空き家の有効活用と歴史的建造物の コンバージョンによる都市再⽣のあり方
〜経営研究会特別補講2015ドイツ・オランダ・イギリス〜

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訪問地レポート2 ベルリン編
歴史的建造物のコンバージョン事例

ベルリンでは、歴史的建造物のコンバージョン事例を2現場視察しました。ドイツでは、歴史的建造物の指定を受けた建物のリフォームに対しては、歴史的な情報を保存するルールが設定されることが特徴です。

1つ目の事例は、メトロポリタンガーデンズ地区にある、1935年にドイツ空軍の施設として建築され、戦後アメリカ統治下には大使館として利用された建物を共同住宅として再生するプロジェクトです。この建物の歴史保存のルールとしてはドイツ空軍の青色を「歴史」として刻むため、窓枠にその青色が採用するというルールが設けられました。プロジェクトによって出来た75㎡の部屋は、2年前に4,300ユーロ/㎡だったものが、直近では5,600ユーロ/㎡まで評価されています。2つ目の事例は、メルツァライ地区のモルト熟成工場です。建物は1880 年代に建てられ、工場としての機能を終えた後しばらく放置されていました。2000年代になって歴史的建造物としての再生要望があがり、住宅へのコンバージョンの計画がスタートしました。ここでも歴史的建造物に対する国の指導が入り、除却した木造建屋のシルエットを壁面に残す、外壁の色を変えない、塔屋を撤去しない等、モルト熟成工場であったことがはっきりと認識できるリフォームが施されました。2年半の工事期間を経て、2009年に120戸50-200㎡のマンションとして再生されました。4年前は取引価格が€80万であったが、現在は€160万と取引価格が向上しています。周辺の住宅地の値上がり幅が40%だったことと比較すると約2.5倍のリターンがあったことになります。これらの事例のように、用途変更とリノベーションを組合せることで、大規模建造物を住宅へ転用することが可能になり、しかも資産価値の面で一般物件より付加価値が得られる可能性が示唆されました。

(ベルリン事例1)(ベルリン事例2)

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訪問地レポート3 アムステルダム編
既存の街並み保全と港湾都市における開発事例の対比

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アムステルダムは、17世紀に世界貿易で繁栄した港湾都市です。現在は人口82万人が居住しており、近年も人口は増加傾向で、それに伴う住宅供給不足が課題の都市です。

市街地では、古くからある倉庫等は運河側のファサードを残しつつ街側を住宅やオフィスビルにリノベーションする活動が盛んに行われています。これにより、歴史的建造物の景観を維持しつつ、用途変更することで住宅を供給することが可能となっています。

一方、港湾部では、周辺地域を埋め立ててアイランドを形成し、新しい住宅地開発がなされています。新しく建てる住宅の高さや外観などに一定のルールが与えられるので、街区として、一体化した美しい街並みの形成に寄与しています。

訪問地レポート4 レッチワース編
ガーデン・シティ・ヘリテージ財団による地域マネジメント

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財団では、開発地域内にある工業地区や商業地区からの地代収入を財源として、地域内の土地や建物の管理を行うことで、地域の環境を保全し調和のとれた住環境を維持しています。こうした環境保全に加え、地域の持続可能性として近年、緑を住宅地に変えて新しいエリアをつくり始めています。緑の減少に心配をしながらも、年齢の若い人や地域の人に限定して販売し、住民の若返りを図ることで地域の持続可能性を高める試みです。このように街の環境保全と居住民の循環により市場価値を押し上げ、地域の資産価値を高める活動は日本の戸建て団地には見られない組織と活動で、郊外に開発された団地の将来に参考となる事例でした。

今回の視察を通し、あらためて日本の直面する課題を解決するヒントが世界各国で実践され成果を上げ始めていることがわかりました。経営者にとって、直近の経営計画を確実に達成することは言うまでもありませんが、それに加えて、今後の地域工務店、不動産会社がなすべきビジネスについて広い視野を持って考えることが重要なのではないでしょうか。引き続き、経営研究会の活動にぜひともご期待ください。

(鵜飼)

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