住宅不動産業界 トップインタビュー〜住宅不動産業における優れた経営品質を追う〜

変革の時代を迎える住宅不動産産業界において、自社の持続的な成長を実現しながら地域社会に貢献する企業となるために、経営者はどのように考えどのような活動方針を持って経営に取り組むべきか。

住宅・不動産業界 ビジョナリー経営

社会に必要とされる会社であり続けることで自らの新たな成長サイクルをつくる。そんな循環環境を社内外につくり出し、あるべき社会像を提唱してゆくことが経営の本質。 長野県・北信商建

北信商建株式会社は1978年に創業、長野県内に8つの住宅展示場を持ち独自の工法で年間200棟近い着工数を続ける地域密着型の住宅会社です。1991年から導入しているオリジナルのFB(Fresh Basic)工法を用いた、健康に優しい高気密・高断熱住宅の建築を展開しています。
今回は今年2018年に3代目として事業を継承した相澤 晴行社長にお話を伺いました。

相澤 晴行北信商建株式会社
代表取締役社長 相澤 晴行 様

お引渡しがスタートラインという発想

事業をしていて自分が思っていることは新築の利益はゼロでもいいのでは、ということです。一般的に企業は売り上げ、収益を求めるのが使命ですからBtoB、BtoCいずれの業態でも経営上どうしても契約に一番プライオリティを置く傾向になりがちです。ですが自分はそれをなんとかしたいのです。新築でお引き渡しした時点で満足していただくのは当然として、そこからいかに満足を膨らませていけるのか。そしてお客様、企業共に新たな成長に繋げていくか。そういう考え方のほうが今の時代に合っていると思っています。
“高断熱高気密のパイオニア”というキャッチコピーを現在弊社では使用していますが、私が物心ついたときに父がプラン用に使用していたエスキース用紙に書いてあった言葉が“家作りから一生のお付き合い”だったことを今でも覚えています。
これを今まさに原点回帰で考え方のベースにしたいのです。
仕事というのは元来お客様の困っていることを解決するためにあるはずです。困りごとを解決してくれてありがとうの意味で頂くのが利益です。そしてその利益をまた新たな問題解決の為の研究開発やサービスに投資していく。そういう考え方で取り組んでいきたいなと思っています。引き渡して終わりではなく、「引渡しがスタートライン」と考え、如何に継続的な関係性を築けるか。という視点を大事にしたいのです。
お客様が会社の一員と考えるのは別の経験にもその理由があります。うちは元々祖父が配管業を営んでいたので、当たり前ですけど土地を扱ったり建物を建築したりという仕事とは縁遠いところからのスタートでした。ですからまさにコツコツと実績を積み上げてきたわけです。北信商建の転機は創業して10年目くらい、オリジナル商品(工法)を開発することになったあたりでした。よく業界紙では数年間で急成長というような目を引くタイトルが踊るのを目にしますが、やはりお客様との関係を蓄積してゆくようなことの方が大事だなと思います。
そしてその関係性のなかにこそ新しいアイディアのヒントがある。
オリジナル工法ができたきっかけも、お客様が困っていることをなんとか解決したいという姿勢と現場の技術的な蓄積が噛み合って生まれたものです。

もう一つの資産である「現場」。価値創造は「現場」から

先ほどの話は、言い換えれば「共存共栄のネットワーク」ともいえます。と同時に「現場の職人さんのネットワークも会社にとって大きな財産」だと思っています。当たり前ですけど、この業界は現場に依存する事が凄く多いです。だからビジネス優先・数字優先でやってしまうと、契約優先で現場が後手後手となってくる。そうなると、例えば契約件数は今年100棟契約できました、よくやった!ということになるわけだけど、契約はもう済んでいますから、現場が何とかその契約に追いつかなくてはいけないっていうことになってしまう。するとどううなるか。、こなすために今まではいなかった不特定多数の職人が現場に入ってくることになります。その職人さんたちはうちの技術がわからない、うちの魂がわからない。そういう人が入ってくることで、一時は伸びるかもしれないけど、結局自分達が想定する性能がでない、自分達が思い描いているお客様との繋がりができてない仕事になってしまうことが想像できます。
今の時代そんな言い方はクサイかもしれないですが、やはり注文住宅でやっているので人間関係を大事にしていかないとその次に繋がらないと思うんです。

「意味のない数字」は嫌いなんです。意味ある数字のカギは「現場生産能力」

だから数字優先でやった結果として仕事をたくさんいただくことになっても、僕はあまり幸せなことだと思わないのです。社員も数字優先になると変な感情を持ちはじめてしまう。数字のための数字、みたいな。その数字に意味のない数字は嫌なんです。
例えば、新しい職人さんにお仕事を依頼するときは、まず弊社の協力業者会に所属している職人さんと仕事をしていただいて、きちんと技術を習得してもらった上で入会してもらいます。そして会に入ってもらったからにはその人たちがきちんと継続的に仕事を発注していくことが会社の責務となり、それがひとつの目標になるのです。おかげさまで年間200棟前後、そういう規模感である意味安定的に供給が続いている訳なのですけれども、それを意味のある数字としてもう少し伸ばせていけるものなのか、それを考えなくてはいけない段階です。その時に重要だと考えていることは、現場の生産能力に着目することです。

