中古市場の活性化を支える仲介システム
-幸せをもたらす仲介機能とは-

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AMS 経営者サミット(2015年3月26日)における清水教授の講演から

去る4月27日の日経新聞朝刊。その一面のトップに「中古住宅の診断義務化」「不安除き取引促す」という記事が載りました。あるがままの状態で物件を提示、引渡してゆくことが一般的である中古住宅市場にとって、大きな変革の方向性が示されたニュースでありました。このニュースは、不動産取引に関してほんの一部分に関わる話題ではありますが、いずれにしても、不動産事業とりわけ不動産仲介の仕事のあり方、取引における介在価値が大きく変わろうとしていることを理解するには十分なものでした。

その記事のおよそ1ヶ月前の3月26日、AMS経営者サミットが行われました。当日は基調講演として、現在シンガポール国立大学不動産研究センター教授で、ハイアス総研フェローの清水千弘教授にお話をいただきました。基調講演では「大きな変化がおこる時代において、不動産事業者が求められること」を考えるうえで、大変に貴重なヒントが示されました。

今回は、当日のお話から、改めて受け止めておくべきポイントを抜粋してお伝えします。

1. 歪んでいる不動産流通市場

講演では、売り手、買い手そしてその間を取り持つ仲介業者それぞれの「最適行動」が取られる中で、仲介市場は「真の市場価格」が存在しない非効率な市場であることが示されました。そして、「真の市場価格」によって取引が行われる市場の創造にむけ、品質情報や取引価格情報の収集・開示の整備が必要であるというご意見をいただきました。

売り手の最適行動とは、媒介契約体系と業者を選択した上で、業者によって示される参考価格を用いて売り出し価格を決定し、より高く・より早く売却を実現することです。しかし、売り出し物件の品質情報が未整備であることで、競合に比較して高値で設定しすぎて売れるまでの時間が過剰にかかったり、あるいは安値に設定しすぎて受け取るべき利益が減少したり、といったミスプライシングが起こっています。また、買い手の最適行動は、最小費用で最適な物件情報に到達して希望の住宅を手に入れることです。その前提となるのは、十分な量と正確性の高い情報を得ることですが、現実の取引では、開示へのディスインセンティブ(何かを阻害する要因となるもの)が存在したり、実際に探してみて初めてわかる、例えば住環境などの情報があったりすることで、必要充分な量で正確な情報を得ているとは言いがたい状況があります。

このように、売り手、買い手のどちらにとっても、品質が調整された必要充分な情報が生成されない、あるいは伝達されないことで、金銭的あるいは時間的な不利益が住宅消費者に生じているということです。そのような状態を改善するためにも、取引に必要充分な情報が生成され、「真の価格」としてきちんと提供されることが大切であるということをお話しいただきました。

2. マッチング機能の向上が仲介業者の介在価値を向上させる

では、どんな流通市場をつくれば市場を活性化できるのでしょうか。不動産仲介業の流れについて米国市場の例を見ると、その業務工程は何段階かにわかれています。仲介業者の仕事はごく一部で、例えば税務相談は税理士、査定は鑑定士、物件調査はインスペクター、契約締結後の引渡はエスクロー、といった具合にいくつもの専門業者が連携して関与しているのです。では、仲介業者は何をしているのかというと、負っている工程は「マッチング」だけなのです。

一方で、日本の業務工程では、「マッチング」にほとんど時間をかけていません。それどころか、最大6%の手数料を獲得するために、物件調査、契約事務代行、ローン相談、税務相談など多岐にわたる役務をワンストップで提供し、さらにマッチングまでしています。米国の業者が、物件調査や契約事務代行など他の専門業者が行う情報やサービスをうまく使って、マッチングサービスを提供することで6%の手数料を獲得していることと比べ、日本の仲介業者にとっても、生産性を高める伸び代があり、介在価値があるというお話をいただきました。

売り主、買い主の期待を実現する為、関係する専門業者によって生成された情報の収集や、その適時適切な開示、提供を行い、消費者の期待を実現するための「マッチング行動」に時間を配分することによって、対価である手数料はもっといただくことができるはずという指摘は、時代の変化に対応するための方法論として重要な示唆をいただいたと言えます。

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