個人住宅資産の「継承」を目指した活動 住宅遺産トラスト

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今回32号から始まった企画「眼を養う」。「HyAS View」読者の皆様にとって刺激となるような住宅建築、実例を紹介する企画としてこれからの事業に参考となれば、と考えています。時々に集まってくるトピックスを扱う企画ですので掲載内容は多様なものとなる予定です。

建て替え市場の大きさ

大きな枠組みとしての住宅政策は、「フローからストックへ」を掲げ、既存住宅の利活用の推進を図ろうとしていることは周知のとおりです。その中で既存の住宅を手に入れそれを好みに合わせて改修するリフォーム、リノベーション市場への注目も高まってきています。

ところで、直近数か月の住宅建設着工数は連続で前年を下回る弱含みな推移を見せていますが、季節調整済年率換算値でみれば、依然として80万戸を超える大きな市場規模となっています。また、「住宅着工統計による再建築状況の概要(平成24年度分)」によれば、年間9 万戸強の着工は建て替えから発生しており、これは着工数全体の10% 強にあたることがわかります。

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建物の除却、再建築と不動産市場の関係

建て替え事業の中には、たとえ対象の建物(住宅不動産)が名建築であり貴重なストックであったとしても、不動産取引市場での取引のしやすさを優先して建物は除却し、土地として取引市場に出すようなケースも決して少なくはないと思います。いわゆる多くの建築家が丹精を込めて設計し、多くの職人が手間を惜しまず仕事をしたことが一目でわかるような貴重な住宅建築ですら、なくなってしまう可能性があるということです。

こうした背景には何があるのでしょうか。先ほど挙げた不動産取引のしやすさという経済的な合理性はもちろん、実はこうした貴重な住宅建築を住み継ぐ、使い続ける次世代の住まい手の不足という側面も否めません。そこには、単純に数的に不足しているだけではなく、現代の生活に即してゆくためのストックの活用アイデアの不足で住み継げない住宅建築となっているなど、多様な背景が考えられます。

フローからストックへという大方針のもとで、貴重な建築的価値(意匠、由来、など)を持つ住宅建築が、ストックとして価値を発揮し続けるような社会を目指すためには、文化財的な視点で単純に残すことだけを叫んでも経済合理性に阻まれるだけであり、むしろ金融や建築、不動産など様々な観点から使い続けられる(住宅であれば住み続けられる)状況を作り上げることも必要でしょう。

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