経営研究会特別補講2016年秋、北米視察報告
~米国の小都市における住宅不動産価値の維持向上とその手法~

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2. 人口4万人の市街地近郊の築100年の住宅が1億円で取引

バーリントン

バーリントンはカナダとの国境近くにある都市で、人口わずか3万9千人程の、日本の地方都市と比べても小さな町です。18世紀後半に市として開かれ、19世紀にはシャンプレイン湖を使った木材などの交易拠点として起こり、その後は製造業の拠点として発展しました。最近は、観光業とコンベンションが重要な位置づけを占めるようになり、製造業に次ぐ重要な産業として成長しているそうです。バーリントンは、アメリカで「住んでみたい都市」としてナンバーワンに選ばれたこともある街です。少し古いですが、1988年には全米市長会議で「人口10万人以下のもっとも活力のある都市」で1位にもなっています。最近では、ニューヨークやボストンの富裕層のリゾート地、別荘地としても人気があり、やはりインバウンドを核とした住宅需要が高い地域です。

こうした人気を作っている重要な仕掛けとして、チャーチストリート・マーケットプレイスの成功があります。車社会に適した都市計画が当たり前の米国において、市街地のメインストリートから車を排除して街の中心に「歩けるサイズの公共空間」を配置することで商業や人の流れを止め、街の活性化と価値の維持を実現しています。1970年代、バーリントンでも郊外にショッピング・モールの計画が起こりましたが、すでにアメリカでは郊外にショッピング・モールが開発されると、それまでの中心市街地の商業空間が壊滅するということは知られていました。バーリントンがあるバーモント州は開発規制が厳しい州で、最終的に計画が実現したのは1990年代に入ってからだったそうです。規制する一方で中心市街地の競争力をつけるため、1981年、中心市街地を歩行者専用道路にしてチャーチストリート・マーケットプレイスにしたというわけです。

バーリントンには大学の街という別の顔があります。そのため、市街地には学生向けのアパートやシェアスタイルの戸建てが多く、一般市民の一戸建ては常に需給バランスがタイトになっています。このような背景もあり、視察で見た物件のうち、築100年、10年前に現代生活に適した大規模改修を施された一戸建てに約1億円の値がつけられていました。周辺で取引されている事例でも同程度で成約が出ているそうです。


バーリントンの物件


バーリントンの物件

視察を終えて

今回のレポートでは、人口10万人、4万人の街でも、すでにある資源を有効活用し街の魅力を高めることで地域の価値を高め、その結果として個別不動産の価値につなげている事例を見聞しました。

翻って、国内の地方創生に関する取組みの中で、地方都市の縮退の理由に人口規模が挙げられる場合もありますが、事例のように都市計画や街の空間資源の使い方の工夫で課題を克服する可能性があります。都市計画や空間資源の工夫はまさに建築や不動産取引を担う産業の専門領域です。自社を含んだ地域産業の未来を考える上でも、このような知見を持つことは必要なことだと実感しました。

(矢部)

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