでいないのはその通りだと思います。ただ、それは今までの日本では分業がなくても困っていなかったと考えています。具体的に言うと、新築が主体の不動産流通市場だったからです。幅広で詳細な情報がなくても建築基準法や品確法で最低限が守られた建物の品質は信用され、住宅を建てるメーカーも自社の風評被害を心配する環境の元ではそれなりの住宅不動産を獲得できてきました。
その結果、ライフスタイルによって求めるスペックも違うのにずっと同じ場所に住むような暮らし方になり、その世代が死んだら家ごと壊す、スクラップアンドビルド市場につながった訳です。この非効率な市場を脱して、既存住宅を安心して買い手に引き渡すための法的な問題の確認、ファイナンス、調査、保険などを分業して進めるエコシステムがまだない。これについては専門家を育てる、入れるを法的に義務つける動きがようやく始まっています。

濵村:新たな分業の動きについてはマーケットベースに切り替えたいところですね。そもそも不動産取引がサービスであるという概念が希薄ですね。性能チェックの能力がない不動産会社に建物の説明サービスを担わせるような、消費者に害が及ぶようなことは厳しくすべきだと思います。

※1 MLSとは「Multiple Listing Service」の略称。米国各地に地域単位で不動産業者が会員となりシステムによる地域の不動産情報の共有や様々なサービスを提供する会員制組織のことです。米国全土に約770のMLS組織が存在すると言われています(2016年時)

※2 クラブ財。経済学の用語で、会員制の施設など会費を払う会員は共同利用できるが、会費を払わない人は利用できないような財・サービスのこと

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