少子化問題への提言

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居住の自立を支援することで世帯の形成を後押しする

出生率の高い北欧・西欧諸国において、若者の「居住の自立」を促すエンジンとして、EU諸国に幅広く浸透している「社会住宅」が大きな役割を果たしていることを見逃すことはできません。

社会住宅とは、何らかの形で(部分的にでも)公的な資金が投入されて建設・運営されている住宅のことです。国によって制度や仕組みに違いはあるものの、アフォーダブル(手頃、支出可能)な負担、例えば、所得の少ない人であっても最大で所得の3割ほどの支出によって、その国の国民として恥ずかしくない住居に住むことができる——そのような社会をめざすべきとの考えに則って制度や支援策が設けられています。

日本で社会住宅に相当する存在といえば、まさに公営住宅ということになるでしょう。しかし、こちらは100%公的資金で賄われるため、どうしても供給戸数が限られ、適用に際して優先順位付けがなされることになります。

仮に二十歳そこそこの若者が、「今は親と同居しているが、一人暮らし(居住の自立)を希望している。しかし非正規雇用で収入も低額・不安定なので市営住宅に入居させて欲しい」と役所の窓口に相談に行った場合、母子家庭世帯、高齢者世帯、生活保護受給世帯を差し置いて彼の希望が叶えられる可能性は皆無に近いでしょう。

日本の社会保障費は、国の一般会計予算規模を遙かに超える110兆円という高水準です。「社会保障」とは、疾病・老齢・失業・多子など、広範な困窮原因に対応する公的・社会的サポートを行うのが本旨です。今や高齢者(65歳以上)の割合が4分の1に達しようとする中、「(経済的事情などを考慮せずに)高齢である」ことだけをもって「社会的弱者」と見なし、他世代と比べ消費意欲・ニーズが低いこの層にお金を流し込む格好になっています。社会保障の主旨、世代間公平性、経済合理性など、あらゆる観点から考えて、現在の仕組みを見直すべき時期に来ています。

これまでは若者の支援といえばほとんど就職・就業支援に限られていましたが、欧州の社会住宅に習い、これまで社会保障(高齢者福祉)に割いてきた資金の一部を、「居住の自立」を支援する政策に振り向けるべきだと考えます。

日本だからこそ採りうる有望な施策の一つは、全国にある750万戸もの空き家(固定資産評価を下げるために取り壊されていない、居住困難な物件も含まれているので割り引いて考える必要はありますが)を、若者支援の有効な資源として活用することです。

こうした遊休住宅資産を持つオーナーに、日本の再活性化に寄与するこの試みの意義を理解してもらった上で、廉価な家賃で提供してもらう。行政もコストの一部を負担する。アパート等の集合住宅であれば、清掃・管理業務など、居住する若者自身にも何らかの役務提供を義務づける等々、工夫次第で、公平・公正・持続可能性等に留意しつつ、居住の自立を望む意欲ある若年層を後押しするスキームが考えられるはずです。

これまで遊休・非稼動だったまとまった戸数の住宅が、居住の用に供されるとしたら、リフォームや住設機器など、住宅業界にとっても市場の活性化につながります。

空き家の活用は一例に過ぎません。様々な英知を結集して、若者の「居住の自立」を後押しすること——これが少子化問題の解消・解決という長い道のりのための一丁目一番地であると我々は考えます。

(田畑)

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