意味ある数字のカギは「現場生産能力」

実は僕は前職で22歳位の時から現場監督として働いていました。その頃に職人さんと接するなかで考えていたことと、経営者となって今見ていることは実は何も変わっていないんです。現場監督っていうのは、要は経営者なのだと思っているからです。
受注があってに様々な業者さんにお仕事を依頼して、その上で一棟当たりの利益をあげる。つまり経営を成り立たせないといけない。その際に考えなければならないのは、その一棟のことだけではなく年間を通してどうやってスムーズに工程管理していくのかということです。その長期の計画しだいで年間生産能力は大きく変わります。
例えばある職人さんの施工キャパが月10坪、年間120坪であれば、40坪の家だったら3棟、30坪の家だったら4棟で考えて工程管理をするということになりますが、年間通して計画性をもってやっていけるかどうかで生産能力は大きく変わる。そしてそれは即ち会社の年間施工可能棟数となるのです。
生産能力を上げるということについて少し視点を変えると、何を作るかによって高められるものでもあります。どちらが正しいかという概念論は別として、注文住宅はある意味で「非生産性」を突き詰めた形だと思っています。逆に言えば、生産性を突き詰めていくとそれは規格住宅になるという訳です。
自分が外から弊社に戻ってきて規格住宅をやり始めたのですが、いきなり押し付けてもそれまで注文住宅のみをやってきた人には上手く伝わりません。だから、まずは用意してみる。そしてお客様から選択して頂けたら無理せず経験としての積上げができる。そんな感じで徐々に規格住宅を売り始めてみたら、規格系の販売棟数が2割程になりました。
注文住宅はなんの制約もなく夢をカタチにできる反面見えないものを作っていくという性質上イメージの食い違いや打合せの回数がどうしても増えてしまいがちです。一方企画住宅は出来上がりのイメージや性能などを可視化でき工程管理もスムーズです。互いの特性を理解し、組み合わせていくことで新しい工程管理に行き着いてきた成果として生産性も上がってきたわけです。
生産性=施工可能棟数という必然性と必要性について、いかに自発的にそう思ってもらえるか、という所が大事かなと思います。

必要とされる会社だけが生き残る時代に

必要とされることが大事なのは会社でも同じだと思うんです。例えば可能性としての話ですけど「Amazonビジネス」ができてきて、彼らがBtoCからBtoBに参入し、Amazonが中間流通を仕切るようになると、原材料・部材メーカーは同じプラットフォームに皆が乗せるという可能性も出てきている訳です。そうするとわざわざ相見積を取らなくてもAmazonで買うこと自体が相見積を取る状態になってくる。もっと突き詰めていうと原材料や部材での差別化はもうなくなってくる可能性もあるわけです。その結果、この業界は材料の組み合わせをするだけのアッセンブラーということになる。その市場での競争は今とは又別のものになるのではと思っています。オリジナル商品なんて何もなく、組み合わせや魅せ方の違いしかなくなる訳です。だからこそ自分達のアイデンティティは何なのか、そのアイデンティティに対してお客様にいかに評価して頂けるのかという部分を常に会社の成長の軸にしていかないといけないと考えています。
つまり企業収益の源泉は組み立て工賃とオリジナル技術の技術料の差になり合理的になっていく。それこそお客様にもわかり易くて本当にフェアな競争だと思うのです。私たちは「技術力を軸にする」と決めて、そこでオリジナリティを出していく。例えばC値測定とかは最後の最後に全部仕上がった後にやっています。何か問題があったら直すことも困難ですが、その段階でやることにこそ意味があるのです。そして経年しての性能はどうなのか。10年20年経った後の物件から抽出検査をしてみたこともありますが大きな変化は見られませんでした。
そういう技術力を突き詰めて競争力にしていきたいと思います。

必要とされる会社は常に必要とされる。必要とされるから自分達がやる事が回り回って新たな成長サイクルをつくりまた必要とされる。そういうある種自然界に似たような循環環境を社内外につくり出していくというのは、本質的な経営のポイントだと思うのです。
社会での存在価値を見出し、あるべき社会像を提唱する。一言でいえばそれは企業のロマンです。企業のロマン、企業に関わる全ての人のロマンとそろばんを共存両立させていく。それこそが経営の本質です。その環境を整え社会やお客様から必要とされて成長する。それが真実だと思うのです。

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